新刊書紹介

新刊書紹介

Japanese Patent Litigation, 2009 Edition

編著 阿部・井窪・片山法律事務所 著
出版元 Thomson West 不定形サイズ 388p
発行年月日・価格 2009年7月24日発行 150ドル

今日では,日本企業が,世界中でビジネスを行うことが普通になっている。そして,そのような企業が,日本を含む複数の国の裁判所において並行して行われる特許訴訟の当事者となることも珍しくない。同様に,外国企業の日本子会社が,日本の特許訴訟の当事者になることもよくあることである。そのような場合に,外国人に対して,日本の特許訴訟について説明する必要が生じるのであるが,日本の特許制度も訴訟制度も知らないという人に,特許用語,法律用語を交えて,制度説明を行うのはまことに骨の折れることである。しかしながら,そのような際に参考にできる,日本の特許訴訟について英語で解説した本はこれまで見当たらなかった。

本書は,日本の特許訴訟に関する基礎的事項について,自国の特許制度及び訴訟制度の知識はあるが日本の制度についてはまったく知らない外国人にも分かりやすいよう,日本の弁護士・弁理士の視点でまとめられた本である。ここで,本書の内容について紹介すると,第1章では,外国(特に米国)に比較して,日本の特許訴訟において特徴的な事項10点が概括的に挙げられている。第2章では,日本の裁判所の成り立ち,特許訴訟に関る専門職について説明されている。裁判官,弁護士,弁理士だけでなく,裁判所調査官,専門委員などについても記載されている。第3章では,特許権の性質,特許権侵害,侵害の判断方法,クレーム解釈,均等論,抗弁,救済などについて法律論的に解説されている。第4章では,各種法的手続,即ち,提訴前の準備,費用,並びに,訴訟における手続の流れ,各種書類,裁判所における和解,判決,上訴,及び仮処分などについて詳しく説 明されている。第5章では,特許無効審判について,主に手続的側面から解説されている。第6章では,税関における輸入差止申立手続について詳しく説明されている。第7章では,裁判外紛争解決,いわゆるADRについて解説されている。第8章では,日本の特許訴訟に関して調べる際に有益と思われる資料(英語)について紹介されている。そして巻末には,現行の特許法の条文とその英訳文が掲載されている。

このように,本書は日本の特許訴訟について基本的な内容を網羅するように構成されている。通読してもよいが,必要なときに,必要なところだけを読むことももちろん可能である。本書は,特許担当者や訴訟担当者が,外国人に説明する際の参考書籍として揃えておくのにお勧めしたい。本書は日本国内においても洋書コーナーを有する比較的大きな書店またはウェブサイトからも入手可能である。

なお,今回が初めての出版であるにも拘わらず2009年版とあるのは,今後,毎年改訂を予定しているからとのことである。

(会誌広報委員会   Y.D)

新刊書紹介

米国特許明細書の作成と審査対応実務

編著 立花 顕治 著
出版元 経済産業調査会 A5判 258p
発行年月日・価格 2009年8月10日発行 2,800円(税別

日本企業にとって,米国は重要なビジネスの市場であるため,毎年数多くの特許出願がなされている。米国へ特許出願する場合に,多くの企業は,日本で行った特許出願を基礎として優先権を主張し,米国に特許出願を行っている。そのため,米国への特許出願は,日本の特許出願の時点から始まっていると言っても過言ではない。また,米国の特許制度は,日本の特許制度と異なる点が多数存在しているため馴染みにくい制度となっており,相違点を十分に理解した上で戦略を立てなければ,有効な権利を取得することはできない。

本書は,実務者の観点から2つのポイントに着眼し,明細書の作成から米国での権利化までの実務を順序立てて解説したものである。

1)日本出願時から留意すべき明細書作成のポイントとは?

  • 第3章:米国出願用の明細書は日本語の明細書をベースとして翻訳されるが,翻訳文の良否は,翻訳者の能力以上に日本語明細書で決まってしまうと述べられ,そのあり方について説明されている。
  • 第4章:日本語の段階で,米国のプラクティスに適合した明細書で作成しておけば,拒絶理由を未然に回避することもできると述べられ,その作成方法について説明されている。特に,近似を表す文言や「穴」という単語を取り上げ,分かりやすく解説されている。
  • 2)日本特許法と相違する米国特有の審査対応実務とは?

  • 第8章:ファーストアクションの全ての事由が取り上げられ,その事由ごとに,翻訳された米国法規,対応する日本の法規及びその対応方法について説明されている。特に,先発明主義を採用する米国において,発明日の認定を時系列の図を用いて解説され,大変分かりやすい。
  • 第9章:ファイナルアクションへの応答は,日本のように特許査定/拒絶査定の結論を得るためではなく,出願が放棄されないような手だてをするためのものであると説明されている。継続審査請求,継続出願については,詳細に解説されている。
  • その他の章でも,情報開示義務(IDSの提出)や限定要求/選択要求などの米国特有の特許制度について説明されている。

    以上,紹介したように,日本語の明細書作成時の留意点や,米国での特許出願から権利取得までの流れが解説され,さらには,関連する米国特許法や特許規則の翻訳までも掲載されており,この1冊を持っていれば,実務をスムーズにこなせると思われる。既に,米国出願の業務をされている実務経験者にとっては頭の整理に役立つであろうし,これから勉強しようとする実務初心者にとっても基礎を固めていくうえで教科書となる一冊である。

    (会誌広報委員会  T.N)

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