新刊書紹介

新刊書紹介

通商産業政策史 11 知的財産政策 1980−2000

編著 通商産業政策史編纂委員会 編
中山 信弘 編著
出版元 経済産業調査会 A5判 560p
発行年月日・価格 2011年10月17日発行 7,500円(税別)

 条約や協定,法改正の内容を理解しておくことは知財担当者にとって重要なことはいうまでもないが,その背景や経緯を知っておくことも 大切である。明治18年(1885年)に特許制度が導入され日本の産業の発達に寄与してきたことは,知財担当者なら周知のことであろう。しか し,その後の変化と背景を連続的に考えてみたことはあるだろうか。一定の期間を一区切りとして振り返り当時見えなかったものも含めて見 直すと,知財界の動きについて理解が深まることがある。

本書は,通商産業政策史全12巻のうち,著作権法や不正競争防止法を含む知的財産政策について記述したものである。1980年から2000年に 焦点を当ててまとめられたものであるが,その前後についても述べられている。この20年間は産業が急速に発展し,知的財産もこの変化に大き な影響を与えた。この時期の特許出願件数の急増,電子化対応,各国制度との調和の結果と,その背景にある国益をかけた各国のぶつかり合いな どについて,本書は分かりやすく説明している。

1985年ヤングレポートで有名なレーガン政権下で米国が取った競争力回復戦略は,知的財産戦略が国家にとって重要な戦略の一つであるこ とを示した。日本でもプロパテント政策として,特許出願件数の急増,審査の迅速化に手が打たれ,「強い保護」や経済のグローバル化を背景 に,知的財産を権利として保護するだけではなく,「知的創造サイクル」を早く大きく回転させることで産業全体のイノベーションを加速す る政策が講じられるようになった。

GATTウルグアイ・ラウンドを経て1995年にはTRIPS協定が発効された。GATTには経済制裁があり米国は巨大な市場を開放しているた め,自国に不利益をもたらす違反に対しては経済制裁を効果的に行える立場にある。このため,米国市場に参入し始めていた新興工業国は,米 国がGATTのルールを離れて保護主義に走ることを恐れ合意した。このように,この時期に各国が抱えていた問題点や背景が分かってくる とおもしろい。産業財産権制度の国際化への対応の中で,日本は各国産業財産制度との調和,共通化に積極的に参画した。

出願件数増加による特許審査の遅れは米国から貿易問題としての指摘を受け,審査の迅速化が内外から求められるようになったため,知的 財産制度の運営基盤も整備された。コンピュータシステムの導入と拡充により業務の機械化が進み,1990年には特許・実用新案のオンライン 出願ができるようになった。電子化対応の動きは当時のコンピュータの普及による環境変化と併せて考えると分かり易い。審査基準の整備や 方式審査基準の策定,非特許文献のデータベース化等の審査資料の整備も行われた。

以上のように,1980年から2000年の20年間は,100年以上の知的財産制度の歴史の中で大改革が実行され,国家戦略としての知的財産政策の重要 性が飛躍的に高まった時期であることが分かる。

自分が知っている点を中心に読み広げていったり,本書を手元において,話題に触れる度に関連する項目を読んだりすることで,より理解 が深まると思う。

(紹介者 会誌広報委員 K.N.)

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著作権法論点データベース

編著 山本 建 著
出版元 経済産業調査会 A5判 420p
発行年月日・価格 2012年1月26日発行 3,800円(税別)

紹介者は,著作権法については弁理士試験勉強の一環でかじった程度の知識しか持たないが,本書は著作権法の論点132項目が要領よく まとめられ,それぞれについての各学説(肯定説,否定説,等)が要約されており,分かりやすかった。

また,各論点は☆☆☆〜☆までの3段階に分けられ,それぞれ「多数の基本書で紹介されている論点」「主な基本書で紹介されている論点」 「その他の基本書で紹介されている論点」(本文ママ)と位置付けられており,優先順位を付けて学習することもできる。更に,各論点は1〜 4ページで区切りがついているため,まとまった時間が取れなくとも,ちょっと時間があるときに切りの良い所まで少しずつ読み進めること ができたので,時間のない人でもさほど苦痛なく読み進められるだろう。

本書中の論点には自分の会社で問題になり悩んだことがある項目もあり,コンテンツ関係の実務に携わっている実務者が限られた時間で悩 ましい問題を解決しようという時に,非常に参考になると思われる。

本書中の論点の中には判例が定まっていないか,そもそも充分な判例が出ていない論点も多く,実務でそういった問題に遭遇した場合には, 攻防共に,各論の説くところを援用して理論武装し紛争に臨むことができると思われる。

巻末に現行の著作権法(平成21年改正法)と年代順の判例一覧が掲載されており,インデックスとして参考になる。ただし,著作権法は改 正が頻繁にあるので,その時その時で最新の情報をチェックする必要があると思われる。

全体を通して見ると,各学説を唱えた諸先生方が著作権を創作物の権利としてとらえているか,財産物の権利としてとらえているかによ って論点へのアプローチが大別されており,興味深かった。基本書を読み進めるのは予備知識が相当ないと困難を覚えるので,手軽に色々な 学説の内容を知るには最適ではなかろうかと思う。よって,一読を勧めるものである。

(紹介者 会誌広報委員 N.I.)

