新刊書紹介

新刊書紹介

同一性保持権の研究

編著 松田政行 著
出版元 有斐閣 A5判 290p
発行年月日・価格 2006年8月20日発行 4,800円(税別)

「同一性保持権の研究」という非常にストレートなタイトルを持つ本書であるが、この「同一性保持権」について、ここまで深く追求された書籍は過去になかったのではないだろうか。

著者である松田先生は以下の2つの基本的思想に基づき本書を展開している。

第1に、「著作物の経済的・文化的価値は保護範囲を左右せず、公権力(裁判所を含む)は価値の決定に参加しないという原理である。これらを決定しうるのは、ただ、自由市場と自由な言論の場だけである(自由権的著作権思想)。」

第2に「著作者は自由市場と言論の場に著作物を供給するにあたり著作物の何たるかを自己が決定しうるという考え方である(同一性保持権の行為規範性)。」

本書は下記の構成からなっている。

  • 序章
  • 第1章 同一性保持権法的性格
  • 第2章 著作権法20条の規範的内容の分析
  • 第3章 具体的事例の分析・主要判例
  • まとめ

以下に、本書の主な内容を紹介する。

第1章では、同一性保持権の法的性格としてその意義、立法の経緯、ベルヌ条約、万国著作権条約をはじめとする諸条約や協定において同一性保持権がどのように規定されているかや、外国の立法状況として、イギリス・フランス・ドイツ・カナダ・スイス・イタリア・韓国・オーストリア・オーストラリアの状況を紹介している。また、米国についてはベルヌ条約加盟までの経緯を含めて更に詳しく解説されている。

第2章では、詳細な条文解釈がなされている。
活字だけが延々と続くこともなく、適度に解りやすい図表として整理されており、理解を深めるのに大いに役立つ。特に、前述した諸外国における立法例が細かく整理された「同一性保持権立法例等一覧表」は秀逸の出来である。

第3章では、パロディーの問題について、パロディーモンタージュ事件、ゲーム改変ソフトの問題について、ときめきメモリアル事件を中心に関連する裁判例を余すことなく細かに解説している。

本書全体を通じて言えることだが、単なる学説の紹介に止まることなく、読んでいるこちらが心配してしまうくらい著者の私見がちりばめられている。なるほど文末には「本書の目的の一つは、同一性保持権に関する立法政策の私見を発表することであった。著作者、利用者からの批判を甘受するつもりで公表した。」とある。確かに、著作者と利用者の利益は相反する面が多分にあり、そのバランスを取ることは難しい。しかしながら、何れの立場に立つにせよ、本書のように一歩踏み込んだ提言こそ、より良い著作権法の立法政策のためには不可欠であろう。

本書は、デジタルコンテンツに関連する「著作者」にも「著作物の利用者」にも是非読んでいただきたい一冊である。

(会誌広報委員  H.Y)

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