新刊書紹介

新刊書紹介

知財ライセンス契約の法律相談

編著 山上 和則・藤川 義人 編
出版元 青林書院 A5判 884p
発行年月日・価格 2007年4月12日発行 8,200円(税別)

知的財産権に関する新聞記事等も多く目にするようになった近年、IT関連業界での技術標準化に関わるパテントプール、ソフトウエアのライセンス契約、キャラクター商品やブランド商品の模倣品対策、R&Dの効率化のための技術提携やクロスライセンスなど、ライセンスに関わる話題も度々耳にするようになった。しかしながら、「ライセンス」と一言で言っても、対象とする業種やライセンス対象である知的財産の種類、関係する法律などが非常に多岐にわたり、その範囲は限りなく広範である。企業の知財担当者であっても、日々携わっていない分野に関しては、理解しがたいことも多いのではないだろうか。

本書では、このような多岐にわたる知的財産のライセンス契約に関わる諸問題を、網羅的にQ&Aの形式で解説している。

本書は全三編からなり、第一編では「ライセンス契約概論」として、ライセンス契約全般を取扱っている。「概論」とはいえ、第一章ではライセンス契約の戦略やライセンス対象技術の評価方法などライセンス契約までの準備段階での対策や実務指針について、第二章では交渉の進め方、交渉担当者の育成に関しての内容となっており、ライセンス実務の経験のない担当者が実務を始めるに当たって参考にできる内容が満載である。さらに、第三章では製薬、電気、ソフトウエア、レコード音楽業界、出版、放送事業界など業界別の特徴や留意点、商標や商品化権、パブリシティ権など技術ライセンス以外の分野に関して契約時の注意点を解説している。

第二編は「ライセンス契約各論」として、具体的なライセンス契約の各条項に関する問題点に対する問いと回答が中心となっている。契約の全体的な構成に始まり、独占禁止法とライセンス契約の関係、ライセンス対象となる知的財産との関係、サブライセンス、ライセンスの対価設定、ライセンサー/ライセンシーの義務条項、契約解除、損害賠償、紛争時の契約の解釈、裁判による紛争処理の対応、和解などに関する解説が続く。本編を一通り読めば、技術ライセンスに関わる実務的な対応を大方理解できると思われる、大変充実した内容となっている。

第三編では、「世界各国のライセンス法制」として、米国、欧州を始めとして、中国、インド、ロシア、韓国、台湾、東南アジア諸国、中東、南米との企業との間でライセンス契約を締結する際の注意点に関して解説している。各国の知的財産に関する法制度、裁判制度、各国法の背景にまで言及し、それに基づいた実務上の留意点を具体的に解説している。各企業がグローバルな視点に立って事業展開を目指す中、アジア諸国や中東の国々の企業に対してライセンス契約を検討する機会も増えている。社内に前例がない場合、手探りで実務を行わざるを得ない各企業の実務担当者にとって、業務の一助になるのではないだろうか。

始めに述べたように、「知財ライセンス契約」と言っても、その範囲は非常に広く、実務に当たっては広大な専門知識や経験を必要とするものである。本書は、その広大な範囲をバランスよく網羅した一冊と言えるだろう。ライセンス業務に携わる際には、是非一読することをお勧めする。

(紹介者 会誌広報委員 N.T)

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日中韓英 知的財産用語辞書

編著 知財翻訳研究所 北京林達劉知識産権代理事務所
KTAgency 編著
出版元 日刊工業新聞社 A5判 583p
発行年月日・価格 2007年3月30日発行 定価6400円(税別)

法律・制度というものは、各国の政策・社会状況・文化を反映するものであり、微妙に隔たりのあるものである。一方グローバル化の進展に伴い、ビジネスにおいては、各国の法律・制度というものを詳しく知った上で行っていかなければならない。このことを知的財産実務に当てはめた場合も、無論成り立つ。

中国特許の利用において誤訳問題が大きくクローズアップされていることは、人口に膾炙するところである。言語の問題である。

社会・文化を隔てる言語の問題は、通信・交通の発達した現在においても、なお大きな問題であり、言語の問題を超えることなくして、相互の理解、スムーズなビジネス展開、そして信頼関係の構築は困難を覚えるものである。つまり言語についての理解があれば、相互の意思の疎通がよりスムーズに図れるのである。

本書は以上のような思いを共有した日中韓3カ国の知財言語を業として扱う専門家が、知財言語を通じて、日中韓の相互理解の深める一助として、協業され、刊行されたものである。

本書の編著者の一人である、中国の北京林達劉知識産権代理事務所の劉新宇所長は、先にもふれた日本特許に基づく中国特許における誤訳問題を深く憂慮され、これを解決するためには、日中知財用語についての対訳辞書がまず必要であると述べられていた。また知財翻訳研究所の浜口宗武社長は、本辞書は本辞書作成に携わった多くの人の、いわば翻訳ノウハウを集めたものであり、このような地道な作業があって初めて、各国間の知財についての相互理解が進められていくと確信していると述べられている。

本書には約7000語の知財用語について日中韓英の対象語が収録されている。当初14000語にものぼる候補から、ほぼ訳語として確定していると思われる7000語を今回収録されたとのことである。

本書の活用を便ならしめるため、本書の7000語についてCD-ROMが付けられ、実務においては4ヵ国からの検索や、類語の検索が可能となっている。

もっとも、本書の活用に際しては、いくつかの留意点がある。例えば、中国語の「初歩審査」は、対応する日本語として「予備審査」が当てられているが、細かく言えば、その内容が完全に一致するものではない。また中国語の「専利」に対し日本語として「特許」、「法院」に対して「裁判所」が当てられているが、翻訳者によっては、「専利」は「専利」、「法院」は「法院」とそのままの語を用い、中国の制度であることを明確にすることがある。

言語間の隔たりは広く、完全に概念まで一致させる用語を探しだすのは困難である。

本書は、あえてこの困難に挑戦したものである。本書により日中韓にわたる知財実務がよりスムーズになり、正確になることを推し進められた。知財実務者に必携の一冊である。

(紹介者 会誌広報委員  M.N)

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