新刊書紹介

新刊書紹介

特許の経営・経済分析

編著 財団法人 知的財産研究所 編
出版元 雄松堂出版 A5判 424p
発行年月日・価格 2007年7月25日発行 定価6000円(税別)

この本を一言で言うならば「知的財産に関する経済・経営・法学的研究で活躍中の研究者、企業の知的財産担当者等の最近の研究成果を1冊にまとめた論文集」である。

内容は、大きく4部の構成になっており、全部で14本の独立した論文で各章が章立てされている。即ち、時間のない読者は、自身が興味を持った論文だけを順に読む事ができるのである。各部を簡単に紹介すると、次の通りである。

第I部は「知的財産の取得と活用の実態」で、4本の論文が納められている。第II部は「発明者の生産性とインセンティブ」で、共同発明者間の距離、実績報奨制度の影響に関する2本の論文が納められている。第III部は「ライセンス戦略」で、3本の論文が納められている。第IV部は「知的財産制度の今後の課題」と題し、医療関連行為の特許化、審査請求制度のあり方等、ホットな問題を扱った5本の論文が納められている。 さらに、第I部の前に「序章」があり、ここで、これら全14本の論文の概要が紹介されている。いわゆる、予稿集のようなページである。先に予稿集で全体の概要を理解した後、個々の論文を熟読できるようになっており、分厚い本を読み易く構成している。この本のお勧めポイントである。

では、いくつかの論文について、その内容に触れてみることにする。まず、第1章「日本企業における国内特許と外国特許の保有・利用構成の実証分析」では、日本企業の国内特許保有件数が海外のそれと比較して著しく多いのは何故かを中心的な研究課題として実証的な分析を行っている。そして、この課題に対し、国内出願件数が多い点が特徴であり、外国特許については他国企業に比べると少ない傾向はあるものの米国特許については少ないとは言えない等、いくつかの結論を導きだしている。次に少し飛んで第7章「特許侵害訴訟・知的財産費用と「特許の薮」」では、最近話題の特許の薮の弊害が現実に顕在化しているかどうか検証している。結果、特許の薮が深刻であると予想された産業分野でも、未利用特許の所有やクロスライセンスを通じて特許訴訟を未然に防ぐと同時に知的財産費用の高騰をも抑えている可能性が示唆され、特許の薮の問題は適切に管理されているようだと締めくくっている。最後に、第14章「審査請求制度の経済分析」では、近年の審査請求件数増大の要因を、経済理論及びデータの観測(とりわけ、(1)多項制の利用の拡がり、(2)審査請求期間の短縮、(3)審査請求料金の改定、(4)企業・産業特性の影響に着目して検討)によって明らかにすることを目的としている。結論として、多項制の利用が普及していることや、請求期間の短縮により審査請求率が上昇していること等を導き出している。

以上、紹介したように、本書は、知的財産関係の書籍は法的なものが多い中、趣きを異にするが、特許の経営・経済分析に関する最近の研究成果をとりまとめたもので、有用な1冊である。特許が企業活動における財として真に重要な意味を有するようになるにつれ、このような経済学的・経営学的な分析をする研究生が増加してきており、時宜を得た出版であるといえる。本書を自信をもってお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 M.S)

新刊書紹介

著作権法詳説 第7判判例で読む16章

編著 三山 裕三 著
レクシスネクシス・ジャパン 発行
出版元 雄松堂出版 発売 A5判 571p
発行年月日・価格 2007年9月20日発行 6,300円(税込)

本書は、1995年9月号の初版以来、著作権法の概説テキストとして既に多くの法律実務家、研究者、学生、社会人から高く支持されている概説書で、2005年5月の第6版以来の最新改訂版である。

本書は、著作権および著作権法全般にわたり概論的知識を習得することを目的として、(1)著作権全般に渡り網羅的にカバーする(2)内容、水準について高度なレベルを維持しつつ、分類を工夫する、下欄で説明を補充する、適切な見出しをふるなどで分り易い形式、叙述を心がける(3)目次を細分化することより、検索を容易にし著作権法の構成、内容、最近の動向が理解できるように配慮する(4)判例を可能な限り多くかつ原文で引用する(5)著作権法の基本的な概念や学説の対立についての解説は省略する(6)実務界の運用、慣習及び裁判実務についても触れる等の方針の下、各項目ごとに多数の判例を詳細に明示しており、本書のタイトル通り判例を通じて、法律の条文だけでは理解が難しい著作権法を読み解く構成となっている。

本書の目次は次のとおり。

  • 第1章
    知的財産権としての著作権
  • 第2章
    著作権及び著作権法の特色
  • 第3章
    著作権法の制定、改正及び著作権関係条約
  • 第4章
    著作物
  • 第5章
    著作権者
  • 第6章
    著作権の利用
  • 第7章
    著作物の利用
  • 第8章
    設定出版権
  • 第9章
    著作権の変動
  • 第10章
    著作隣接権
  • 第11章
    私的録音録画保証金制度
  • 第12章
    著作権の侵害
  • 第13章
    権利の集中的処理機構
  • 第14章
    コンピュータ創作物に関する著作権法上の諸問題
  • 第15章
    デジタル化、ネットワーク化と著作権法
  • 第16章
    最近の著作権法の改正

本書は、上段における多数の判例の詳細な解説もさることながら、下段の記載内容が特に充実していることがあげられる。注釈、用語解説、判例概要、判例考察、最近のトッピックス、コラム、著作権法以外の知財関連法の動向等など多岐にわたり触れおり、実務を扱う者に非常に参考になる。

今回の改訂(第7判)は、平成18年改正法に対応し、前第6版発行以降の判例25件を新たに解説に加え、併せて全般にわたり大幅な加筆修正をしている。

著作権法を取り巻く社会・法制度の変化を正確に捉え、広く深く理解するための初学者から専門家まで幅広い読者層を対象とした概説書として好適であり、実務を扱う者にとって判例から法的解釈を読み解く必携のテキストと考えられ是非一読をお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 A.H)

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