新刊書紹介

新刊書紹介

アメリカ特許実務マニュアル −2011年米国特許法改正を踏まえて−

編著 井上 知哉 著
出版元 中央経済社 A5判 320p
発行年月日・価格 2012年6月19日発行 3,400円(税別)

本書は,米国特許実務(プロセキューション業務)に携わる日本企業の知的財産部や特許事務所の方を対象とした書籍である。したがって, 本書は特許法の法解釈のみに関する解説書ではなく,出願・権利化業務を行う上で,米国の考え方に基づいて,実務上どのように応答書面を 作成すればよいか,を中心に解説されている書籍である。

本書の特徴の一つは,2011年9月16日に行われた米国特許法の大改正に対応した内容となっている点である。今回の改正は,プロセキュー ションを行う実務者にとって日ごろの業務に直接関係する部分が多く改正されているため,このような実務書は非常に役立つものと思われ る。特に先願主義への移行に最も影響された102条の改正は,実務者にとってオフィス・アクションへの対応に重要な部分である。施行日 は2013年3月16日後に有効出願日を有する出願に対して適用されるため,まだ実務では対応していないが,施行日以降は,旧法と改正法のい ずれの法律に影響された案件であるのかを把握しておかないと,とてもオフィス・アクションへ太刀打ちできない。本書は,旧法と改正法の 両方について解説されているため,一冊で確認することができるのも特徴となっている。

今回の改正は世界に衝撃をもたらしており,改正法にばかり目がいきがちであるが,ここ数年重要な判決もでており,それに伴うガイドラ インがだされている。そのため審査実務にも影響しているが,これらを取り込んだ書籍はまだ存在していなかった。

先ずはBilski判決後2009年,2010年と相次いで審査ガイドラインがでている。もう一つ重要な判決は,2011年のTherasense判決であり, IDSに関する判断基準が明確化されたことで実務に大きく影響している。どこまでIDSとして提出すべきか,はわかりにくい点であるが,本 書では丁寧に説明されていてわかりやすい。

その他付与後異議申立(Post-grant review),当事者レビュー(Inter parte review)などの改正点についても説明がなされている。

今回の大改正によって,先発明主義と先願主義のそれぞれの影響をうける案件が混在して審査が行われていくことになり,施行日移行の実 務の現場では混乱が予想される。しっかりとした知識を有していないときちんとした審査への対応はできないだろう。そのためにいずれの法 律も確認することができる本書は,実務に役立つ一冊になると思われる。

(紹介者 会誌広報委員  Y.O.)

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特許・商標・不正競争関係訴訟の実務入門

編著 東京弁護士会知的財産権法部 編
牧野 知彦・堀籠 佳典・川田 篤・ 高橋 元弘・杉山 一郎 著
出版元 商事法務 A5判 358p
発行年月日・価格 2012年5月30日発行 4,000円(税別)
今日の企業における知的財産部員にとって,実際の訴訟や判決の内容を理解して自己の業務に役立てることは必須事項といえる。しかし, 一概に判決の内容を理解するといっても,実際にある程度の知財経験がないことにはとても容易なこととは言えない。

これまで一般の読者を対象とした知財の概要書や専門家向けの法律相談的な書籍は多く見られるが,紛争の実体,特に実際の当事者の立場 に立った視点から判決を見て検討していくための書籍はそれほど多くは見られない。また,アップル vs サムソンに挙げられるような知財紛 争が身近な存在となりつつある現代情勢を鑑みると,実際の訴訟実務を理解することは知的財産部員に留まらず,企業人においても大事なこ とであると言えないだろうか。

本書は,平成23年特許法改正の内容を踏まえ,特許・商標・不正競争の紛争類型ごとに仮想事例を挙げ,事件の展開やその過程で必要な書面 等についても詳細に記載された内容となっている。

第1部「特許権侵害訴訟の実務入門」では,事件の端緒から訴訟提起までを権利者・被疑侵害者の両面からの視点で述べ,具体的な対応方 法までを記載している。特に,答弁書の提出時期や作成上の留意点,和解の方法などが挙げられており,実際に訴訟業務を行ったことがない場合であっても実感を伴いながら内容を把握することができる。

第2部「特許審判・審決取消訴訟の実務入門」では,査定系と当事者系の審判について実務上の重要性や留意点,また法改正前後における条 文の読み方や訴状の書面レイアウト等もあるので非常に有益である。

第3部「商標関係訴訟の実務入門」は,第1部・第2部の特許とは異なり,商標関係訴訟独自の特色について触れられている。具体的には, 商標の類否判断,商品・役務の類否などについて仮想事例を挙げて述べられており,不使用取消審判や不正使用取消審判といった商標特有の 審判制度も判決例に触れて解説している。

さらに特許における紛争との相違点が,紛争件数や和解率などの観点からも述べられており,その理由や背景等も把握できる点も実務者にとって嬉しい事項である。また,条文の言葉をそのまま引用しているわけではなく,表や図などを用いて視覚的に内容が把握できる形式で あるため,非常に読みやすい内容となっている。

第4部「不正競争関係訴訟の実務入門」では,特許や商標と同様に仮想事例を挙げ,不正競争防止法特有の内容などについてまとめられてい るため,明快な説明で,実務者にとってよく理解できる内容となっている。

編者らは,読者に対し概説書程度の知識を備えていることを期待し,最低限の自助努力は専門家として当然とし,本書を実務書であると同 時に通過点に過ぎないと述べている。

こうした認識を常に自己の中に持ち,実務家としての立ち位置を明確にしつつ,さらなる自己の成長を行うためにも本書を推薦する。

(紹介者 会誌広報委員 K.O.)

