新刊書紹介

新刊書紹介

著作権法の実務

編著 松田 政行 編著
出版元 経済産業調査会 A5判 508p
発行年月日・価格 2010年5月18日発行 4,900円(税別)

正にタイトル通りの書である。この本の中には著作権法の実務についての情報が詰まっている。

法律の条文が一通り頭に入っていたとしてもそれだけでは実務はできない。これは著作権法だけでなく他の法律,例えば特許法であっても同じことである。 しかしながら著作権法が扱う対象は特許法に比べて多岐にわたっている。 例えば小説(言語の著作物)を出版する実務とネットワークを通じてプログラムを提供する実務とでは,考えなければならないこと,知っておくべきことが大きく異なる。 この差は特許法の実務におけるバイオ分野と電気分野の差より大きいように思われる。 このことは,著作権法の世界では一部の分野での経験がなかなか他の分野での実務に直結しないことを意味する。

本書の役割のひとつは,このような差を埋めることであろう。 本書で取り上げる対象は先に挙げた出版事業やプログラムに関する事業の外,音楽ビジネス,映画製作,ゲームソフト開発,放送,インタラクティブ送信,建築,写真などであり,ほぼ全てが網羅されていると言ってよい。 また,海外との契約,著作者人格権の処理,あっせんによる紛争解決など,著作権法が関係する場面も幅広く取り上げられている。 経験が浅い(ない)にも関わらず著作権法の実務に立ち向かわなければならなくなったとき,本書の関係ページを読んでから臨むのと丸腰とでは天と地ほどの違いが生じるであろう。 本書を読んだ後にすべきことはもはや実務の世界に飛び込むことしか残されていない。

本書を読む前の紹介者は著作権法の入門書を読んだ経験はあるが,関連実務を全くしたことがないというレベルであった。 本書を読み終えた今,著作権法の実務について一通り理解できたという満足感に浸っている。 未だ実務に臨む機会には恵まれないが,実務をやってみたい,自分も少しは役に立つのではないかという気にもなってきた。 本書のもうひとつの役割は,紹介者のような門外漢を著作権法の実務者の予備軍として養成することかもしれない。 ただし,本書は著作権法の入門書ではないので,予め入門書を読んでおくか又は入門書との併読をお薦めする。

繰り返す。正にタイトル通りの書である。この本の中には著作権法の実務についての情報が詰まっている。

(紹介者 会誌広報委員 H.T.)

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プロフェッショナル用語辞典 知的財産

編著 TMI総合法律事務所 編著
出版元 日経BP 四六判 480p
発行年月日・価格 2010年5月24日発行 3,000円(税別)

日常の知財業務で聞いたことのない法律用語や技術用語を見つけた場合,最近はインターネットで検索して確認することがある。 しかしながら,Webの情報は膨大であるが,実際に知りたい情報がまとまっていないため調査効率が悪い時がある。

そのような場合に本書が非常に役立つ。 本書は,知的財産関連の案件をよく扱っている弁護士と弁理士が共同で執筆されているため,各用語が知財業務の現場で活用できるように実務的でかつ,コンパクトにまとめられている。 また,用語の配列は,著作権,特許権,商標権,意匠権,不正競争防止法,条約・知的財産権一般という6分野に分け,50音順に解説されている。 索引は,関連する見出し語相互にクロスリファレンスが記載されているだけでなく,見出し語以外にも解説中に出てくる用語も引用できるように工夫されている。

