新刊書紹介

新刊書紹介

新商標法の論点

編著 第二東京弁護士会 知的財産権法研究会 編
出版元 株式会社商事法務 A5判 446p
発行年月日・価格 2007年5月15日発行 3,800円(税別)

ブランド戦略を考える上で商標に携わるケースはさておき、商標権の管理と権利保護に関わる企業実務の担当者となれば、その割合は特許の担当者に比べて格段に少ないように思う。そのため必然的に社外企画の講座を受講することは大切な情報源となるものだが、それも時間や費用の都合でなかなか叶わぬものではなかろうか。本書はそのような悩みを持つ企業実務担当者にとって非常に役立つ1冊である。

本書を手に持ったとき「おや」と思った。弁理士ではなく、弁護士会の文字が目に留まった。編纂者である知的財産法研究会とは、第二東京弁護士会の会員等により構成されている研究会であり、毎年研究テーマを決め、研究会を行っているとのこと。平成18年度の研究テーマは商標であり、公開講座を含め全10回の講演が収録されている。

演をなさっているのは第一線で活躍されている弁護士・弁理士・大学教授ある。話したとおりが活字となっており、噛み砕いた表現が多いため大変読み易い。配布された資料については、一部割愛されているものの、それぞれの講演の末尾に掲載されており、参照しながら読みすすめることが可能である。また、質疑応答も収録されている。

講演の内容は、実施日順に掲載されている。前半の5回目までに、国内出願の実務や類否判断、効力等と、外国出願制度(マドプロ商標出願、欧州共同体商標制度等)の特徴や出願実務のポイント等、基本的な事項の解説がなされている。後半には応用問題として、商標権侵害に関する判決の解説や考察、商標法の再構築に関する提言、権利保護の観点から商標権侵害品輸入の水際差止法の解説等が盛り込まれている。

本書の活用法を例として挙げると、例えば商標に関する重要な判決の件数はある程度絞られるものだが、争われた商標ははっきり思い出せてもポイントが何だったかうろ覚え、ということはないだろうか。本書では先生方の頭の中で整理されたポイントをそのまま理解することができるため、とても参考になる。

また興味深いところとして、著名な先生方がどのような要素を判断基準として持っておられるのか、通常論文や著書では語られないであろう本音のところまで、講演そのままに収録されている点が挙げられる。

商標権侵害が問題となる場面別では、主に並行輸入による侵害事件の判決及びその論点と、インターネット上で侵害とされうる事例及び権利保護のための注意点の二点について解説されており、双方とも短時間でポイントを把握することが可能である。また関税法に基づいた輸入差止申立の実務についても詳しく解説されているため、実務者にとっては有用であろう。

以上のように、先生方が語られた言葉から商標法への理解を深められる便利で貴重な一冊であるため、是非ご一読いただきたい。

(紹介者 会誌広報委員 M.K)

新刊書紹介

東アジアの商標制度(I)(II)

編著 中川博司著
出版元 (I) 財団法人 経済産業調査会 A5判 760p
(II) 財団法人 経済産業調査会 A5判 820p
発行年月日・価格 (I) 2007年5月18日発行 7000円(税別)
(II) 2007年7月 6日発行 7000円(税別)

本書は一言で言うと、「アジア主要11ヶ国の商標制度について、篤学の士である著者が、解説し、その豊富な実務経験に裏付けられ、集められた資料を、便利な一本にまとめられたものである。」(本書「推薦のことば」より)まさにその通りである。

自社でも中国・台湾をはじめ、その他のアジア諸国への販売が多く、それに伴い模倣品も発見されている。このような状況の中、やはりアジア諸国での商標権の取得は必須となってきている。

私の経験上、インターネットや特許事務所への問い合わせなどから情報を得ているが、常々、商標出願の実務に関する情報がまとまった書籍が無いものかと考えていた。というのも、上記方法で得られる情報は現地語のみであったり、現地代理人へ確認を行うために非常に時間が係るなどの問題があるからである。

そこで本書である。
まず、本書はこの2冊で以下のアジアの主要11ヶ国について情報を得ることができる。

  1. 中国
  2. 香港
  3. 台湾
  4. 韓国
  5. フィリピン
  6. マレーシア
  7. タイ
  8. インドネシア
  9. ベトナム
  10. シンガポール
  11. インド

なお、(1)〜(3)は(I)に、(4)以降 (II)に掲載。

そして、各国の商標法、施行規則、審査基準、その他条例や規定などの日本語訳が掲載されている。それぞれ掲載されている国は以下の通り。

  • 商標法:中国/香港/台湾/韓国/インドネシア/ベトナム
  • 施行規則:台湾/韓国
  • 審査基準:中国/台湾/韓国
  • その他条例および規定:中国/香港/韓国/ベトナム

詳細な目次は財団法人経済産業調査会HP(http://books.chosakai.or.jp/books/catalog/27770.html)をご覧いただきたい。なお香港の商標法については英語による記載のみである。

また、近年各国HPにより商標検索が可能となっていることから、検索結果で類否判断を行うこともあろうかと思うが、その基準は各国各様である。それが、本書では中国・韓国の章で実例をあげて丁寧な解説が記載されている点で、すぐに役立つ貴重な情報である。

その他、エンフォースメントとして記載されている、現状の模倣品に関する情報や、侵害とみなされる行為など侵害に関する情報、裁判所についての情報なども、非常に参考となる情報ばかりである。

上記以外の本書の良い点をまとめると、以下の通り。

  1. 細かく目次が記載されているため、知りたいことへすぐにたどり着ける
  2. 『ちょっと知りたい』が本書によりすぐに調べれられる
  3. 実務上知りたいと思う情報ばかり凝縮してまとめられている

最後に、あえて言うならば、フィリピン/マレーシア/タイ/インドネシア/シンガポールの情報が他の国に比べ少ないのは否めないが、それでもなお、本書は実務者にとって貴重な情報源となる書籍と言える。

(紹介者 会誌広報委員  n.k)

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