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グローバルビジネス戦略

編著 渡部 俊也 編
元橋 一之,新宅 純二郎,小川 紘一,立本 博文,富田 純一 著
出版元 白桃書房 A5判 210P
発行年月日・価格 2011年11月16日発行 2,500円(税別)

 本書は,「東京大学知的資産経営総括寄付講座シリーズ」全3巻のうちの第2巻であり,技術や知財等の知的資産を競争力と収益に転換す るうえで不可欠となる,グローバルビジネスにおける幅広い主題についてまとめられている。

海外でのビジネスを展開していく上で,日本企業はどのように知財マネジメントを行い,企業収益に結びつけるのか,について各章毎に複 数の著者が論じている。

第1章の「技術で新興国市場を開拓する−日本企業の実態と今後の戦略−」(元橋著)では,新興国における研究開発拠点に焦点を当て,国 際化に関するいくつかの理論を論じている。具体例として中国における状況について説明している。「リバースイノベーション」(新興国発の 製品が本国に逆戻りするビジネスモデル)についても説明がなされており,日本企業は世界的に広げたマネジメントスタイルを目指すことが 重要であると説いている。

第2章の「大学がリードする中国イノベーションシステム−清華大学サイエンスパークのケーススタディ−」(元橋著)では,地域技術と 経済の発展を促す中国におけるサイエンスパークについて解説している。

第3章の「新興国市場開拓に向けた日本企業の課題と戦略」(新宅著)では,巨大マーケットになりうる新興国市場で成功していない日本 企業の課題は「過剰品質」であると指摘し,新興国の市場をよく理解した上で,技術,製造,販売を統一したビジネスモデルの構築が必要で あると説いている。

第4章の「グローバル市場獲得のための国際標準化とビジネスモデル」(立本,小川,新宅著)では,国際標準化がグローバルビジネスに及ぼ す影響として,先進国と新興国との間の国際分業があると指摘している。標準普及プロセスでは,オープン領域とクローズド領域で付加価値 分布や分業構造の変化がもたらされ,クローズド領域では先進国企業が競争力を発揮しやすい一方,オープン領域では新興国が強みを発揮す る。パソコンやDVDでの事例を挙げて,日本企業がグローバル構造を把握し,自ら生き残るビジネスモデルを構築することを論じている。

第5章の「国際標準と比較優位の国際分業,経済成長」(小川著)では,前章に引き続き,標準化の具体的な議論がなされている。 最後の第6章の「ドイツにみる産業政策と太陽光発電産業の興隆−欧州産業政策と国家特殊優位−」(富田,立本,新宅,小川著)では, 太陽光発電産業で急成長を挙げた要因として産業政策があったことを説明している。

昨今の知財戦略のグローバル化を説く著者らグループによる大変興味深い著作になっている。企業で知財を扱っている人材は,いままで は特許の新規出願,中間処理だけやっていればよかったが,近年知財マンに求められるスキルは大きく変わろうとしている。ただ漠然と特許 出願をしていてはこれからのグローバル競争には生き残れないであろう。本著は,グローバルな視点の知財戦略を身につける一助となりうる 書籍と思われる。

(紹介者 会誌広報委員 Y.O)

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企業秘密防衛の理論と実務〔第5版〕

編著 長内 健 著
出版元 民事法研究会 A5判 432p
発行年月日・価格 2011年 12月10日発行 3,600円( 税別)

戦国時代あるいは幕藩体制の時代には,秘密は命と引き換えに守られた。武力闘争で勝利するための秘密は言うに及ばず,藩の特産品の技 術を秘匿するような時にも命が犠牲になった。

本書では,このような事例をふんだんに盛り込みながら解説が進む。現代においても機密情報が重視されることは間違いない。営業秘密は企 業の生命線だからである。

本書は営業秘密保護のための不正競争防止法について詳解している。前半では,立法趣旨,立法意図という点にかなりの重きがおかれてい る。「法令ニュース」誌での著者と編集長の営業秘密管理に関する対談が引用されているが,その内容から,当時の立法背景等を垣間見るこ とができる。20年以上前の対談だが,社内の人間からの機密漏えい防止こそ注意すべきとの指摘や,特許出願するかノウハウで秘匿するかは 企業の戦略,などに言及されており,未だに同様のことが繰り返し言われていることに驚かされ,著者の達観に感心するばかりである。

もちろん,営業秘密保護に関する不正競争防止法についても,逐条解説に十分な紙面が割かれている。第3部からの解説は,民法や独禁法, 知的財産権法との関連から始まる。本論では,営業秘密として保護されるためには,秘密管理性,有用性,非公知性を備えていることが必要であることが繰り返し説明される。ここは判例をあげながら解説がされているため理解しやすいだろう。

注目すべきは第4部である。リスク管理体制をいかにすべきかについて,労務管理の観点から詳しく記述されている。結局,秘密を守るの は「人」であり,「人」に対して秘密管理義務を強制する一方で,義務遂行に対する優遇措置も考慮することが重要なのである。

巻末には実に約100ページにおよぶ参考資料が添付されている。不正競争防止法条文,判例一覧はもちろんのこと,就業規則例,社内向け 営業秘密照会書,秘密保持契約例等々に及ぶ,類書には見られない豊富な資料が用意されている。契約例には条文提示にとどまらず,条文に 対する解説まで付されている。

ところで紹介者はつい最近まで,不正競争防止法は全22条だと思っていたが,本稿執筆時点では31条にまで増えている。法改正は,世間の 不正競争に対する意識の高まり,危機感の反映と考えられ,この法律がいかに重要視されているかが,条文数の変遷からもおわかりいただけ るだろう。

あらためて営業秘密の重要性をかみしめ,業務に臨みたい。多くのビジネスマンにおすすめしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 A.N.)

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