新刊書紹介

新刊書紹介

中国特許権侵害の認定
〜米国特許法および判例との比較研究〜

編著 程永順・羅季華 著
張立岩 訳
日本弁理士協同組合 編
出版元 東洋法規出版 A5判 380p
発行年月日・価格 2005年12月26日発行 5,500円(税別)

米国企業が2005年に中国で行った特許申請件数は、前年より30%増となり日本に次いで第2位となった(市場報(人民日報主辧)2006年02月20日)。今や中国への世界的な注目度が高まっていることに疑いはなく、日本のみならず世界の多くの企業が中国への特許出願及び権利取得を行っている。

しかしながら、中国の実質的な特許制度は、中華人民共和国特許法が1985年に施行されて以来のまだ20年程度しか経過しておらず、米国などと比べるとその歴史はまだまだ浅い。それゆえ、中国での権利解釈の現状や特許権侵害の判定などについてよく把握できていない知財関係者も多いのではないだろうか。

本書は、中国における権利解釈や特許権侵害判断について、中国の裁判官と中国出身の米国弁護士とが、主に米国の特許法及び判例と比較しながら詳細に解説したものであり、多くの知財関係者にとっては非常に有益な一冊となるであろう。

本書の構成は、第1部「クレームの解釈」、第2部「特許権侵害行為」、第3部「特許権侵害の判定」、第4部「侵害抗弁」、第5部「意匠の権利侵害の判定」となっており、各部はさらに細かく章分けされ詳細な説明がなされている。

その内容を簡単に紹介する。

第1部「クレームの解釈」では、クレームの役割、クレーム作成方法、クレーム解釈の原則、クレーム解釈権の帰属先について、米国のみならず日本や欧州の場合も絡めながら説明されている。

第2部「特許権侵害行為」では、特許権侵害行為について、直接侵害と間接侵害とに分け、判例を挙げて米国と対比しながら、どういったケースが侵害とされるのか詳細に検討されている。

第3部「特許権侵害の判定」では、均等論と禁反言を中心にした特許権侵害の判断について詳述されている。また、中国特許法には規定がないが、今後判例が多くなると思われる「余計指定の原則」に関しても第7章にて説明がなされている。

第4部「侵害抗弁」では、第3部までとは角度を変えて被疑侵害者の側の観点に立ち、特許無効の抗弁や、用尽・先使用権を含む権利侵害の例外などについて説明がなされている。

第5部「意匠の権利侵害の判定」では、米国特許法と同様に中国特許法にも含まれている意匠に関し、その保護範囲や侵害の判定基準などについて、図を多用して説明がなされている。

本書は、中国で刊行されている「専利侵権判定」の翻訳とのことであるが、終始分かり易く記述されており、翻訳文にありがちな読みにくさや難解さは感じられない。また、本書では、適宜日本や欧州についての例も挙げながら、豊富な判例・事例を用いて解説されているため、取っ付きやすくかつ実務的な内容になっている。

日本企業の知財関係者の中には、中国の事案を多く担当している人や、あるいは今後多く担当するであろう人がたくさんいるのではないかと思う。本書は、そのような方々にとって、中国への出願業務や中国での権利行使をする際の一助になるのではないだろうか。ぜひ一読されることをお勧めする。

(紹介者 会誌広報委員 K.S)

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出願人のための特許協力条約(PCT)

編著 下道 晶久 著
出版元 社団法人発明協会 A5 530p
発行年月日・価格 2005年11月30日発行 3,990円(税込)

本書は、特許協力条約(PCT)の戦略的利用から実務までを解説した最新版である。

近年、締約国のみなし全指定、国際調査報告に加えて国際調査機関の見解書が作成されることとなり、予備審査を請求しなくても新規性、進歩性及び産業上の利用可能性についての見解が得られることとなった等、PCT制度は大きく発展を遂げてきた。このことから、PCTの活用は、制度の知識はもとより、多数国出願の有効な手段として、必要不可欠となっている。

本書は、PCTの基本的な事項や、条文から出願の実務まで解説し、PCTを初めて学ぶ人、すでに利用している人が、具体的な問題への応用的・発展的な理解が出来るように解説した書である。

著者は1987年5月〜1992年5月まで、世界知的所有権機関(WIPO)、PCT管理部に在籍され、1996年4月から弁理士として活躍され、日本知的財産協会定例研修講師を初めとして、PCTの普及に力を注いでおられる。

本書の目次を紹介する。1章:PCTの概要、2章:PCTの経緯と現状、3章:PCTに基づく手続きの流れ、4章:国際出願、5章:願書の作成、6章:明細書、請求の範囲、図面、要約の作成、7章:国際出願時の手続、8章:国際出願時に考慮すべき事項、9章:国際出願後の取下げ、明白な誤りの訂正、名義等の変更、10章:国際調査、11章:国際調査報告、12章:国際調査機関の見解書、13章:国際調査報告及び国際調査機関の見解書受領後の出願人の対応、14章国際公開、15章:WIPO国際事務局の役割と業務、16章:国際予備審査請求、17:章国際予備審査、18章:国際予備審査機関の見解書、19章:国際予備審査報告、20章:国内段階移行

本書は総論から各論という構成を採っていて、章の最初に概略が記載されているので求める章を選択して読むことができる。PCTを始めて利用する人は1章から3章までを読み、PCT制度の概要及びその手続きの流れを理解すると良い。

主な章について内容を紹介する。第5章では願書の様式を示して、具体的な記載例を示し、8章では国際出願時に優先権を主張する場合に考慮すべき事項につき図を用いて解説し、また12章では国際調査機関の見解書につき例を交えて解説し、13章では19条補正、国際予備審査を請求する場合や答弁書、補正書を提出するタイミングについて、14章では国際公開の様式について、15章では受理官庁としての国際事務局、その他事務局の役割について、16章ではどんな場合に国際予備審査を請求したらよいか、予備審査請求書の記載について、17章では国際予備審査についての解説と予備審査への対応、18章では国際予備審査機関の見解書について、19章では国際予備審査報告の詳細について、20章では国内段階への移行期間、移行手続き、移行時の補正について書かれている。

いずれの記載も出願人の立場に立ち、実際にPCTを利用する際に、出願人が必要とする情報を提供し、具体的な手続きについて解説してある。また図を随所に使用して分かりにくいPCTの手続きを分かり易く解説されている。

(紹介者 会誌広報委員 T.S.)

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