新刊書紹介

新刊書紹介

技術標準をめぐる法システム
―企業間協力と競争,独禁法と特許法の交錯―

編著 和久井 理子 著
出版元 商事法務 A5判 476p
発行年月日・価格 2010年8月31日発行 6,000円(税別)

 昨今のグローバル化と相俟って,標準化活動が,産業政策の上でも各企業の事業戦略の上でも重要なものとなっている。また標準化活動は,知的財産権とりわけ特許権との関係で重要な論点を生むものであり,パテントプールやホールドアップといった問題が現実に生じている。本誌2009年3月号で「標準化活動の動向と知財戦略」をテーマとして特集が組まれていることからも,知的財産の世界において標準化活動に対する関心は非常に高まっていることがわかる。
 標準化の一つの側面としては,製品使用者の利便性を高め,また異なる製品同士の互換性を担保するために,製品の共通仕様を定めることが挙げられる。従って,一旦その標準(規格)が定められれば,多くの企業がそれに従って製品を開発・製造することとなる。

 しかしながら,本誌読者の多くが普段携わっている特許制度は,特定の技術に対する排他権を法的に認めるものであり,標準化活動と特許制度の関係は非常に複雑な様相を呈している。このようなことから,標準化と特許,およびそれらから生ずる諸問題の全体像を把握することは容易ではない。

 本書では,その第1章において,そもそも「標準」「標準化活動」とは何かということから始まり,標準化にまつわる国内外の諸制度,関連法規としての独占禁止法についての解説を施している。
 これを踏まえた上で,第2章においては,問題の所在,独占禁止法による規制,強制規格の設定手続等の乱用に関する考察を行っている。第3章では,必須特許,及び必須特許に関するライセンス拒絶に対する規制について,関連制度や審判決例を検討するとともに,第4章では標準化機関の特許取扱方針について,また第5章ではパテントプールについての解説,競争への影響,また各国における独占禁止法による規制について検討している。
 いずれの側面においても,競争政策,法制度からの解説を試みるとともに,各国の審判決例を積極的に紹介している。また各章において,小括として筆者の考察を展開している。

 技術標準化を踏まえて特許戦略立案業務に携わる方々にとっては,標準化活動に関する各種制度と特許法,並びに周辺法をまとめた本書が,標準化にまつわる諸問題の全体像を網羅的に把握するために有用なものであり,是非ともお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 D.T.)

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見ればわかる!外国商標出願入門

編著 野田 薫央 編著
森 智香子,芦田 望美,小暮理恵子,大塚 一貴,葦原 エミ,瀧澤 文 共著
出版元 発明協会 A5判 340p
発行年月日・価格 2010年8月30日発行 3,500円(税別)

 グローバル化に伴い,日本企業のビジネスは全世界に広がり,業容も多岐に亘っている。そのあらゆる場面で使用される「社標」(コーポレートブランド)は,企業のシンボルであり「商標権」として保護される。国内のみならず,海外における社標使用の法的根拠となる商標権の確実な権利化や,第三者による模倣・侵害行為の排除が企業の大きな使命となっている。
 また,個別の製品ブランドも同様に商標権として保護されるが,新しいブランドを創生するに当って,やはり法的権利である商標権の確保は不可欠である。
 同時に,グローバル化に伴い,ワールドワイドなビジネスに直結した製品ブランド戦略,宣伝広告,マーケティングの観点を踏まえた適切な商標権取得も企業にとっては必要となる。

 本書はこうした企業の海外における商標権取得の一助となる解説書である。
 本書は共通の観点(手続フローチャート,制度概要,制度の説明,費用等)から各国ごとに解説がなされているのが特徴である。
 各国の商標制度を横断的に解説した書籍は従来から存在はしたが,商標制度を有するすべての国・地域が取り上げられているため,情報量が膨大であり,しかも,すべて英語で解説されているため,知りたい情報に迅速にアクセスするのは困難であった。
 これに対して,本書は平易な文章でわかりやすく解説されているため,一見して知りたい情報に迅速にアクセスできる。まさにタイトルの通り「見ればわかる!」内容となっている。
 本書は主として入門者向けの内容となっている。このため,入門者向けに海外特有の制度である「権利不要求(ディスクレーム)」「同意書(コンセント)」などの用語の解説もなされているが,経験豊富な実務者にとっても知識の整理・確認ができるという点で有益と考えられる。
 本書は,欧米主要国のほか,中国,インド等の新興国は勿論,今後発展が見込まれるタイ,ベトナム等の商標制度を取り上げている。本書は,将来,日本企業が積極的にビジネス展開すると考えられる必要最小限の国・地域に絞り込んで解説しているため,情報のスリム化が図られている。
 さらには,本書はマドプロ利用上の注意点もコンパクトにまとめられている。マドプロを利用してワールドワイドに商標権の取得を希望する企業にとっても有益と考えられる。

本書は,今までありそうでなかった外国商標出願入門書と言えよう。

(紹介者 会誌広報委員 S.S)

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ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜

編著 経済産業省知的財産政策室 編
経済産業調査会 A5判 608p
発行年月日・価格 2010年8月25日発行 6,000円(税別)

