新刊書紹介

新刊書紹介

ひと目でわかる特許侵害訴訟重要判決の核心

編著 荒垣 恒輝/「特許ニュース」編集部 共編
出版元 経済産業調査会 A5判 400p
発行年月日・価格 2010年3月12日発行 4,000円(税別)

判決は,知的財産を取り扱う者にとって,知識の宝庫であることは言うまでもないが,長い判決文を多数読むことは,非常に多くの時間と労力を要することから,現実問題として,実業務を行う担当者などにはかなりの負担になっている。そのため,代表的な判決をまとめ,必要な判決を容易に探し出せるガイドブック的な書籍が求められている。

本書は,この要望に応えるため,荒垣弁理士と経済産業調査会「特許ニュース」編集部が,共同で実業務への影響が大きい重要な判決を150件抽出するとともに,その判決の主旨を分かり易くまとめている。

本書に収録された150件の判決は,判決言渡日の順序に従って配列してあり,かつ,対象の判決を探しやすいように,特許,意匠,商標,不正競争防止法など,権利別の細目次も掲載されている。

各判決の紹介では,タイトルとして,どのような事例かということと,事件名を掲載しており,また,キーワードとして,判決に関係するいくつかの代表的な知財用語がピックアップされているため,読者が必要とする判決文を容易に探し出せるようになっている。

また,その他の基本的情報として,裁判所,判決言渡日,原告,被告,判示事項,事件の骨組などが簡潔にまとめられており,判決の概要を容易に把握できるように構成されている。

本文については,まず,特許・実用新案に関する103件の事例が掲載されており,特許権の侵害が成立した事例,差止請求が認容された事例,損害賠償請求が認容された事例など,多岐にわたる事例が掲載されている。自社において何かトラブルなどが生じた場合には,関連する判決を容易に探し出すことができ,対応方法を検討する際に判決内容を参考とすることができると考えられる。

また,近年,話題になっている職務発明については,19件の事例が掲載されている。職務発明の対価請求に係る事例(青色LED事件)や,発明者であると認められなかった事例など,身近に発生する恐れがある事例を取り上げて紹介されている。

この他に,商標,著作権,不正競争防止法などの代表的な事例も取り上げ,各判決の概要が分かるように紹介されている

。 実業務において,参考となる判決を容易に探し出す場合や,担当者が代表的な判決を網羅的に把握する場合などにおいて,本書は,絶大な 効果を発揮するものと思われる。知的財産を取り扱う実務者に是非ともお薦めしたい一冊である。

(会誌広報委員会    N.H)

新刊書紹介

著作権・フェアユースの最新動向―法改正への提言―

編著 フェアユース研究会 著
出版元 第一法規 A5判 246p
発行年月日・価格 2010年3月25日発行 3,000円(税別)

今年の1月1日に改正著作権法が施行され,デジタルコンテンツの流通促進を図るべく,権利制限規定が拡張された。しかしながら,急速 な技術革新が進む情報化社会では,従来であれば思いもしなかった侵害態様や,新規なビジネスモデルが,今後も次々と出現することが予想 される。このため,現在のような限定列挙主義に基づく個別制限規定の積み重ね,というやり方には限界があるという声がある。また現行著 作権法自体が,改正を繰り返す過程でその都度必要な制限規定を付加してきた結果,さながら迷路のごとく複雑で分かり難いものとなってい る。このような中,日本でも,一定の行為については著作物の自由利用を認める一般的権利制限規定(フェアユース)を導入しようとする動 きが進みつつある。もっとも現実には,導入に賛成する利用者側と,反対する権利者側との意見の隔たりを埋めるのは容易ではなく,更なる 論議が必要であると思われるが。

本書は,学者・弁護士・企業法務担当者などで構成されるフェアユース研究会が,2009年1月から4月まで4回に亘って行った委員会において,フェアユースの日本への導入について検討した内容をまとめたものである。 各回の委員会は,先ず一人の委員が自分の検討した内容を発表し,その後複数の委員でそのテーマに関して突っ込んだディスカッションを行う,という形で進められた。具体的には,第1回では,現行の個別の権利制限規定における問題点を抽出し,一般規定を導入する必要性や,どのような事情を考慮しなければならないかを論じている。発表委員自らが「マニアック」と述べているほど,非常に詳細に事例の分析がなされており,興味深く読める。

第2回では,ドイツ法における最新の議論状況が報告されている。ドイツも,著作権制限に関しては日本と同様限定列挙主義を採用し,また現在置かれている状況も日本に非常に近いとのことで,ドイツでの検討状況を研究することが,日本での今後の制度立案の参考になると思われる。

第3回では,フェアユースとして考慮すべき諸事情のリストとして,一般規定を作成するときの法的・理論的根拠を考察している。

第4回が本書のいわばクライマックスである。3名の委員が,これまでの検討に基づいて,実際に一般制限規定条文の試案を作成している。規定を作るに当たっての考え方や,その規定を条文上どの位置に置くかなどに,それぞれの個性が現れている点がとても興味深い。もし実際に法案が立案されるとなった場合,色々な意見が出されて,調整もなかなか大変になるということなのだろうか。読者諸氏も,立法者になったつもりで,一般条項の試案を考えてみてはいかがだろうか。

なお本書には,各国の制限規定の比較対照表や米国での参考判例などを収めたCD-ROMが付録として付いており,資料的な価値も高い。

著作権実務担当者は勿論,専門外であってもこの分野に関心のある方には大変興味深く読める内容であり,一読をお薦めする。

(会誌広報委員会   T.Y.)

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