新刊書紹介

新刊書紹介

米国特許侵害訴訟

編著 リチャード・バレリーニ 著
出版元 経済産業調査会 A5判 200p
発行年月日・価格 2008年3月25日発行 2,400円(税別)

米国での特許係争事情や注目判例は、本誌の論説でも度々とりあげられる話題であり、その独特といってもよい考え方について、興味深く読まれている方も多いと思う。

しかしながら、実際に米国での特許侵害訴訟に当事者(特に被告)として巻き込まれるとなると、話は別である。よく知られている通り、米国で侵害訴訟に対応するには、日本国内にお けるものとは比較にならないくらいの莫大な費用と労力がかかる。さらに最悪の場合、いわゆる“三倍賠償”(本書でいうところの「増額賠償」)という米国独特の考え方が適用される可 能性もあるため、米国特許侵害訴訟の被告となった日本企業の多くは、殊更争うよりも、和解での解決を選択しがちである。

とはいえ、更なる経済成長のためにはグローバル化への対応が不可欠である現在、既に国際的なブランドを確立している企業や、これから 国際的なブランドを確立しようと志している企業は、このような米国特許侵害訴訟のリスクとは無縁でいられない。

そこで、米国特許侵害訴訟に巻き込まれるリスクを身近に感じる方に、本書を紹介したい。本書は、米国弁護士である著者が、米国外企業 が知りたいであろう訴訟実務知識を簡潔にまとめて提供することを意識したものとなっており、訴訟の事前準備から終結までのアウトライ ンを把握するのに適した内容といえる。総ページ数が200頁で、この種の本としては薄く感じるボリュームからも、比較的手にとりやすい。

内容の方も、訴訟の未然予防の段階から訴訟の終結までを概ね時系列で18の章に分け、1章平均7、8ページで各プロセスにおける知識を まとめることにより、概略を把握しやすいように構成されている。その一方で、これこそが米国特許侵害訴訟が嫌厭される要因であるともい える「ディスカバリ(第7章)」については、他の章よりも多くのページを割いて、比較的丁寧に紹介しようとする配慮もなされている。ま た、巻末には、訴訟関連の用語集も20ページほど設けられており、本書を少しでも実用に供するものにすべく工夫がなされている。

本書は、米国弁護士によって書かれた専門的な内容を翻訳したものであるため、その点で若干の読みにくさを感じることは否めないが、複 雑な米国特許侵害訴訟プロセスの全体像を理解するには適したものといえるので、分厚く詳細な専門書に取り組む前に、まずは入門編で概略 を把握したいという方に紹介させていただく次第である。

(紹介者 会誌広報委員 A.H)

新刊書紹介

判例で学ぶ著作権法入門―実践的理解をめざして―

編著 坂田 均 著
出版元 ミネルヴァ書房 B5判 192p
発行年月日・価格 2008年5月15日発行 2,400円(税別)

本書は、判例を数多くとりあげながら著作権に関する様々な権利や保護対象物等について、学生にも企業担当者にもわかりやすく解説され ており、ページ数も200ページ弱という入門書としてちょうどよい分量となっている。また、ただ単に著作権法の制度を説明してい るのではなく、それに関わる諸問題までにも展開し、身近に発生しうる事例とともに解説されており、イメージしやすいものとなっている。

本書の構成は、序章も含め16項目からなっており、それぞれ総論から始まり、関連する重要な判決を紹介、解説したうえで、要点をまとめ られているため、振り返ってポイントのみを確認したい場合に便利である。更に、ケーススタディ問題が出題、解説されており、問題集としても活用できる。

以下、16項目を簡単に紹介する。

  1. 【序】著作権法の構造
    :著作権法の構成や著作物の種類について、構成図を用いて簡単に解説。
  2. 著作物
    :著作権法の保護対象となる著作物について具体例を挙げながら解説。
  3. 応用美術
    :美術の著作物のうち、量産される実用品について解説。
  4. 二次的著作物
    :既存の著作物にどのようなもの(こと)を加えると二次的著作物となるのかを解説。
  5. 編集著作物
    :どのようなものを対象とした著作物が編集著作物となるのかを解説。
  6. 映画
    :総監督ほか様々な人が協力して 製作される映画の著作権者は誰なのか等を解説。
  7. 著作権
    :一言で「著作権」といっても様々な権利がある。著作権者に与えられる権利について解説。
  8. 共同著作物
    :上記3二次的著作物との違いを踏まえ、共同著作物となる条件を解説。
  9. 職務著作
    :法人等の従業員が職務として作成した著作物の要件や取扱いを解説。
  10. 依拠性
    :著作権侵害の条件となる依拠性について、侵害の実証要件とともに解説。
  11. 著作者人格権
    :著作者に与えられる人格権にはどのような権利があるのかを解説。
  12. 著作権の制限
    :他人の著作物を取扱うときの注意事項を解説。
  13. 間接侵害
    :第三者を介した複製等の行為が侵害となるのかを解説。
  14. 所有権と著作権の境界
    :著作物の所有権の及ぶ範囲について解説。
  15. パブリシティの権利
    :著名人の氏名や肖像に関する権利を解説。
  16. 著作隣接権
    :著作物を伝達する放送事業者等の権利を解説。

著作権法を理解するうえで、タイトルにもあるように「判例で学ぶ」ことができる入門編として役に立つ一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 T.O)

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