新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産法の新しい流れ−片山英二先生還暦記念論文集−

編著 片山英二先生還暦記念論文集発起人 編
出版元 青林書院 A5判 708p
発行年月日・価格 2010年11月28日発行 8,000円(税別)

 本書は,長年に亘って知的財産の分野を牽引してこられ,また,現在も精力的にご活躍されている片山英二先生の還暦を祝賀して刊行された還暦記念論文集である。

 本書には,知的財産分野において,日本及び外国の第一線で活躍されている著名な学者,判事,弁護士,弁理士,特許庁審判官,企業実務家らによる38の論文が寄稿されている。どのテーマも深く掘り下げられて論じられており,興味深く読むことができる。また,論文集であるため,本書全体として一つのテーマを取り扱っているのではなく,論文一編ごとに内容が完結する。それゆえ,自分の興味のあるテーマから読み進めることもできるし,また,関連するテーマを論じた論文をまとめて読むことでより理解を深めることも可能である。例えば,本書に掲載されているテーマのうち,発明の進歩性については,「発明の進歩性−その法理と比較法的考察」の中で,進歩性判断のかぎとなる,「当業者」,「技術の現状」,及び「容易想到性」の概念につき,外国の裁判例や考え方と我が国の場合とを比較して論じられている。
 発明の進歩性に関連して,「特許の進歩性判断の構造について」や「特許法における技術常識の意義」と題する論文も掲載されており,これらの論文をまとめて読むことで,進歩性に関連する事項の理解がより深まる。
 また,クレーム解釈については,以下の3論文:
・「 特許出願に係る発明の要旨認定とクレーム解釈について」
・「 特許侵害訴訟における無効の抗弁でのクレーム解釈と侵害論でのクレーム解釈との関係」及び
・「クレーム解釈の将来」
をまとめて読むことをお薦めする。

 そのほか,職務発明,発明者の認定,ベストモード要件,医薬品産業におけるイノベーション,日本とドイツにおける侵害訴訟,著作権に関連するテーマなど,さまざまなテーマが取り上げられている。

 上述のように,本書には知的財産分野の最新のテーマに関する論文が豊富であり,実務家にとっては,これらテーマの論点を理解し,考えるのにとても役立つと思われる。また,若き日の片山先生の話題も書かれており,この点も興味深い。
 実務家のみならず,知的財産に関連する仕事,研究をしている方々に是非ともお薦めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 S.K.)

新刊書紹介

出願人のための特許協力条約(PCT)改訂版

編著 下道 晶久 著
出版元 発明協会 A5判 675p
発行年月日・価格 2010年11月25日発行 4,600円(税別)

 「142カ国」。これは何の数字かすぐに理解できる方がどれだけいるだろうか?これは,特許協力条約(PCT)の締約国数である(2010年7月1日現在)。PCTは,経済市場がグローバル化した現在,国際出願をするうえで,その重要度が増している。
 本書は,2005年11月に発行された,PCTの戦略的利用から実務までを解説した初版の改訂版である。本書は,最新の改正規則に基づき作成されており,2010年7月1日時点における規則に対応した内容となっている。
 PCTは,初版発行後の5年間で基本的構成は変わっていないものの,規則については幾多の改正がなされている。その中には,PCTを利用する出願人にとって実務上大きな影響を与える規定も導入されている。そこで本書では,「引用補充(10章)」,「優先権の回復(11章)」,「補充国際調査(第16章)」等に係る新たな規定に基づく手続きについては,新たに章を設けて詳細に説明がなされている。また,「8章:国の指定と広域特許」及び「9章:国際特許と優先権主張」等についてもさらに詳細な説明が加えられている。その結果,本書は,初版に比べてページ数にして約150ページ増加し,章の数にして,5章増えた25章で構成されている。
 本書はPCT制度の概要からPCT制度の各段階における手続き及び作成する書類まで,PCT及び規則に基づき具体的に説明されている。例えば,出願ルートを図式化して分かりやすく解説されているだけでなく,実際の書類の書き方やレ点をどこに入れるべきか等,細かいところまで配慮されている。
 また,本書は,読者が各章の最初の概要を参照し,求める内容が記載された章を選択して読めば内容を理解できるように構成されている。そして,各章の説明は,その内容をなるべく他の章の記載を参照せずに内容を理解できるよう,類似の解説及び説明を複数の章において重複して記載することによって,各章を読めば内容を理解できるように工夫されている。なお,PCT手続きの初心者は,まず初めにPCT制度の概要やその手続きの流れが説明されている第1章から第3章を読んで理解すると良い。
 また,本書は,PCTの制度的特徴からグローバルな視点からPCTの条文及び規則について解説されているが,各章のポイントでは日本の出願人側に立ち戻り,PCT制度を有効利用するためには,どのような手続きをとればよいのかを実務者向けにアドバイスしており,非常に参考になる。
 このように,本書は,外国出願業務を担当している実務者にとって,PCT出願手続きにおける道標となる一冊となることは間違いないであろうし,初版をすでに持っている実務者にとっても,最新の改正情報がまとめられた本書を用意しておけば,何かあったときに調べることができる辞書として重宝することは間違いないだろう。

(紹介者 会誌広報委員 A.N.)

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