新刊書紹介

新刊書紹介

特許法(法律学講座双書)

編著 中山 信弘 著
出版元 弘文堂 A5判 514p
発行年月日・価格 2010年8月31日発行 4,200円(税別)

 旧版「工業所有権法 上 特許法〔第2版増補版〕」から10年をあけて出版された待望の体系書の改訂版である。タイトルも「特許法」と改名している。前版と違い横書きとなったことで読みやすくなっている。
 「知的財産立国」の下,プロパテントへと舵が切られたことにより,この10年の間特許法は多くの法改正が行われてきた。主なものを挙げてみても,職務発明規定の改定,無効審判と異議申立制度の統合,間接侵害規定の改定,単一性,シフト補正の禁止,分割時期の改定などがある。また,バイオテクノロジー発明,コンピュータ・ソフトウェア発明,ビジネスモデル発明などの新しい発明を特許法の中でどのように捉えるかといった議論があり,法改正,審査基準の改定が行われた。このように法改正が続いたことで特許実務者は対応に大わらわとなった10年であった。
 このような慌しい10年分の法改正を一挙に本書に取り込まれたのが今回の改訂版である。
 特許実務家にとって,改正の対応に日々追われていて,勉強が追いついていないのが現状かと思われる。従って,今一度このような体系書を通してじっくりと勉強しなおすこともいい機会かと思われる。体系書であるがゆえに基本的な要件から様々な論点など幅広い内容を一挙に学習することができる。特に執筆者は法改正に実際に携わっていた経緯もあるため,改正に関わる項目は丁寧に説明されており大変興味深く拝読することができる。
 まずは「はしがき」を読んでいただきたい。法曹界の重鎮である筆者の見解と今後の見通しなどが記載されている。特許法の存在意義に疑問を投げつつも,日本は政策としてプロパテントの傾向が強くなったが,法は権利者と社会を調和(バランス)させながら改革を押し進めていくべきと展望を述べられている。
 この10年,発明の定義も見直しを迫られ,ソフトウェア,バイオテクノロジー,ビジネスモデルといった新しい分野にも特許法は対応を求められるようになり,法改正,審査基準の改訂が行われた。筆者は新しい技術を出願している現在,「自然法則の利用」という要件の見直しを提言している。
 職務発明についてはまだまだ議論がつきないところであり興味あるところであるが,本書では40頁もさかれて記載されており,読み応えがある。対価については法改正の方向性がそうであったように使用者側に配慮した立場で書かれている。
 無効審判については,請求人適格が改正されたが,過去からの流れを理解できる。
 キルビー判決によって新設された104条の3,その他民事的救済,均等論,特許権の消尽,並行輸入など読み応えは十分である。
 包括ライセンスについての記述も見られる。近年ライセンスビジネスが活況になっていることもあり,幅広い内容が盛り込まれていることに改めて感服するしだいである。
 判例について平成20年までのものが盛り込まれており(ソルダーレジスト事件など),最新の論点,解釈が盛り込まれた本書は特許法に関するバイブルとなるべき一冊ではないかと思う。

(紹介者 会誌広報委員 YO)

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アジア諸国の知的財産制度 山上和則先生古稀記念

編著 小野昌延・岡田春夫 編
出版元 青林書院 A5判 744p
発行年月日・価格 2010年9月14日発行 6,400円(税別)

 近年,知的財産の活用がBRICsや新興国に向けられており,特に中国に関心が持たれている。そして中国に続いて,アジア諸国(東アジア及び東南アジア)が,日本だけに留まらず世界各国が注目する国々になってきている。しかし,知的財産法制度については未知な部分が多いうえ,知的財産に関する書物は古く,最新の知的財産制度や法運用までをまとめた書籍はほとんどなかった。

 そこで,アジア諸国(東アジア,及び東南アジア)における知的財産法制度・法運用の全体的状況に関する情報がまとめられたのがこの書籍である。
 まずは,総論として,「アジア知的財産政策と制度 過去・現在・未来」と称され,(1)過去−1960〜1970年代の開発政策としての知財制度,(2)現在−TRIPs体制下での財産権保護制度としての知財制度,(3)未来−伝統的知識とコミュニティ知財制度に分けられ,アジア諸国の知財の歴史,現況,今後を解説している。
 そして,各国各論として国毎に章分け(1〜14章)して,カンボジア,中国,香港,インド,インドネシア,韓国,ラオス,マレーシア,モンゴル,フィリピン,シンガポール,台湾,タイ,ベトナムを取り上げ,各国とも次のように分けて詳細に解説している。
 (1)国の簡単な一般概要(基本情報,政治体制及び状況,経済状態など)
 (2)司法制度の概要(裁判所,検察官,弁護士,弁理士など)
 (3)知的財産関連法制(国の特徴及び概要,条約の加盟状況,特許権,商標権,意匠権,著作権,トレード・シークレットなど)
 (4)エンフォースメント(民事裁判手続,裁判外紛争解決手続など)
 (5)統計(最近の知的財産権の出願件数・登録件数等)
 (6)参考文献/参考サイト

