新刊書紹介
新刊書紹介
標準化ビジネス
編著 | 藤野仁三,江藤 学 編著 |
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出版元 | 白桃書房 A5判 184p |
発行年月日・価格 | 2009年12月6日発行 2,381円(税別) |
日常生活で使用する携帯電話,DVD,CD等々,標準に関連するものは身の回りにあふれている。例えば,どうして携帯電話はこんなに多機能な機種しかないのだろうかと感ずることがある。本書の前半部分を読むことでその理由がよくわかった。端的に言えば,企業の戦略,戦術と密接に関連するのである。
読み始めは,標準化の歴史,ビジネスとの関連,技術的効果など,基本事項の説明が続き,冷静に読み進むことができる。だが,後半に進むにつれ,現実世界のホットイシューが次々と現れ,心中穏やかにおれなくなるのは私だけだろうか。
標準化には様々なジレンマが生じる。標準化のためにはある程度の技術内容公開が必要となるのだが,それと引き換えにいかに独自性・イニシアチブを確保し,一方で同志を増やしつつ,さらに技術発信を続け成長していくのか,まさに戦略そのものであり,多面的なバランス感覚,判断力が必要とされる。一企業経営におさまらず,場合によっては国家戦略にも結びつく。現代ではもはや国内での標準化に留まることはできず,即グローバル化に繋がることも多い。
本書に挙げられている複数の事例からも,まだまだ日米欧が技術発信源となっているのを感ずる。核となる技術を有するものがイニシアチブをとることができる。それをどう展開していくか。アメリカ企業のコア技術をおさえたままデファクトスタンダード化を進めていく様や,日本企業の国際舞台での活躍など非常に興味深い。
他方,中国やインドなどの新興国の台頭も実感する。有望な大市場として,あらゆる国,企業が虎視眈々と狙っている。新興国自身はそれを盾に着実に発言権を増しているのである。これらの国が技術発信源の中心となる日も近いだろう。
ところで本書のタイトルはもちろん,目次にもほとんど特許の文字は現れない。だが,少し考えをめぐらせばわかるように,また,本書にも随所に記載されているように,標準化と特許闘争は切り離せないのである。本書でも現在進行中,継続中の具体的事例がふんだんに盛り込まれている。既に当事者となっている企業の方も多いだろうし,今現在渦中にはなくても,否応なしに渦中に引きずり込まれる可能性は大いにあり得るのである。
昨今ではオープンイノベーションということもよく言われ,標準化と非常に関連が深いと思われる。言葉の響きは良いものだが,現実は非常にシビアな油断のならないものである。本書をきっかけに,これからの日本企業の進むべき方向,世界の潮流など,様々な全地球規模のうねりに思いを馳せることになるのではないだろうか。
(会誌広報委員会 A.N.)