新刊書紹介

新刊書紹介

ライセンス契約のすべて

編著 吉川達夫・森下賢樹・飯田浩司 編著
出版元 発行 レクシスネクシス・ジャパン
発売 雄松堂出版A5版 255p
発行年月日・価格 2006年11月29日発行 3,300円(税別)

ライセンスは、差止・損害賠償請求権の行使と並ぶ、知的財産権の「行使」の場面のひとつである。しかしながら、後者においてはもっぱら権利範囲の解釈が問題となるのに対して、前者は、むしろビジネス上の取り決めである契約の問題が主となるものであって、性質が大きく異なる。後者に通じる(知財担当者のあるべき姿と思われる)ことは、必ずしも前者に通じることを意味しないということができるように思われる。

本書は、その書名のとおり、ライセンス契約に的を絞って網羅的に解説するものであって、この問題を概観しようとする際に役立つものである。知的財産に関する(特に侵害論に関する)知識を一通り身につけた上で本書を読めば、権利行使のもうひとつの側面であるライセンスに関する知見を得られて、より知的財産に対する理解を深めることができるのではないだろうか。

本書が取り扱っている契約類型は、特許ライセンス契約、商標ライセンス契約、著作権ライセンス契約、ソフトウェアライセンス契約(約款を含む)、フランチャイズ契約、ノウハウライセンス契約、アフィリエイト契約、製造・販売ライセンス契約、製造ライセンス契約、輸入ライセンス契約、国内販売ライセンス契約の11種類である。法律上は個々の権利の不行使契約と構成することができるとしても、契約としてはそれぞれのビジネススキームに応じてさまざまに姿を変える(同じ特許権に関するライセンスであっても、製造ライセンス契約と製造・販売ライセンス契約とでは姿が異なるといった如く。)ものであるから、ビジネスに応じて分類・解説がなされているのは、理解を助けるものとして有用である。

そして、それぞれの契約類型ごとに、(1)ビジネスモデルについての解説、(2)ビジネスにまつわるリスクについての解説、(3)関係法令等についての解説、(4)モデル契約書をもとにした重要な条項についての解説、(5)モデル契約書、という順序での叙述という構成が貫かれていることが本書の特長として挙げられよう。契約は、つまるところビジネスの取り決めごとであって、それを文章化したものが契約書の文言なのであるから、契約を理解するためには、その背景にあるビジネスがわかっていなければならない。仮にモデルとなる契約条項についての解説((4))を提示されたとしても、契約に通じた方であればいざ知らず、これから契約について学ぼうとする方にはおそらく有意義なものとはならないのではないかと思われる。この点、本書では、契約の背景となるビジネスについての解説((1)〜(3))が詳しく記載されているため、続く契約条項の説明とモデル契約書とあわせて、契約に通じていない方でも簡単にライセンス契約を学ぶことができるといえよう。

また、法律の場合には当事者間の公平が前提として考えられるものであるのに対して、契約では当事者間の力関係によってすべてが決まるといっても過言ではない。本書は、そのことを出発点として、当事者としていかに振舞うべきかという視点が込められており、よく契約の世界を知ることができる。

ぜひ一度本書を手にとって、ライセンス契約の世界に触れてみてはいかがだろうか。

(紹介者 会誌広報委員会 J. I)

新刊書紹介

日中対訳・逐条解説中国特許全法令

編著 中島 敏著
出版元 (財)経済産業調査会 A5判 1647頁
発行年月日・価格 2006年12月10日発行 定価18500円(税別)

日本から中国への特許出願が今や年間約4万件となり、中国特許制度を理解せずしては、特許実務が不可能になりつつある現状である。この状況のもと、中国知財関係の情報はあまた溢れている。しかし、このあまたの情報を断片的なものが多く、包括的であっても概略を示したものにすぎず、いざ実務において参照しようとすると、これら文献を自分なりに整理する必要が生じてくる。特に関係法令を参照しようとするとき、日本語に翻訳された法令集が手元にあったとしても、中国法制度の複雑性から、特許法のどの条文だったか、関連する実施細則はあるのか、はたまた司法解釈は、行政法規はと、いちいち当たる必要が生じ、なおかつ抜け落ちがないかという不安感が襲ってくる。内容を理解しようとして袋小路に迷いこむこともある。

本書は中国特許法の全条文について、関連する司法解釈・下位規程等を分類・引用して解説するとともに、関連法規等計69法令を日中対訳で全文収録又は抄録したものである。2006年9月末までに施行された全ての下位法規が収録されている。また、審査手続に適用される「審査指南」も、必要と考えられる個所は2006年7月1日施行の最新のものを引用して説明されている。

中国知財に造詣の深い中島先生が2年の歳月をかけて纏められたものだけに、かゆいところに手が届くという、本当に中国特許に関する実務者にとっては待望の書というべきものである。中国にも、このように纏められた書はないのではないかと思う。まさに歴史的な1冊というべき書である。

中島先生は、長年にわたり中国の知財に関する立法担当者・実務者・研究者との交流・意見交換により、深く中国知財に通じておられる。この深い理解があってこそ、本書が出来上がったと思う。

本書の特徴的な点は第三次改正動向にも触れられていることである。

中国国家知識産権局は特許法第三次改正について、2006年8月1日に「第三次改正意見徴収稿」を公表した。この改正案に対して中島先生も同年8月、9月北京と東京において国家知識産権局条法司、全人大法制工作委員会、国務院法制弁公室、最高人民法院及び日本特許庁等との検討会に参加する機会を得、また書面で修正建議も提出されている。国家知識産権局は提出された各種の建議を検討したうえで、同局の最終案を確定する。つぎに、国務院法制弁公室へ送付して、ここで検討されたうえ、更に全人大法制工作委員会へ送付されて検討され、全国人民代表大会常務委員会へ提出されることになる。従って改正法の施行は2008年以降となる見透しである。

本書は一読して、読了というものではない。座右におき日々の実務に参照すべき必携の一冊というものである。

(紹介者 会誌広報委員 M.N.)

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