新刊書紹介
新刊書紹介
知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務
編著 | 監修 寒河江孝允 編集 永野周志・矢野敏樹 |
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出版元 | ぎょうせい B5判 389p |
発行年月日・価格 | 2008年5月25日発行 4,476円(税別) |
特許権、商標権、著作権等の知的財産権の損害算定の難しさ、これは関連業務に従事している方ならどなたでも実感することだろう。交通 事故等であれば金融庁や各損害保険会社、弁護士会が損害賠償額の算定基準を示し算定方法の定型化がある程度は図られている。しかし知的 財産権訴訟については損害額の明確な算定基準は存在せず、事案毎に検討せざるを得ないのが現状である。
知的財産権の適切な評価にあたってはその権利が活用されている業界に対して深く精通していることが求められる。評価だけで も難しいというのに、加えて損害算定にあたり権利侵害が起きなかった場合にどのような状態であったかという状況を細部にわたり想定/整 理する必要がある。権利保有者が本来ならばどれほど売上げを上げ、市場を占有できていたか、それによりどの程度の損害が生じたか等の算定 結果を納得のいく形で定量化して示すことは、明確な事実把握ができていたとしても非常に難しいことである。
今回はそのような場合にあなたの大きな助けとなる書籍を紹介したい。本書ではまず知的財産権の損害賠償請求における、基本的、かつ重 要な各論点について分かり易く解説し、知的財産権法における立証容易化規定等について一覧表に示している。次に200近くにわたる判決事 例を知的財産権のカテゴリー別(特許権、実用新案権、意匠権、商標権、不正競争防止法、著作権、民法・会社法等)に分類して示している。
そして各判決事例について損害額算定内容を簡潔に記している。各判決事例の損害額算定の根拠についても詳細にわたり解説されているた め、読者は各判決事例について具体的な内容を把握することができる。また最後には判決事例一覧表が記されているため、200近くにわたる 判決事例の根拠法令条文や認容総額、そして弁護士費用等を比較することも可能である。
知的財産権の損害算定を行わなくてはならない事案に遭遇した場合、多くの企業実務者はコンサルティング会社や特許事務所等にその算定 を依頼することであろう。ひょっとすると本書をお読みのあなたは依頼される側かもしれない。その際、当事者であるあなた自身が損害賠 償額の算定根拠がどのようなものに基づいているのか、算定基準をどのように設定しているのかについて多くの事案を把握した上で納得性の ある結論を出すことが重要な要素の一つとなる。その際、本書は必ずやあなたの助けとなるだろう。
(紹介者 会誌広報委員 K. A)
新刊書紹介
中国商標実務基礎
編著 | 魏 啓学、劉 新宇 編著 |
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出版元 | 発明協会 A5判 292p |
発行年月日・価格 | 2008年5月30日発行 2,800円(税別) |
中国商標と言えば、中国企業が「青森」を商標出願した事件が有名である。青森県はこの出願に対して異議申立を行い、今年の6月に5年 越しでやっと異議が認められたとのことである。
しかし、森の字の「木」を「水」に変えて「青森」に似せた「青」の商標出願の問題が残っており、また、「青森」だけでなく、「佐賀」 「京都」「鹿児島」も中国で商標出願されているという。
このような事件があったことから、中国商標を勉強してみようと思ったのが本書を手に取った理由である。
本書は、書名が「中国商標実務基礎」とあるように、中国商標実務において必要と思われる基礎知識を解説している。
本書の構成は次のとおり、第一章から第六章と中国商標法等の付録からなる。
- 第一章 中国商標制度の概要
本章では、中国商標制度の歴史と制度内容の遷移、中国での商標出願状況について解説している。 - 第二章 商標登録
本章では、中国で商標登録する為に行うべき手順等について具体的な解説をしている。特に商標の類否判断については、具体的に本商標と類似商標が示されており、どのような場合に類似とされるのかがわかりやすく解説されている。例えば、「CROWN」と「皇冠」だが、日本の商標では類似とされないが、中国では観念が同一ということで、類似とされるようである。
また、商標出願「青森」に対して行われた異議申立の手続きについて、詳しく説明されている。 - 第三章 商標の国際登録
本章では、マドリッド協定及びマドリッド協定議定書の基本概念、中国を本国とする国際登録出願、中国を指定した出願に関する手続きについて解説している。 - 第四章 登録商標の使用、許諾、譲渡及び更新
本章では、中国における商標権者の権利及び義務、使用許諾、譲渡、商標更新申請のやり方について解説している。 - 第五章 商標権侵害行為とその救済
本章では、中国における商標権侵害行為の概要、特に商標を侵害しているかどうかの判断について詳しく解説している。また、中国商標制度の特色として、行政保護と司法保護のいずれかを選択することができる「二重」保護制度について解説している。 - 第六章 知的財産権に関する税関保護
最終章である本章では、中国税関の概況、特に中国税関が職権で自発的に差押えを行ってくれる自発的保護の条件である、知的財産権税関保護登録申請システムを利用した事前登録について解説している。
以上のように本書から、中国商標特有の制度において実務上必要とされる基礎的な知識を学ぶことができるので、初心者向きの一冊と言えよう。これから中国商標実務を勉強しようと考えている方に薦める。
(紹介者 会誌広報委員 S.O)