新刊書紹介

新刊書紹介

実務に役立つ!主要判決がわかる! 中国デザイン関連法

編著 森智香子編著、韓登営、藤本昇、権鮮枝、野村慎一著
出版元 発明推進協会 A5判 418p
発行年月日・価格 2012年2月25日発行 3,500円(税別)

 本書は,中国のデザイン保護に特化した日本語による実務書である。過去日本語での実務書として発行された書籍がないと思われるので, 意匠関連の実務者にとっては教科書的存在となり,とても頼りになる存在である。

さて本書の全体構成を紹介すると以下のとおりである。
1章 調査
2章 出願・権利化
3章 無効審判
4章 意匠の類比判断
5章 意匠権侵害と救済
6章 税関対策(水際取締り)
7章 重要判決・審決事例
8章 意匠権と実施権
9章 職務意匠
10章 中国専利法
11章 専利審査指南(抜粋)
12章 様式・書式サンプル
13章 香港意匠制度の概要
14章 中国著作権法とデザイン
15章 中国不正競争防止法とデザイン
16章 中国商標法とデザイン

1章から9章までは,中国での意匠実務にかかわる内容が全て網羅されている。本書の特徴的なところとして,2章では中国意匠出願に関して,実務で発生しやすい疑問を取り上げ,読者も考えるタイミングが持てるQ&A形式となっている。また図解も多数取り入れているため非常に分かりやすく,確実に身につく。

また,1〜9章(4,7章を除く)では,「一口コメント」が随所に記載されており,中国と日本の制度や考え方の違いが丁寧に説明されていることも実務者にとっては大変参考になる。

7章では,中国での重要判決や審決事例を図解とともに簡潔に分かりやすく説明されており,実務上の判断に役立つものと思われる。

10章では中国専利法の,11章では専利審査指南の抜粋が日本語で掲載されており,本書と法令集の両方を見ながら対応する必要はなく,本書で全てが対応できる。

12章では,中国意匠に関係する様式・書式サンプルが日本語で記載されているので実務者にとっては分かりやすい。

13章では,英文ではあるものの,中国本土と異なる香港の意匠制度の概要についても触れられている。

14〜16章では,意匠に関わる周辺法までも親切に記載されていることはありがたい。

紹介者の私は意匠の実務経験はないが,本書を読んで中国の意匠制度が理解できた気分でいるということは,それだけ本書の完成度が高いと言えるのではないだろうか。

意匠実務者やこれから学ぼうとしている方にぜひ読んでいただきたい1冊である。

(紹介者 会誌広報委員 H.M.)

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これだけは知っておきたい英文ライセンス契約実務の基礎知識

編著 小高 壽一著
出版元 民事法研究会 A5判 291p
発行年月日・価格 2012年2月25日発行 2,700円(税別)

「これだけは知っておきたい英文ライセンス契約実務の基礎知識」との表題が示す通り,初心者が理解しやすいように丁寧に解説されている。英文契約を締結する場合,ともすれば各条項の意味を理解することのみに目を向けがちだが,その前提として大切なのは,契約の背景にある考え方や法的な枠組みへの理解であることはいうまでもない。グローバル化した現在の情勢において,自社だけではなく契約のパートナーも満足でき,疑義のない契約とするためには,契約条項のみの調整では,十分ではなく,本書が説くように相互の背景を理解することが必須であろう。

本書は2部構成として,第1部では,大陸法と英米法の違いや各国の法制,契約にあたっての心構え等を解説することで,実際の契約文例を検討する前に基礎知識を得ることができる。

特に,初めて英文の契約を目にした際にはその長さや細かさに驚いた経験をお持ちの方も多いかと思うが,日本とはことなり,そのような契約が必要とされる背景を解説されているため「食わず嫌い」に陥ることなく,第2部へと進むことができた。

第2部では実際の契約文例を用い,契約書独特の英語表現,各条項が持つ意味について具体的に解説を加えている。各契約条項は,英文で半ページ程度,長くても1ページ程度に区切って取り上げられているので,いきなり長文の英文を示されるより抵抗が少ない。また,訳文に加え,注意すべき表現への解説が手厚くなされているため,大学等で講義を受けているような感覚で読み進め,順を追って理解を積み上げることができるだろう。

