新刊書紹介

新刊書紹介

判例に学ぶ特許実務マニュアル 第四版

編著 山内 康伸 著
出版元 工業調査会 A5判 744P
発行年月日・価格 2007年7月1日発行 9,500円(税別)

本書は、特許の基礎的事項から侵害訴訟など、紛争の際の実務における注意点に至るまで判例を紹介しながら解説されたものである。1990年に初版を、96年の増補改訂版、01年の第3版を刊行後、これに続く第4版が本書である。

第3版の刊行後、頻繁に法改正が行われ、特許侵害訴訟の場では、特許法104条の3の無効理由に基づく権利行使が制限される事例が多くなると共に、特許法102条各項に基づく損害賠償の算定でも多くの議論がなされるようになり、特許侵害訴訟におけるクレーム解釈や特許出願時の明細書の内容が格段に高い品質が要求されるものとなってきている。

このような背景から、本書では後に示す第4章の強い特許を取る出願戦略及び第6章の特許権行使に関する部分が特に充実した内容になっている。

本書の構成は以下の通りである。

  • 第1章 社会制度としての特許
    特許の仕組みの概説と共にその歴史や国際条約、社会とのかかわりを述べている。
  • 第2章 特許制度の基礎知識
    発明、特許を取得するための手続、特許権を行使するための裁判所での訴訟手続等の基礎的事項が解説されている。また、特許要件については審査基準や判例を挙げて説明されており、企業の技術者や新人の知的財産部員が分かりやすいものとなっている。
  • 第3章 特許を活かす知財戦略
    特許を有効に活用するための戦略と戦術に関して、知的財産部員の悩みどころでもある「特許出願かノウハウか」の選択や「特許か実用か」の選択方法なども含めて解説されている。
  • 第4章 強い特許を取る出願戦術
    強い権利取得のための留意事項に関して、判例を踏まえて侵害を追及しやすいクレームの立て方や明細書の記載の仕方を実務に照らして解説されている。
  • 第5章 特許を取得するための手続き
    特許庁に対する権利化手続について出願から審決取消訴訟まで取るべき対応を説明している。
  • 第6章 特許権の行使
    特許権を行使する際に必要な知識(特許権の効力、特許発明の技術的範囲)、特許権行使に係る戦略と戦術などを多くの判例を挙げて解説している。特に本書ではクレーム解釈の部分の判例を第3版から一新し、現在の特許発明の解釈基準を体系立てて示している。

特許の基本的事項から司法の場に判断が委ねられかねない特許権の解釈まで審査基準や判例に基づいて解説されており、知的財産部員が実務で判断に迷ったときの一冊として常備しておくことをおすすめしたい。

(紹介者 会誌広報委員 Y.K)

新刊書紹介

中国特許法詳解

編著 中華人民共和国国家知識産権局条法司 著
中島 敏 翻訳
出版元 発明協会 A5判 465頁
発行年月日・価格 2007年6月27日発行 6,000円(税別)

これは中国で出版されている専利法(中国特許法)の逐条解説書である。中国の弁護士・弁理士をはじめとする特許実務担当者の必読書の一つとなる重要な本である。私はこの本が翻訳されることを切に願っていた。待望の本である。逆に言えば、現在専利法の第三次改正が進められていることを考えれば、遅いくらいである。

本書の原本は2001年8月出版と少し古い。その頃中国では、2000年8月に専利法の第二次改正が行なわれ、2001年7月1日に施行され、2001年12月にWTOに加盟した激変の時期である。内容は、TRIPs協定の内容を視野に入れて、国際水準に合わせようと努めたことが伺え、今でも十分参考となるものである。

著者は、中国国務院の特許行政部門である国家知識産権局において、法律条約部門を担当し、立法(改正)事業、法律解釈及び行政規定である部門規章の立案、制定に責任を持つ条法司という機関であるから、お墨付きの一冊である。

また、訳者は、中国知財に深く通じておられる中島敏先生が中心となって纏められており、この点も大変心強い一冊である。

中国弁理士などの特許関係者と専利法に関わる仕事をする際に、彼らが学び、ベースとしている国家知識産権局による法解釈を知ることはとても重要なことだと考える。この本はまさにそのベースを学べられるものである。

また、本書は、付録として、現在進められている専利法の第三次改正に関して、2006年12月に国家知識産権局が国務院法制弁公室に提出した改正草案(送審稿)の全訳と訳著による解説を掲載している。この改正草案は、国家知識産権局がパブリックコメントを集める際に公表した内容とは異なる部分も含み、改正の方向を知る上で大変参考となるものである。

その他にも、中国法の条文には見出しに相当するものが付されていないのだが、本書では、読者の便宜を図るべく、条文見出しが付与されており、専利法に慣れていない読者に対する配慮も怠っていない。

尚、専利法の第三次改正が行なわれても、基本とする立法主旨は変わることはなく、本書は大変参考となると考える。また、本書で国家知識産権局による法解釈のベースを確認することは、第三次改正のポイントをより深く理解する一助になると考える。

(紹介者 会誌広報委員  S.O)

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