新刊書紹介

新刊書紹介

用途発明−医療関連行為を中心として−

編著 財団法人 知的財産研究所 編
出版元 雄松堂出版 A5判 310p
発行年月日・価格 2006年12月刊行 定価6,300円(税込)

医薬品産業は、世界的なM&Aの中での熾烈な生き残り競争のなかで、新薬の研究開発のほか、医薬の高度な使用方法の開発にも注力している。これら医療関連行為の特許保護については、ライフサイエンス技術の発展に伴った特許法上の問題のほか、倫理上の問題など複雑な要素をはらんでおり、そのため2004年に「医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会」により医療関連行為の特許保護に関する一応の結論は出されたものの、依然として多くの問題点が指摘され議論が続いている現状にある。実際に、保護対象となるべき治療方法等の発明の本質が、特許制度上の制約からクレームに直接表現できない、という問題に直面している実務担当者も多いのではないだろうか?

本書は用途発明、特に医療関連行為に関して、これらの諸問題に対する専門家の方々の論説を取り纏めた論文集として構成されている。それぞれの立場から多角的に論じられているが、以下に、その内容と執筆者を簡単に紹介する。

  • 序文 (東京大学 中山信弘氏)
  • I.医療行為と知的財産問題 (九州大学 熊谷健一氏)
    再生医療等の医療関連分野の進展、或いはリサーチツールの問題、及びそれらに関わる知的財産の問題について考察されている。
  • II. 医療関連行為の特許保護をめぐる現状と課題 (武田薬品工業(株) 秋元浩氏)
    「医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会」での議論に関し、その背景、結論に至る経緯、及び今後の課題等について論じられている。
  • III. 医療関連行為と用途発明 (持田製薬(株) 稲葉均氏)
    医療関連の用途発明についてどのようなクレームで保護するか、またその課題について論じられている。
  • IV. 日欧米における医療方法と医薬の特許保護 (阿部・井窪・片山法律事務所 片山英二氏、江幡奈歩氏)
    日欧米での医療関連行為や医薬発明の保護の現状について、比較して取り纏められている。
  • V. 医療を中心とする用途発明の特許権の効力 (筑波大学 平嶋竜太氏)
    医薬分野における用途発明について、その特許権の効力範囲について考察されている。
  • VI. 用途発明の審査・運用における問題点 (アステラス製薬(株) 浅野敏彦氏)
    用途発明について、特許庁での審査・運用について取り纏められている。

「医療行為自体に係る技術についても「産業上利用することの出来る発明」に該当するものとして特許性を認めるべきであり、法解釈上、これを除外すべき理由を見出すことはできない、とする立場には、傾聴に値するものがある。」と指摘した東京高裁判決(平成14年4月11日)など、「人間を手術、治療又は診断する方法」は、特許法29条における「産業上利用することのできる発明」に該当しないとしてきたこれまでの法解釈に対する疑義も生じつつある。医療関連行為の特許保護について今後の動きを注視していくことは勿論、その現状や課題を把握することは、特に製薬企業の知財担当の方には必須であると思われ、是非本書をご一読されることをお薦めする。

(紹介者 会誌広報委員会 S.I)

新刊書紹介

明細書の記載、補正及び分割に関する運用の変遷
−特許法改正と実務上の留意点−
(昭和50年改正から平成18年改正まで)

編著 著者 西島 孝喜
編集 日本弁理士共同組合
出版元 東洋法規出版 A4判 280p
発行年月日・価格 2007年2月7日発行 3,980円(税込)

ここ十数年、特許法等知的財産権法に関する法改正が度々行われてきている。これは、社会において知的財産権に関する認識および重要性が高まっているなかで、知的財産を適切に保護するため、時代の要請を踏まえたタイムリーな改正がなされてきたと捉えることができる。

一方で、特許出願等の実務的観点からみると、これら度重なる法改正へ的確に対応するために、代理人として責任ある出願対応等が求められる弁理士、また、日々多くの特許出願案件と向き合う企業の知財担当者は相当な負担が強いられることにもなろう。どの法改正が対象なのか、その判断を誤り、間違った対応をとると企業にとって重要な知的財産を失ってしまうことにもなりかねない。

本書は、こうした法改正に伴う的確かつ効率的な実務対応を行うための助けとなるよう、明細書の記載及び補正に関連する法改正や分割、発明同一の運用の変遷を纏めたものである。また、本書における法改正の対象は、現在の実務において影響のある昭和50年から直近の平成18年までの法改正をカバーしている。

本書は、18章で構成されている。このうち1章から5章までは、明細書の記載及び補正に関連する各法改正の位置づけや概要が簡潔に纏められ、続いて審査基準がどの法改正に対応しているのか、また、当該審査基準の解釈における実務上の留意点等の解説がなされており、順を追って理解が進む構成となっている。

そして、本書がより実務上有用となっているのは、6章以降に取り纏められている別表群である。この別表を活用することで、どの時点の出願がどの時点の特許法に対応しどの審査基準の影響を受けるのか、短時間での判断が可能となると考えられる。また、明細書の記載及び補正等に関する取扱の変遷についても一覧表で整理してあり、時系列に整理された法改正項目を俯瞰することで、前段の解説とあわせ法改正の内容を正しく理解するのに大変役立つものと言える。このように丁寧に表として整理されたものは実務的には大変ニーズのあるものであるが、これまであまり例がなかったのではないか。その点でも、本書は実務者の声をくみいれた良書と言える。

本書は、出願実務に携わる方々にとって、現実に問題となる法改正がきっちりカバーされ、まずこの1冊から入れば、あれやこれや参考書籍を探す手間がなくなるだけでも大変便宜と考えられ、実務的に実効性のある解説書である。また弁理士試験を目指す方にとっても受験勉強に大変立つ1冊と思われ、おすすめしたい。

(紹介者 会誌広報委員 S.K)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.