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中国知的財産権契約実務基礎

編著 魏 啓学・陳 傑 著
出版元 発明推進協会 A5判 384p
発行年月日・価格 2012年5月15日発行 3,200円(税別)
日本企業の中国進出は,製造・販売拠点を置くことから始まったが,昨今では研究・開発拠点を置く企業も多数存在しているため,中国知 的財産権に纏わる契約の必要性・重要性は,増大して来ているのではないだろうか。

著者の魏啓学氏,陳傑氏は,長年にわたり中国知的財産権の立法や法改正,出願,ライセンス及び模倣品対策に携わり,中国知的財産権分 野での第一人者である。また,現在では多数の日本企業をクライアントに持つ林達劉グループの法律事務所所長(魏氏),知識産権代理事務 所パートナー弁護士(陳氏)として活躍されており,日本企業の中国ビジネスにおける知的財産権問題にも広く精通されていると聞いてい る。

本書は,両氏の経験を基にして,中国知的財産権に纏わる契約を日本企業の実務担当初心者でも理解し易いように解説している一冊であ る。

本書の構成は以下の通りである。
第1章 中国の知識産権関係契約の概要
第2章 専利又はノウハウに係る知識産権契約
第3章 商標関係知識産権契約
第4章 著作権に係る知識産権契約第5章 その他の知識産権契約類型及び留意点
第6章 契約紛争の解決

中国契約の規範を定めている「合同法」(「契 約法」と和訳される)の解説から始まり,専利 権(特許権,実用新案権,意匠権),ノウハウ, 商標権,著作権に纏わる「技術開発契約」,「譲 渡契約」,「使用許諾契約」が解説され,その他 の契約として,「職務発明契約」,「知識産権担 保契約」,「労働契約(秘密保持契約,競業避止 契約)」の解説が続き,最終章は,「契約紛争の 解決」で締められている。これだけの知的財産 権に係る契約類型を一冊に纏めた書籍は数少な いのではないだろうか。

また,契約毎に契約概要と契約当事者双方の 義務,主要条項,締結時の留意点を述べると共 に中国語と日本語の契約書雛形を列挙している 点で実務者には大変参考になると考える。更に 本書の最大の特徴は,契約毎に実際の紛争裁判 例を掲載し,著者のコメントが述べられている 点である。今現在,紛争に直面していない読者 であっても,契約と具体的な紛争との関係を実 感しながら読み進められるものと考える。

本書は,「中国知的財産権契約実務基礎」の 題名が示す通り,初心者向けに書かれているが, 既に中国で各契約を展開している企業の実務者 にとっても既存契約の検証用として,または具 体的な事例に直面した際の参考本として,一読 をお薦めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 M.N.)

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知財インテリジェンス −知識経済社会を生き抜く基本教養−

編著 玉井 誠一郎 著
出版元 大阪大学出版会 四六判 320p
発行年月日・価格 2012年8月22日発行 2,000円(税別)
本書は,本誌2011年11月号で紹介した「知財 戦略経営概論」の内容をより具体的に解りやす く論説したものである。

知財立国構想が提唱されて10年が経過した が,産業競争力の低下や産業空洞化の加速が止 まらない。本書では,米国のプロパテント政策 と対比してその知財立国構想の問題点を指摘 し,知財に関する誤解や幻想,意識や感度の低 さを問題視している。著者は,知財と商品との 結びつき不足や,知財戦略と事業戦略(経営) と研究開発戦略との連携不足等によって,それ ぞれが乖離しているため,知財が価値を生み出 さない単なるコストとなってしまい,様々なイ ノベーション投資が,ばら撒きや税金の無駄遣 いにしかなっていないと批評している。 また,特許権が訴訟で無効になるのは特許庁 の審査に重大な問題や欠陥があるためであり, この責任は特許庁がとらなければならないとし ている。

更に,特許は発明開示の代償として独占排他 権が付与されるにも関わらず,開示不十分で再 現できないものが存在するが,それは発明の内 容を十分に理解していない弁理士や知財部員が 明細書を作成しているためであるとし,発明内 容を最も理解している発明者本人が明細書を作 成すべきであると提案している。そこで著者は, 技術報告書と明細書の様式に合わせて,発明者 自身が明細書を容易に作成する方法や強いクレ ームの書き方を説明している。これは,知財部員等には耳の痛い内容だが,大手電機メーカー 時代に数百件もの特許出願を行い,発明協会賞 2回を受賞した著者の経験と実績に基づく提案 と言える。

また著者は,これからは,出願件数にノルマ を課すような「管理知財」から脱皮して,利益 を稼ぐ「経営知財」に進化すべきであると提案 し,発明者自身が発明提案から権利消滅までの 知財ライフサイクルを主体的に自らコントロー ルして,知財部員等がそれをサポートする状態 こそが将来のあるべき姿としている。また,知 財保護と言えば,一般に出願による「開示知財」 と考えてしまうが,「守秘知財」を活用するこ とにより,開発投資のかかった貴重な技術情報 のばら撒きを防止すべきであるとしている。

最後に,現在の知財モデルの問題の本質は, 「知財と商品の乖離」であるとして,商品価値 を担保する知財に「知財コード」を与えて,誰 もがその商品に実施されている知財情報を知る ことができる,「知財ブランド構想」と,それ を活用した新しい知財マネジメントモデルが提 案されている。これは,「知財と商品」の結び つきを強化して知財に関する意識や感度を高 め,知財戦略と事業戦略(経営)と研究開発戦 略の三位一体改革を図る狙いといえよう。

本書は,鋭く尖ったコメントが多く,「知財 村の住人」には大変耳の痛い内容もあるが,頷 ける点も多い。また,今後の知財経営に関して も極めて独創的な「知財ブランドモデル」を提 唱しており,現状の知財の問題点やこれからの 知財経営はどうあるべきかを考える教養書とし てお薦めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 K.M.)

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