新刊書紹介

新刊書紹介

新・不正競争防止法概説

編著 小野 昌延・松村 信夫 著
出版元 青林書院 A5判 728p
発行年月日・価格 2011年4月8日発行 7,200円(税別)

 不正競争防止法は全22条の比較的短い法律である。その「概説」が700ページ近い分厚い本かと一見したときにげんなりする向きもあるとは思われる。しかし,小見出しが豊富にあり,まとまった時間が取れなくとも,ちょっと時間があるときに切りの良い所まで少しずつ読み進めることができたので,さほどの困難は感じなかった。
 本書は,不正競業法自体の歴史的経緯について一通り概説し,不正競争防止法の沿革を述べた後,商品主体等混同行為,著名表示の冒用,商品形態模倣行為,営業秘密に係る不正行為,原産地・質量等誤認惹起行為,営業誹謗行為などの不正競争行為の類型(2条1項)について,各条項の制定のいきさつ,歴史的経緯を述べ,趣旨・条文などを必要に応じて分説した上で,蓄積されてきた判例の概要を述べ,また,必要に応じて図表を添付している。更に,適用除外(19条)など不正競争行為とならない行為,民事的・刑事的救済とそのための特則(5条など)について,各条項の制定のいきさつ,立法者の意図,判例のあるものについては判例の概要を述べており,本書一冊で不正競争防止法については一通り分かる構成になっている。
 古くからある条項(2条1項1号,2号,3号など)については分厚い判例の紹介によって不正競争行為の外延がつかめるようになっている。また,近年になって他の知的財産権法に準じて制定された条項(10条(秘密保持命令)など)については,それらの法律に関する判例も記載され,不正競争防止法における判例の蓄積のなさを少しでもカバーする配慮がなされている。
 会社に一冊置いて事典として用いてもいいだろうし,個人として学ぼうとする人が備えても急がば回れで結果として早く不正競争防止法を学べるので,コストパフォーマンスとして決して悪くないと思われる。
 本書を一冊本棚に入れておけば,不正競争防止法について分からないことを字引きのようにして使えるので本当に便利で,お勧めできる。

(紹介者 会誌広報委員 N.I.)

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インド特許法と実務

編著 シャラート ヴァデーラ,コロネル クリシャン ラール ヴァデーラ著
高橋雄一郎,望月尚子,北島志保 訳
出版元 経済産業調査会 A5判 540p
発行年月日・価格 2011年3月25日発行 5,400円(税別)

 世界的に注目を浴びるインド。生産拠点として,また,大市場として投資が活発になされ,インフラ整備も急ピッチで進んでいると聞く。世界最大規模の民主主義国であり,近い将来,人口は中国を凌駕し,世界一に達するとも言われている。WTOの加盟国でもあり,TRIPS協定にそった知的財産制度整備についても熱い視線が注がれている。
 一般書店で販売されている書籍で,インド特許のみを取り上げたものは,これまでほとんど無かったのではなかろうか。待望の出版である。
 本書の構成は,インド国情の解説から始まり,法制度,裁判制度と続く。インドの特許庁は,おおまかに言えば,ほぼ菱形の国土の角に4箇所存在し,それぞれ担当する技術分野がある。本書のタイトルの通り,特許制度,出願実務に関して特許法条文を踏まえ詳細に説明されている。さらに,なにが侵害行為にあたるか,また,実際の侵害訴訟例についての解説もなされている。
 特許出願時にポイントとなる新規性要件,進歩性要件や,翻訳,審査請求手続き等に関して,インド,欧州,日本,米国の簡単な比較表も掲載され,理解の手助けになろう。末尾には特許法,特許規則の記載もなされ,本書のみで条文を確認しながら読むことができる。ライセンス契約書文例まで載っており,著者の様々な情報を盛り込もうとしている姿勢がよくわかる。
 さらに,インドが注目しているバイオテクノロジー分野,ソフトウェア分野については,専門分野として特別に章を割き,具体的な解説がなされている。医薬製造拠点として,またITの拠点として,この国が注目を浴びていることは誰もが認めるところであろう。
 本書を読んでインド特許制度で特徴的と思えたのは,例えば,仮明細書と付与前後の異議申し立て制度である。仮明細書はアメリカの仮出願に類似する制度と思われるが,インド特許法条文では,仮明細書に対する完全明細書の表現が頻出する。異議申し立てにおいては,著者によれば世界のどの国とも全く異なるとのことである。その他にも読者によって様々な発見があるだろう。詳細は是非本書を手にとって確認されたい。
 多くの情報が盛り込まれている上,翻訳の文章ということもあり,読解には時間がかかるかもしれないが,インド特許法を概観し,基礎知識を得るには適している。本書から発展し,さらにさまざまな文献,情報も参考にされ,インド特許について理解を一層深めていただければと思う。  

