新刊書紹介

新刊書紹介

企業における適切な営業秘密管理
〜平成17年不正競争防止法改正・営業秘密管理指針改訂〜

編著 経済産業省知的財産政策室 編著
出版元 経済産業調査会 A5判 278p
発行年月日・価格 2006年5月20日発行 2,800円(税別)

企業の知財担当者にとって、不競法は、専ら2条1項の1号から3号までの行為類型が業務の射程範囲だった訳ですが、昨今の人材の流動化やコンプライアンスの風潮の中、4号以降の「営業秘密」も無視できない状況となりつつあります。

会員企業の知財担当者におかれましても、上層部から営業秘密への対応を迫られている方が結構いらっしゃるのではないでしょうか。

本書は、平成17年10月に改訂されました経済産業省策定「営業秘密管理指針」を紹介するものです。同指針は経済産業省のホームページからも取出せますが、指針を真に理解するうえで必要な情報も併せ一冊の書籍としたことに、本書の大きな意義があると思います。第一義には「営業秘密管理指針」を活用してもらうための書籍と考えてもよいでしょう。

本書は下記の4部で構成されており、巻末には平成17年改正の不競法の全条文が掲載されています。

  • 第1部 営業秘密管理指針
  • 第2部 営業秘密管理Q&A
  • 第3部 不正競争防止法の逐条解説
  • 第4部 営業秘密関連の参考判例

第1部の指針では、第1章で指針の全般を概観した上で、第2章で不正競争防止法上の営業秘密に関する部分につき説明し、第3章で営業秘密の実効的な管理方策ついて述べています。

第4部の参考判例は44例掲載されていますが、前回(平成15年)の指針策定以降の判例が実に半数以上を占めており、これらの判例の蓄積が、今回の指針において不競法上の保護を受け得るために最低限必要な「ミニマム水準」を説示する上での充実ぶりに反映されています。

しかしながら本指針の要諦は、営業秘密の不正開示それ自体を防止するための「望ましい水準」を具体的かつ体系的に説示している点であり、本書はそこに多くの紙面が割かれており、有用な秘密情報を大切に利用するために、秘密管理に組織で取り組むことの重要性を説いています。この「望ましい水準」の説示は、企業が目指すべき確度の高いモデルとなり得るものと思います。

本書は、第3部の逐条解説を参照しつつ、第1部の指針を通読し、最後に参考判例にあたることを薦めます。第3部の逐条解説は営業秘密に関する条文のみを対象としており、特に営業秘密に係る不正競争の各行為類型については図入りで解りやすく説明されており、参照しやすいものとなっています。

また、第2部のQ&Aには、指針そのものの内容に関する疑問点や実務上問題となりうる点の20項目についてわかりやすく解説されており、いきなり指針を通読するのに抵抗のある方はこのQ&Aから本書に入るのもよいでしょう。

第4部の参考判例も、体系的に、要点の漏れなく、判決自体を概観できる程度に程よくまとめられています。第3部の逐条解説、巻末の条文とも含め、それ自体が非常に資料価値の高いものとなっています。

そして、これら有用な情報が一冊に纏められた結果、本書は、初学者、実務経験者問わず、営業秘密について対処するときの端緒に位置付けられる書籍となっています。勿論、必携の書籍です。

(紹介者 会誌広報委員 K.Y)

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