新刊書紹介

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新・青林法律相談24 不正競争の法律相談

編著 小野昌延・山上和則 編
出版元 青林書院 A5判 680p
発行年月日・価格 2010年2月10日発行 5,800円(税別)

不正競争防止法でいうところの「公正な競争」というのは,法目的から「切磋琢磨」の語義に近い意味を意図しているものと考えたい。「切 磋琢磨」とは,互いに励まし合い競い合って向上していくことであり,この営みを継続している事業者の「営業上の利益」を守ることが,同 法の目的とするところである「国民経済の健全な発展に寄与すること」につながっていくのではなかろうか。

ただ,残念ながら,本書はしがきの紹介にあるように,不正競争防止法関係の訴訟事件は,特許法関係の訴訟事件に次ぐ数か,ときには, これを凌ぐ年もあるという。また,通信インフラ等の技術進展による情報伝達の容易化を背景に不正な情報取得案件が多発傾向であることを 踏まえ,平成21年には,第三者等による営業秘密の不正取得に対する刑事罰の対象範囲の拡大等営業秘密に関する保護および罰則強化を内容 とした法改正が行われている。そして,このような時代の変遷と共に不正競争防止法は,企業活動にとって無視できない重要な法律の一つと して,その存在感を増してきている。

本書は,2人の編集者の下,各法律相談テーマに対し,当代一流の学者・実務化が執筆協力し,まとめられた不正競争防止法に関するQ&A 方式の実務書であり,平成21年の法改正にも完全準拠している。Q&A方式だからといって,本書は実務上の疑問に対し簡潔な説明による解説のみを目指しているわけではない。本書は,「一言で説明する」的な実務初心者等を考慮したアンサーを冒頭に用意しつつ,続く解説において,判例や学説等具体例を紹介しながら,上級実務者向けにも耐えうるより詳細な説明を行っているところに特徴がある。不正競争防止法における実務上の問題に対し,とりあえずの模範回答を知りたいとのニーズや同法を深く研究してみたいとのニーズの両方に有用な,正に一挙両得の解説書である。

そして本書は,15章に章立されており,実に87項目にわたる実務上の疑問が網羅されている。中でも,実務上の対応が多いと考えられる「混同惹起行為」について,全体の3割に相当する29項目を解説しており,実務家にとっては大変心強い。また,営業秘密の保護に関しては企業を大変悩ませるテーマであるが,「混同惹起行為」に次ぐ9項目の疑問を詳細に解説しており,従業員退職後に競業避止義務を課す場合の実務上の留意点など,正にそこが知りたかったという内容を的確にピックアップしている。

その他「商品の形態模倣行為」,「ドメイン名使用等行為」および「信用毀損行為」等実務対応上問題となる行為類型についても,企業活動等において留意が必要な問題を的確に取り上げており,実務上疑問が生じた場合,本書はその解決のための道標にきっとなってくれるであろう。

不正競争防止法が射程とする事象は広がっており,企業実務者等にとって,このような解説書が身近に置かれている状況は大変頼もしく感 じるのではないか。信頼に足りる最新の解説書として多くの方に活用され,「公正な競争」に基づく「営業上の利益」がより適切に確保され ていくことを願いたい。

(会誌広報委員会    S.K)

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