以下に,各章で取り上げられているキーワードをいくつか紹介する。

「1  著作権」の最初の頁には,「A S P[Application Service Provider]:ネットワークを通じて業務アプリケーションソフトを顧客に利用させるサービスを行う事業者をいう。」 というように,ネットワーク関連の技術的な用語が解説されている。その一方で,「著作者人格権」や「同一性保持権」等の一般的な用語についても解説されている。
「2 特許権」では,「新規性」や「進歩性」が,図表を用いながら概要がまとめられている一方で,先日開催されたCOP10で議論された「CBT(生物多様性条約)」等についても解説されている。
「3 商標権」では,一般的な用語の説明のほか,主要な判決の事例が紹介されている。また,現在,産業構造審議会の知的財産政策部会でも検討されている「防護標章」等についても解説されている。
「4 意匠権」では,関連意匠や組物意匠などがイラストなどで例を挙げながら解説されている。
「5 不正競争防止法」では,「営業秘密」や「混同惹起行為」の法律用語や,「ドメイン名」等のネットワーク用語が解説されている。
「6 条約・知的財産権一般」では,「ベルヌ条約」や「パリ条約」などの各種条約の解説や「知的財産創造サイクル」や「知的財産デューデリジェンス」,「リバースエンジニアリング」などの知財関連の用語が解説されている。

このように,本書は,最新の知的財産に関する法律用語の説明だけでなく,ネットワーク分野やバイオ分野等の広範囲にわたる技術用語についても網羅されているため,一般的な用語辞典としても活用できる。 したがって,実務者にとっては,知的財産の最新用語に関連する基本情報や担当分野外の用語を効率よく調査するのに最適であり,直接法律に携わらない技術者や学生にとっては,知財関連の基本知識を習得するために最適な一冊であると思われる。

(紹介者 会誌広報委員 A.N.)

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著作権法コンメンタール別冊 平成21年改正解説

編著 池村 聡 著
勁草書房 A5判 308p
発行年月日・価格 2010年5月15日発行 2,800円(税別)

インターネットなど情報通信技術の発達により,様々なコンテンツが利用できるようになり,日常生活は便利になりましたが,一方でこれらデジタルコンテンツの取扱いなど著作権法上の問題点が指摘されていました。 この問題点を解決するために行われたのが,平成21年の著作権法改正で,「平成の大改正」とも呼ばれています。

本書は,この「平成の大改正」法について,任期付公務員として着任している現職の文化庁・著作権課著作権調査官により著された逐条解説書であり,改正された条文毎に,改正後の条文と関連条文,意義,条文解説,関連規定などが記載されています。 改正後の条文では,今回修正・追記された部分に下線が付され,改正部分が一目で分かります。 また,条文のすぐ後には,関連する著作権法の他の条項,関連する他の法令,関連する報告書が一覧表にまとめられています。 意義では,改正前の条文を掲載すると共に指摘されていた問題点などを解説し,文化審議会著作権分科会の報告書で検討された問題点を解説するなど,本改正の要点や,本改正に至った理由・目的・経緯が分かり易く記されています。 条文解説では,対象となる著作物や主体,認められる行為などについて説明するほか,重要な用語についても解説しています。 また,本改正の特徴のひとつでもあります規範を政省令に委任している部分では,著作権法施行令や著作権法施行規則などを引用して詳しく解説しています。 関連規定では,一覧表にまとめられている著作権法の他の条項のうち,特に関連が深い条項や重要な条項について,適用される条件などを具体的な例を挙げるなど,わかり易く解説しています。 その他として,実務上の留意点などの解説や具体的事例についての筆者の見解などを記した実務解説も記載されています。 また,巻末には,付録として著作権法や著作権法施行令,著作権法施行規則などの新旧対照条文が収録されています。

本書は,表題からも判るように既刊の「著作権法コンメンタール(全3巻)」の別冊との位置付けであるため,今回改正された条項以外は,関連する著作権法の条項の解説や注釈の多くが「著作権法コンメンタール(全3巻)」の関連ページを示すのみであり,著作権法全体について学びたい方には不向きではないかと思います。 しかしながら,平成21年改正法について解り易く解説されていますので,著作権法の基礎知識がある方が本改正法の解説書を選ばれる際には,その候補に加えて頂いても良い一冊だと思います。

(紹介者 会誌広報委員 P)

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