新刊書紹介

新刊書紹介

女子大生マイの特許ファイル

編著 稲森 謙太郎 著
出版元 楽工社 四六並 352p
発行年月日・価格 2010年12月3日発行 1,800円(税別)

 初めて書店でこの本を目にしたときは表紙の絵を見て,手に取るのを少しためらった。いいオヤジが何を見ているのか,と周囲の人は思うかもしれない。勇気を持って本書を取り上げて,パラパラとめくってみると,目次部分だけみても,結構楽しめそうに思えた。有名タレントや,某国の総理,はたまたニュースで取り上げられた団体,iPS細胞等々にまつわる出願など,身近な事例が豊富に取り上げられている。公序良俗違反,永久機関の出願も取り上げられている。
 とっても積極的な大学生のマイちゃんが,特許事務所でバイトしながら,弁理士の先生のアドバイスを受けつつ,おとなしいユウ君からの情報も時折得ながら,特許について学んでいくストーリーである。マイちゃんのお姉さんも登場する。こう書くと簡単そうに聞こえるが,内容はかなり豊富であり,結構ハードである。特許出願から拒絶理由対応,権利化,無効審判,外国出願までと,特許に関する一通りの流れがカバーされ範囲は広い。ストーリーの合間に詳細な解説もなされており,随所に図面,実際の公報フロントページなども掲載され,かなり親切な説明が心がけられている。また,可能な限り,出願人に連絡をとっているようで,出願の趣旨,意図なども確認されているところはさすがジャーナリスト。ここまでするとは,といった感じである。
 著者の経歴も興味深い。弁理士ほか米国公認会計士の資格も持つジャーナリストである。元来が,工学修士とのことであり,種々の情報に裏付けられたかっちりとした内容はその経歴とも大いに関連すると思われる。
 業務中にはなかなかこのような内容を見ることはない方が大半だろう。一度手にとられてみてはいかがだろうか。こんな出願も世の中にはあるのか,と好奇心がそそられる内容が盛りだくさんである。知財関連業務のベテランでも興味の赴くままに読み進めること請け合いである。
 また,新入部員教育にも持ってこいである。300ページ超を完読する宿題である。あっさり読めるのか,あるいはなかなか読めないのか,ハタからその様子を見ているのもおもしろいかもしれない。新入部員が来ないか,と待ち遠しい。

(紹介者 会誌広報委員 A.N.)

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Q&A著作権法−実務経験に基づく重要事例108−

編著 鈴木 基宏 著
出版元 青林書院 A5判 435p
発行年月日・価格 2011年1月15日発行 3,900円(税別)

 本や雑誌,音楽,絵画,写真,テレビに映画。私たちの身のまわりはたくさんの著作物であふれています。また最近ではパソコンやインターネットを利用して音楽や書籍を購入したり,自分でホームページやブログを作成したりされている方も多いことでしょう。近年の技術の進歩により,著作物の作成,入手,加工,コピーなどが一般の方にもますます手軽に行えるようになっています。
 一方,上記のように著作物には多くの種類のものが含まれ,また一口に著作権と言っても,複製権をはじめとする支分権や著作者人格権などの様々な内容の権利が存在します。さらに,著作権法では,これらの権利とともに,私的使用のための複製など,著作権が制限される多くの行為についても規定されています。
 このように著作権法の内容は非常に複雑であり,日々の仕事や生活においてどのような行為が著作権法上問題となるのか否か,十分に理解されていない方も多いことと思います。

 本書は,日々の仕事や生活の上で生じる著作権法上の様々な疑問点や問題点について,具体的な事例とその回答を示すとともに,その事例に関連する論点や条文について分かり易く解説するものです。

 表題にあるように本書では108もの事例が取り上げられ,著作物,著作者,著作権・著作者人格権の内容,権利制限,著作物の利用許諾,著作権の移転,著作権侵害,刑事罰に至るまで,著作権法に関するほぼ全ての論点がカバーされています。

 会社や家庭で本書を一冊備えておけば,仕事や生活の中で著作権法上の疑問や問題が生じたときに,本書で取り上げられた事例を参考にすることによって解決の糸口を見つけることもできるでしょう。
 また,本書はいわゆるQ&A本でありながらも関連する各論点や条文,参考判例についての解説が大変充実しており,かつ分かり易く,これから著作権法を勉強される方や,弁理士試験などの資格試験を受験される方にとって,著作権法のテキストとして十分活用できるものと思います。
 本書の事例はいずれも著者の実務経験に基づくものであるため,身近で一般の方にも分かり易い事例も多く,Q&Aの部分を読むだけでも十分に楽しめます。本書を読めば,「こんな行為が著作権法違反だったの?」と意外な発見があるかもしれません。

(紹介者 会誌広報委員 K.H)

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テーマ別 重要特許判例解説

編著 塚原 朋一 監修・著
阿部 寛,池田 正人,城戸 博兒 著
出版元 日本評論社 A5判 264p
発行年月日・価格 2010年12月10日発行 2,800円(税別)

 近年の知財高裁判決の中で特に重要な判決を中心に,体系的に,且つ,非常に理解し易く纏められている良書である。
 特許制度の根幹をなす進歩性の解釈についての判決に重点をおき,進歩性判断の重要な要素である,発明の認定,引用発明の認定,動機づけ,後知恵,阻害要因等についての判断が俯瞰できる内容となっている。また,パラメータ発明のサポート要件,実施可能要件等を中心に,明細書等の記載要件の判断について,近年の裁判所の判断を理解できる。さらに,新規性,拡大先願,先願,補正と訂正,発明の成立性,分割出願の要件,特許権の存続期間の延長登録出願,共同出願,冒認出願など,特許出願業務に携わる全ての方にとって,必須の知識も体系的に纏められており,一通りの重要特許判決について整理・学習できる内容になっている。
 各章ごとの冒頭においては,「概説」としてその章が対象としている特許要件等について,審査基準をベースとした一般的な判断基準のエッセンスが詰め込まれている。審査基準を読んだことのない方であっても「概説」から読むことにより予備知識を得ることができるため,本著は初学者にも重宝されるものであろう。
 各論においては,本件発明と引用例についての図面による解説が充実しているため,発明のサブジェクトマターを理解しやすい。また,「審決の結論」と「裁判所の判断」がコンパクトに纏められており,非常に読みやすい。さらに,「考察」において,何故その判断となったのかについての解説,射程,今後の指針について述べられており,判決例の勉強のみならず,その判決例の実務への応用にも役立つように配慮されている。
 本著は,特許実務家必携の書籍であり,また,今後特許実務に携わろうとする方が判例の勉強を始めるにあたり最初に読むべき書籍としても,筆頭に挙げて差し支えない。

(紹介者 会誌広報委員 K.S.)

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