本編はもちろんだが,巻末の英文および和文の事項索引が実用的であると感じた。本書でも何度も述べられているように,英文契約には独特の表現や単語の意味があるため,実際に英文契約を検討する際には,通常の辞書で対応するのは効率的ではないだろう。また,十分な経験を積むまでは,自らの理解が正しいことの裏づけが欲しいと感じることがあるのではないだろうか。巻末の索引があることで,効率的に本文を参照できる。辞書のように使用可能な本書はいざという時に頼れる一冊といえそうである。

英語が苦手であればもちろん,会話や海外の文献等を読むことには支障がない方でも,厳密な理解が求められる契約書となると抵抗を覚える方は多いのではないだろうか。契約書の独特な表現や相互の文化的な違い等を真に理解するには,多くの実例に接することに勝るものはないだろうが,本書は初めて実務で英文の契約書に接する前の予習として,最適であり,また,ある程度実務をこなしていても,ふと生じる疑問に対する答えを探す際にも,有効と思われる。

読み終えた後,英文の契約への抵抗感が減じているのを感じた。著者自身が中級向けと紹介している「英文ライセンス契約実務マニュアル」 にもぜひ,挑戦してみたいと思う。

(紹介者 会誌広報委員 Y.Y.)

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改訂3版 シミュレーション特許侵害訴訟

編著 井原友己、久世勝之、岩坪哲、井上裕史 著
出版元 経済産業調査会 A5判 470p
発行年月日・価格 2012年3月19日発行 3,800円(税別)

本書は,架空の特許権侵害訴訟事件をシミュレーションし,被疑侵害品発見時(本シミュレーションでは特許登録前と設定され,特許庁への対応も解説されている)から地裁判決・控訴時に至るまでを時系列になぞって解説している。本書は,2005年に第2版が発行されているが,実務上の変更点や平成23年度改正が反映され,一部データの更新もされている。尚,平成23年度改正については,一章を割いて概説が述べられている。

本書の構成は,被疑侵害品の発見時,提訴前の当事者間のやりとり,提訴時,第1回口頭弁論,判決,控訴時など,事件を各フェーズに分けて,そのフェーズごとに,シミュレーション部分(会話形式のくだけた表現が用いられており読みやすい)とその解説部分が設けられる形で構成されている。紹介者は幸か不幸か,これまで侵害裁判を経験していないが,そのような素人でも,裁判前および裁判手続きがどのように進行していくか分かりやすかった。

裁判というと,アメリカの法廷ドラマのような劇場型の展開を予想される方もいるかもしれないが,日本での知財訴訟はそれとは程遠い。本シミュレーションでも,訴状・答弁書・準備書面等は書面でのやり取りであり,例えば,訴状などについても口頭弁論当日の原告・被告側のやりとりは「陳述します。」と言うだけでのことが多いそうである。その他,法廷でのやり取り及び原告側・被告側の会社担当者と代理人弁護士・弁理士との打合せでのやり取りが詳述されており,知財権紛争の始めから終わりまでを仮想体験することができる点で他の解説書とは一線を画する。

資料編では,原告・被告が用意した証拠(甲○号証とか)が添付されているが,知財権侵害訴訟でどのような資料が必要なのかが分かって興味深かった。

また,地裁で敗訴した側にとって,知財高裁で逆転する率がどの位あるかは非常に興味があると思われるので,次回の改訂では,是非,地裁の判決が知財高裁で覆される割合を追加していただけると有り難い。

それにしても,知財権侵害裁判での当事者の負担の大きさに改めて脅威を覚えた。知財経験豊富な先輩が「上手い裁判より下手な和解」と言ったのも頷ける。他人の特許を侵害するのはコンプライアンス上の問題も発生するが,まずは「割に合わない」ことを学ぶためにも,本書の解説の内容はためになると感じ,一読を勧めるものである。

(紹介者 会誌広報委員 N.I)

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