 一般的に外国において,事業を起こして活動や営業をしようとする企業経営者は,その国についての知識が必要であり,さらに,会社法や税法等の知識も必要である。同様に,知財実務を担う実務家にとっては知的財産法制度に関する知識が必要不可欠である。そこで,本書はこの1冊において,アジア諸国で事業を行う経営者や知財実務を担う実務家にとって,必要な情報を提供してくれる。実務経験者だけでなく実務初心者にとっても,必携の書籍である。

(紹介者 会誌広報委員 T.N)

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経営に効く 7つの知財力

編著 土生 哲也 著
発明協会 A5判 200p
発行年月日・価格 2010年8月31日発行 2,000円(税別)

 5年程前に,著者が講師をされたセミナーに出席したことがある。「知財の重要性について,経営層や社員へもっと旨く,納得のいく説明ができないだろうか?」ということについて,随分と思いを巡らせている時期であった。セミナー受講後,その悩みから随分と解放された高揚感で心が満たされている感覚を今でも覚えている。個人的に,価値の高いセミナーであった。

 本書の特徴を端的に現す言葉がある。本書冒頭の「推薦の辞」の中で弁護士・弁理士の鮫島正洋氏が言及しておられる「平易」という言葉だ。「平易」というと,知財の入門書的な内容ではないかとの誤解を与えかねないが,そうではない。

 著者のベースにあるのは,その経歴から,「企業経営に貢献する知財」への強い思いである。言うまでもないことであるが,「企業経営に貢献する知財」を実現していくためには,知財部門だけでなく,経営層および他部門の関係者が共通理解のもと,一丸となって取組んでいくことが重要である。このため,本書は「企業経営に貢献する知財」について,知財部門等知財の専門家だけでなく,経営者や知財部門以外の社員も読者層のターゲットとして,長年における著者の考察や経験から培った有益なものの考え方や情報を「平易」な表現に修練させていっている。故にその内容は「平易」でありながら深い。

 具体的には,経営課題に成果をあげる知財の7つの力およびその7つの力を経営に必要な活動として定着させるためのポイント等が解説されている。知財活動は経営に役立つとの自負があっても,その専門性ゆえ,このことを経営層に説明するのはなかなか骨の折れる仕事である。本書は,経営層が関心を示す知財活動の捉え方が語られている。自社の知財活動を経営層等に説明していくための論理構成に役立てることができると考える。

また,本書では,冒頭に「知的財産」とは何かについて解説されている。知財部門の方には,今更感があるかもしれない。しかし,これがなかなか個人的には新鮮である。分かっているからとの第一印象でどうか読み飛ばさないでいただきたいと思う。

 本書は,「平易」である。しかし,知財部門と経営者および知財部門以外の部門との相互理解を図るための知財のエッセンスが,とことん突き詰めて見出された「平易」な表現で散りばめられている。経営に効く知財の本質を的確に伝える数少ない書として,自信を持ってお薦めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 S.K)

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国際ビジネス勝利の方程式 「標準化」と「知財」が御社を救う

編著 原田 節雄 著
朝日新聞出版 新書判 256p
発行年月日・価格 2010年11月30日発行 780円(税別)

 最初のページから躊躇の無い断定した言葉が続く。国際舞台で様々な国との交渉の中での実体験を踏まえた著者ならではの表現である。絶え間なく,虚虚実実の駆け引きが必要とされる厳しい現実がストレートに表現されている。通り一遍のノウハウ本では決して無い。
 本書の初頭ではビジネスの現場での本音が分類される。また,量と質についての説明がなされる。この二つの概念は本書を読み進む上で,また国際社会での事業展開を考える上でのベースとなる。
 今や日本は欧米に追いつき,富裕社会となっていること,現在は武力戦争の時代ではなく,経済戦争の時代であることは著者のみならず,だれしも認めるところだろう。だが,そのような立場にたたされた日本のとるべき闘い方を知っている日本人がどれだけいるのかと問いかけ,また,現在にふさわしい闘い方を身に着け,参戦しなければならない,と主張する。
 サブタイトルの「標準」化についてはデジュール標準,デファクト標準という言葉が出現する。ただ,この標準化の段階においても登場するのはその標準を主導して設定する立場の組織や国の本音が大きく反映されるのである。企業であれば,いかに自身の企業の利益を持ち込むかという点が重要になってくる。標準化の各段階ごとに戦略のとり方は異なる。
 そこで特許の登場である。標準化の規格の中にいかに特許,つまり自社のエゴを取り込み,そして誕生,成長,成熟の各段階でいかに使い分けるかが重要になる。
 最後の部分では人と国の教育について憂える言葉が続く。ここでも組織の本音,質と量が述べられ,今の日本の弱点が的確に表現されている。
 著者は本書を通じて,世界に飛び込む覚悟を問うており,また,国際社会の現場に飛び込む必要性を繰り返し述べている。自身のこと,あるいは自社のことを振り返ってみて,このような考え方を持ち,実行できている者がどれだけいるであろうか。知財部員なら,知財の本質をどう考え,事業の段階が今はどこにあり,どう手持ちの知財を使っていくか,考えなければならない。三位一体,グローバルという言葉が広く使われているが,改めてその意義や内容を見つめなおす機会になろう。厳しい国際社会を生き抜く上で,あらゆるビジネスマンに読んで欲しい著書である。

(紹介者 会誌広報委員 A.N.)

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