新刊書紹介

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著作権法

編著 中山 信弘 著
出版元 有斐閣 A5判 566p
発行年月日・価格 2007年10月10日発行 4,200円(税別)

常日頃から感じていることだが、社内において著作権関係の相談ほど回答が難しいものはない。デジタル化・ネットワーク化の進展の中、前例のない問題が日々、新たに出現している。六法をひっくり返したところで目の前の問題を扱った条文があるはずもなく、また、仮に条文の帰結から答えが分かったとしても、時代背景など種々の要素を考慮した場合、「法律の価値判断の方こそおかしいのではないか?」と不遜にも疑問を感じることがしばしばである。結局、妥当な解決案は自力で考えるしかなく、そのためには著作権法の本質的な理解が要される。本書はそのような目的に好適の1冊である。

本書は知的財産法分野の第一人者、中山信弘教授の手になる著作権法の教科書である。教科書という性質上、本書の構成は法律の規定に沿う形で、著作物、著作者、著作権…と網羅的・体系的な記述が章別に展開されている。このような構成は従来から見られるオーソドックなものである。この点、中山教授は「利用者の利便性を考えて、本書では従来通りのスタイルを踏襲することにした」と「はしがき」において述べられている。事実、本書はどこに何が書いてあるのかを探すのが容易であり、自分の読みたい項目にスムーズにたどり着くことができる。また、初学者が著作権法の全体像を把握する上でも、このような構成は役に立つだろう。

ただし、このような構成の欠点として、「筆致が平板で退屈である」「途中で読むのが苦痛になる」という点が通常は挙げられるかもしれない。しかし本書に限っては、そのような欠点とは全く無縁である。読みやすい文章や分かりやすい具体例もさることながら、随所に中山教授の正直な本音や息づかいが感じられる。「よくぞ言ってくれた!」と膝を叩きたくなるような記述や、思わず微笑んでしまうようなユーモア。本書からは中山教授の魅力的なお人柄がにじみ出ている。

内容としては、「デジタル化時代の著作権はいかにあるべきか」という点に非常に腐心されている。情報の流通促進が求められ、しかしながら、著作者人格権のような、時として強すぎる独占権が流通を阻害する。それは著作物の財としての地位を損なうことにもなる。しかしながら他方で、財としての性格を強めるなら、競争法的視座から妥当なバランスを図ることが要され、それに伴い著作権法のパラダイムは大きく変革せざるを得ないのかもしれない。財産権・人格権に留まらず、表現の自由、競争・産業政策、芸術政策など、関連する諸問題を巻き込みつつ、著作権制度はまさに混沌の状況下にある。この混沌の中、「解釈論で乗り切れるのは一体どこまでなのだろうか」という疑問に本書はひとつのブレない指針を与えてくれる。

中山教授は「序章」において「本書においては、可能な限り著作権法に一般常識を持ち込み、妥当な解決を試みるよう努めている」と述べられている。実務に従事する我々が今一度見つめ直さなければならないのは、他ならぬ「常識」なのかもしれない。そのことの重要性も本書は教えてくれる。

(会誌広報委員  松原 洋平)

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