新刊書紹介

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特許侵害訴訟の実務と理論−理論と実際シリーズ9−

編著 布井 要太郎 著
出版元 信山社 A5変 208p
発行年月日・価格 2008年12月25日発行 3,800円(税別)

近年、日本においても特許侵害訴訟が少しずつ増加傾向にあるが、水面下での特許論争と条件交渉(以下、特許交渉という)は、その数十倍以上にも上ると思われる。これは、当事者間だけの特許交渉で、両者が納得できる条件で決着できなかった場合に、訴訟へと発展するのが日本の進め方であり、製造販売を主たる業務とする企業間の交渉が多いため、基本的には、出来る限り和解で決着したいという意識が働くからであると考えられる。

本書は、一見、特許侵害訴訟という数少ない経験者を対象としているように思われるが、訴訟へと発展する前に行われる特許論争の中において、必ず争われる事項が網羅されているため、渉外担当の実務者にはお勧めの一冊である。

基本的な言葉の定義に始まり、さらに、特許論争の際に、相手を納得させる上で必要となる根拠について、判例と条文で解説されており、初級者の理解を助けるように工夫されている。また、グローバル化が進む中、ヨーロッパ諸国ならびにアメリカ合衆国の判例および法理論との比較を、間接特許侵害や消尽のケースにまで展開されているため、中上級者にも大変参考になる。

以下に、本書の内容について紹介する。第1章の「特許侵害訴訟の実務」では、クレーム範囲を特定し、侵害・非侵害を判断する上で、必ず検討すべき事項である“明細書の参酌”、“公知技術との比較”、“出願経過”、“文言侵害と均等侵害”、“不完全利用論”について、日本の判例と条文に基づき解説されている。第2章の「クレーム解釈における契約説と法規範説」では、ヨーロッパ諸国とアメリカの判例と条文に基づく“クレーム解釈”について解説されている。第3章と第4章では、「均等論」について、有名な“ボールスプライン軸受事件”を事例にして、特許論争時の最も重要な争点である“特徴部分の本質性・非本質性”にフォーカスし、諸外国との判例と条文を比較しながら解説されている。第5章は「間接特許侵害」について、2006年の改正特許法に影響を与えたドイツ法およびアメリカ法の視点から分析されている。第6章は「消尽」について、“キヤノン・インクタンク事件”を事例にして、“リサイクルによる特許侵害”にフォーカスし、解説されている。

本書の第1章〜第4章までは、渉外担当者だけでなく、特許の出願と権利化を担当している実務者にも一読いただきたい章である。“特許論争で強い特許”にするためには、源流に遡って対応することがいかに重要であるかということを理解していただけると思う。また、他社との特許論争を経験したことがある方、これから経験する可能性がある方にとっては、必ず役立つ1冊なので、是非ともご利用いただきたい。

(会誌広報委員 M.O)

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