 近年,日本においても知的財産権に関するライセンスが少しずつ増加傾向にあり,当然ながらビジネスに関係する以上,条件を決める時には,ライセンサとライセンシの意向は正反対であるため,必ず交渉が必要となる。
 両社にとっての最終的なアウトプットはロイヤルティ料率であるため,交渉において,料率に関する考え方と根拠のあるデータに基づく相場感を持っておくことは非常に重要なことである。
 本書には,出願件数の上位企業にアンケートを行って得られた回答(563件)の分析結果が示されており,非常に信頼できる料率データである。

 以下に,本書の内容について紹介する。
 本編1,本編2,資料編の3つにカテゴライズされており,本編1は特許権,商標権,プログラム著作権,技術ノウハウの技術分野毎の料率や外国との差について数値とグラフで示し,特徴的な点を紹介している。例えば,特許権のロイヤルティ料率の全体平均は3.7%であり,最も高い分類は「バイオ・製薬」の6.0%ということである。さらに,料率に影響する条件とその影響度合い(例えば,「独占的ライセンスの場合のアップ率」等)についても非常に参考となるデータである。
 また,米国,英国,ドイツ,韓国のロイヤルティ比較もされており貴重なデータである。その中でも,興味深いデータとしては,司法(裁判)で決定した料率と市場料率の比較である。日本は,司法決定料率が市場料率よりも低く,米国は逆になっている。
 本編2は,本編1の技術分類と異なる技術分類で新たに分析したデータが示されており,本編1よりも,技術分野が細かく分類されたイメージである。ここで注目すべきは,料率を決定する要因(例えば,ライセンスの必要性等),料率に影響を及ぼす要因(例えば,独占的ライセンス等)にはどのような項目が存在し,そして,その要因が料率へどれだけ影響するのかが示されている点である。
 また,本編の最後には知的財産権の3つの価値評価方法(コスト・アプローチ,マーケット・アプローチ,インカム・アプローチ)が示されており,この基本的な考え方は,交渉時には知っておきたい必須事項である。
 資料編は,「各国のロイヤルティ料率の根拠となった事件や判例」,「ロイヤルティ料率アンケート調査票」の2つに分かれており,ケースバイケースで近い事例を探して参考にすることをお勧めする。

 今後の技術開発はオープン・イノベーションが主流になると言われており,オープン・クローズの判断,技術導入可否の判断を行う上で,各技術分野の料率を知っておくことは重要である。
 本書は,知的財産に関わる部署の共用図書として,準備しておきたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 M.O)

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誰も書かなかった知的財産論22のヒント―未来の知財のために―

編著 西岡 泉 著
静岡学術出版 四六判 230p
発行年月日・価格 2010年10月20日発行 2,000円(税別)

 知的財産の専門家による学術書は数多く出版されており,実務家による知財論も数多くある。しかしながら,サラリーマンの立場に立った知財論はみたことがないと筆者はいう。
 筆者は機械系メーカー会社に勤務しており,長年の会社勤務経験から知的財産を現実に活用するための考えを,「本格的な知財論」として述べている。筆者のいう「本格的な知財論」とは,知的財産の本質を問うことによって,現実の場で,どのように知的財産を創り出し活用するかの「ヒント」を与えることができるような知財論である。現実の研究開発や企業間競争における課題の中で,知的財産に対する「考えるヒント」として22のテーマにまとめている。

 本書は,知的財産の未来をイメージするために,現在の研究開発や企業間競争の現場における,知的財産の切実な課題を提起している。サラリーマンの,サラリーマンによる,サラリーマンのための「本格的な知財論」として,著者の実務経験や裁判判決事例から,筆者が実務の中で感じている現在の知的財産の課題を企業の技術開発,知財戦略,営業戦略の面から22のテーマに分け,今後の知的財産業務に活用できないか掲載されている。
 各テーマの紹介では,タイトルをキーワードとして,現在どのような知的財産の課題があるのか,また,その課題に対して著者の考えを述べており,今後の知的財産業務に活用するためのヒントを提案する構成となっている。

 本文については,企業の知財戦略,技術開発,特許・ノウハウなどの技術価値,経営戦略など企業にとって参考となる知的財産が多岐にわたる事例が掲載されている。
 例えば,「ヒント2 特許は生き残れるか」では近年,特許の概念とは相反する流れ(例えば,オープンソース方式など)が台頭してきており,特許制度の長所,短所を交えて今後の特許はどうあるべきか紹介している。
 「ヒント15 正露丸と懐中電灯と販売戦略」では商標の裁判判決事例2件(正露丸等)から,会社の知的財産を維持するために販売戦略の重要性が紹介している。
 また,「ヒント16 コカ・コーラはえらい」では立体商標を権利化するための会社の営業戦略や知財戦略を,立体商標として認められた事例や,立体商標として認められなかった事例を取り上げて紹介している。
 この他に,技術開発,特許,ノウハウ,商標,著作権,不正競争防止法等に関する知的財産の身近な事例を取り上げ,紹介している。

 このように本書は,実業務において,本書を自分の会社に置き換えて知的財産の切実な課題の「考えるヒント」として参考となるため,知的財産を取り扱う実務者に是非ともお勧めしたい一冊である。
 また,読み物としても,知的財産について身近な具体的な事例から解りやすくまとめられているため,知的財産業務の初心者においても,お勧めの一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.Y)

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