 

(紹介者 会誌広報委員 A.N.)

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権利行使を考慮した特許出願の戦略的中間手続

編著 大貫 進介 著
出版元 発明協会 A5判 248p
発行年月日・価格 2011年4月1日発行 3,200円(税別)

 中間処理は毎日のように行わなければならない業務であり,権利範囲を決める重要な作業である。
 著者は長年発明の発掘から出願権利化,無効主張に対する防御,ライセンシング,侵害訴訟等の権利行使の各段階の特許業務に携わってきており,本書はその間に蓄積してきた中間処理における補正書,意見書に関する各種戦術をまとめたものとなっている。著者は「まえがき」において,「具体的な戦術をもたなければ戦略を実行に移せないし,個々の戦術を知らなければ実行可能な有効な戦略を構築することもできない」と述べている。つまり,特許実務者は様々な場面を想定した補正書,意見書の記載方法を身につけ,たくさんの引き出しの中から取捨選択して対応する必要があると説いている。
 本書では,特許を知らない者が初めて中間処理に携わってもいいように,中間処理において必要な特許法の解説,審査基準の説明も加えられている。ある程度中間処理に携わっている者にとっては,読み飛ばしていいだろう。本書の構成は大きく「拒絶理由通知への対応」(第2部)と「補正及び分割出願」(第3部)に分かれている。
 「拒絶理由通知への対応」(第2部)では,審査,審判における拒絶理由である新規性(29条1項各号),進歩性(29条2項),明細書等の記載不備(36条),発明の単一性(39条),産業上利用性(29条1項柱書),先後願(39条),拡大された先願(29条の2)について,それぞれ具体的な記載例を挙げて説明がなされている。最も参考になるところは,戦略的でない意見書,補正書の例を挙げて,よくない点について論理的に説明がなされている点である。これに対して,戦略的な意見書,補正書はどのようにあるべきか,留意すべき点はなにか,権利行使を考慮し,不要な限定にならないような意見書,補正書はどのようにあるべきか,についても詳しく説明がなされている。本書全体の約7割がこの「拒絶理由通知への対応」の解説に割かれている。
 「補正及び分割出願」(第3部)では,補正(17条の2)と分割出願(44条)について解説されている。補正では,やはり2007年4月1日以降の出願に適用される技術的特徴を変更する補正の禁止に対する対応が注目すべき点であろう。この条文が適用される出願の審査は,まだ数が少なく,これからの審査において多く見られることになると思われる。従って,実務担当者の経験値が低いこの応答に対して,どのような留意点があり,対応策があるか,といったところは参考になるのではないだろうか。
 実務担当者にとって,補正書,意見書の記載方法について数多くの戦術を持っておくことは重要であり,それらは日ごろの業務の中である程度は認識していることであるが,自分の中で整理され使える状態になるまでは長年の経験を必要とするだろう。補正書,意見書の記載方法についての種々戦術が整理された本書は,スキル向上に要する時間を短縮するとともに,さらなるレベルアップにも繋がることと思われ,是非机の上に常時置いておきたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 Y.O)

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