新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産関係訴訟

編著 飯村敏明、設樂一 編著
出版元 青林書院 A5判 576p
発行年月日・価格 2008年5月15日発行 4,900円(税別)

精神的創造活動の産物と言われる知的財産は、人々の生活や社会構造さえも変えうるような技術革新の中で産まれ、保護され、そして活 用されることで現代社会発展の一翼を担い、その経済的基盤の形成に貢献してきた。

 知的財産の重要性が高まるにつれて、近年の係争は技術開発に絡む覇権の争いから、職務発明の対価や権利の帰属を巡る問題まで、技術の 進歩や時代の変化に伴って複雑になってきている。今後ますます多様化する係争に対応するためには、知的財産訴訟の実務に習熟するだけで なく、判例で示された考え方についても理解しなければ、迅速な解決は望めない。

このような観点から、法曹界や企業で知的財産に携わる人等を対象として、訴訟手続きの概要や重要判例の捉え方について体系的に解説したのが本書である。

本書は知的財産関係訴訟の手続きを説明した第I部と、重要判例や法改正について解説した第II部〜第IV部で構成される。以下に目次の一部を示し、各部の概要を紹介する。

第I部 知的財産関係訴訟の手続きの一般的な概要
他の民事訴訟と比較して、迅速な審理や専門的知見が要求される知的財産権侵害訴訟の特色について述べると共に、実際の訴訟における手 続きの概要を、民事訴訟手続きと対比しながら説明している。

第II部 特許・実用新案権
 侵害の対象となる製品・方法の特定や、技術的範囲の認定の手法を説明すると共に、機能的クレーム、プロダクト・バイ・プロセスクレー ムの解釈についても触れている.また均等論、間接侵害、無効の抗弁、先使用の抗弁、国内消尽等の考え方について、代表的な判例を紐解き ながら詳しく解説している。

第III部 商標権侵害訴訟
真正商品の並行輸入について、商標権の独立と属地主義の原則に触れながら問題の所在を明らかにし、代表的な判例や学説を紹介している。 また、急速に普及したインターネット上での商標権侵害についても、今後の検討を待つとしながら問題を提起している。

第IV部 意匠権侵害訴訟
平成18年改正の背景とその内容について外観すると共に、意匠制度小委員会で審議された類似範囲の明確化や画面デザインの保護の拡充に ついても説明している。
判例の解説では、先ず争点となる問題の所在を明らかにし、判示事項を纏めて概要を総括し、学説や従来の考え方を紹介すると共に、著者な りの判断を示したり、今後の課題や諸外国の動向等に関する情報を提供している。

第一線で活躍している裁判官らによって著された本書は、実際の訴訟手続きや実務上の諸問題を分かり易く纏めている。更に、技術革新に 伴って提起される新たな問題についても取り上げ、法的な解明を試みると共に、解決の緒となり得る指針も示している。

このように、本書は裁判実務や判例を理解するのに好適であり、法律事務所や企業で訴訟に関わる実務家だけでなく、ロースクールの学生 にも一読をお勧めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.K)

新刊書紹介

知的財産をめぐる国際税務

編著 高久 隆太 著
出版元 大蔵財務協会 A5判 448p
発行年月日・価格 2008年4月25日発行 3,333円(税別)

知的財産の実務担当者にとって、税務に関する諸問題は不得手な分野である。このことは実務経験の少ない若手担当者だけでなく、知財専 門実務に精通したベテラン担当者にも同じことが言えよう。

 その一方、多くの日本企業は事業のグローバル展開を加速しており、これに伴い知的財産の国際取引は増加している。知財を含む無形資産 の重要度が認識されるなか、知財取引に対する各国税務当局の関心も高まり、税務リスクは増大している。特に、グループ内企業間の国際取 引に関して移転価格税制の問題に関心が高まっている。このような状況下、知財部門は、経理、法務といった他部門と連携して税務問題に適切 に対処していく必要性があり、知財担当者はこれまで以上に税務の知識を身に着けておくことが必要となろう。

 そこで、知財に関わる税務知識を基礎から学びたいという人に本書をお勧めしたい。本書は、長年国際課税の実務に関わってきた著者が、知 財取引の租税に関して総括的に論じたものであり、大いに参考になると思われる。

 これまで知財に関する租税の問題は、移転価格税制関係の著書や源泉所得税関係の著書の中で取り上げられてきたように税目別に論じられ ており、本書のように総括的に論じたものは少なかった。本書は、租税の総括的な視点で、源泉所得税、法人税、消費税の観点からアプローチを試みている。

本書は次のような構成となっている。

  • 「第一編」 知的財産の概要
  • 「第二編」 知的財産と源泉所得税
  • 「第三編」 知的財産と法人税・消費税等
  • 「第四編」 知的財産と移転価格税制

第一編では、会計的、法的、税務的な各視点からのアプローチによる知的財産の定義や位置付けを解説し、知財価値評価等を論じている。 第二編では、知財に関する源泉課税とその論について解説するとともに、国際的二重課税の問題や相互協議について論じている。 第三編では、知財に関する法人税、タックスヘイブン対策税制、消費税について論じている。 第四編では、知財に関わる移転価格税制について、その適用、知財の所有概念の問題、移転価格算定方法、移転価格課税の執行、相互協議、事前確認、費用 分担契約等について詳しく論じている。

本書の良いところは、知財に関する税制の論点に入る前に、例えば「源泉徴収制度とは」、「移転価格税制とは」というように、税務の基 礎的事項を先に分かりやすく解説している点である。これは、初心者が予備知識を着けながら具体的論点へと読み進むことができるので、税務に疎い知財担当者にとっては有り難い。

ところで、「知的管理」の今年8月号に「グローバルな知的財産取引に伴う税務への対応」(知的財産マネジメント第2委員会)という論 文が掲載されている。紹介者は、本書のおかげでこの論文の内容を理解するのに大いに役立った。知財に関する税務を学ぶガイドブックとして、本書を企業の知財担当者に推薦する。

(紹介者 会誌広報委員 M.T)

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