新刊書紹介

新刊書紹介

ヨーロッパ特許条約実務ハンドブック

編著 高岡 亮一 著
出版元 (株)中央経済社出版 A5判 290p
発行年月日・価格 2005年10月15日発行 3800円(税別)

先進国と途上国を含めたグローバルな競争時代に突入したことに伴い、国際的な競争力を維持するために日本企業の外国出願は増加傾向にあるのではないだろうか。そのような環境の中で、日本企業の米国、日本と並び3極と称されているヨーロッパ特許を取得するニーズは高いものがある。しかし、新聞に知的財産に関する記事が頻繁に掲載されるなど知的財産の関心が高まり、知的財産関係の書籍が書店にあふれている状況の割には、ヨーロッパ関連の知財実務書は少ないように思える。審査基準が難解、難読であることに起因しているからであろうか。わが国の実務家向けに、ヨーロッパ特許条約についての十分な情報が提供されているとはいえない状況である。

本書は、前述した状況を打開すべく、わが国の実務家向けに欧州特許条約を体系的に解説した実務書である。2003年末に大改訂された難解な審査基準をも含んだ最新情報を提供するものであり、以下のような5章構成になっており資料としてヨーロッパ特許条約が掲載されている。

  • 第1章 欧州特許条約の概要
  • 第2章 欧州特許出願の準備
  • 第3章 特許要件
  • 第4章 審査
  • 第5章 欧州特許
  • 資料 ヨーロッパ特許条約(英文)

まず第1章で欧州特許条約について概観し、第2章以降、実際に特許出願する手続きに沿って解説がなされており、初心者でも理解しやすい構成になっている。つまり、欧州特許出願実務に通じていない初心者でも、特許出願業務遂行するに際して必要な箇所を探し出すのが容易なのである。

冗長な法律解釈論はあえて避けており、実務に長けた著者が独自の視点で、クレーム及び明細書の記載、審査での応答など実際に欧州特許出願をする際に実務家が必要とされる情報に焦点を絞り平易な表現で解説している。また、欧州特許出願のプロセキューションに関するテクニックについても随所に見られ、実務をしながら関連する箇所を読むことにより、欧州特許出願実務に通暁することも可能であろう。

初心者にも理解しやすい内容にもかかわらず、

ある程度実務経験のある中級実務者にも参考となる内容となっている。本書を通して、いままで知ることのなかったテクニックを知ることになると思う。

欧州特許出願実務をする時々に生じる疑問に明確に回答してくれる本書は、常に手の届くところに置かれることにより実務遂行の一助になることはまちがいない。

(紹介者 会誌広報委員 M.N)

新刊書紹介

中国知的財産制度の発展と実務
〜中国知的財産制度20周年記念論文集〜

編著 劉新宇 監修
金明イク 翻訳
柏原長武 構成
出版元 財団法人 経済産業調査会 A5判 478p
発行年月日・価格 2005年11月20日発行 4300円(税別)

本書は、中国特許法の施行から20周年を迎え、躍動する中国において知的財産法の実態はいかなる状況なのか、またこの20年間どのように歩んできたのか、中国知的財産界を代表する指導的立場にいる方々と、日本の中国知的財産法に関するトップレベルの専門家の方々の、実際の経験から語られる生の現場報告が、25編の論説としてまとめられたものである。

本編は3部構成となっている。各部の内容について以下に簡単に紹介する。

  • 第1部「発展と交流」
    中国が改革開放から知的財産についての経済的効用を認識し、他国からの知的財産商品の導入を容易にし、さらに自国創設の知的財産商品の開発推進、産業化までを描く。また、知的財産制度を自国内に導入していく過程における交流の様子も紹介している。
  • 第2部「保護客体」
    注目されている新たな保護客体「営業秘密」「ビジネスモデルに関する発明」「伝統的知識・民間伝承物・遺伝資源」「漢方薬の知的財産」などに関する中国での保護体制・保護法について、これまでの過程や現状、そして問題点を抽出し、中国がどのように取り組んでいるかを描いている。
  • 第3部「実務」
    特許訴訟について、どういった種類のものがあり、管轄となる行政機関はどこなのか、といった説明に始まり、申立人の実務、権利侵害と認定されるまでの経緯、審査基準、将来起こりうる特許訴訟に対応した出願明細書の書き方、そして今日における行政訴訟の問題点など、また2件の判例から見た意匠の類否判断について、実務に関して詳細に描きだされている。

第1部では、中国における知的財産制度の発展・進化の過程と現状とを理解することが出来、今抱えている問題について、普段の我々他国からの目線とは逆の立場で、中国人目線の考え方や捉え方なども筆者のコメントからたびたび垣間見ることが出来るのは、中国における現状の理解を深めるだけでなく、今後の動向を探るうえで鍵となると思われる。

第2部と第3部においては、実務的な内容を項目ごとに絞って詳しく論じられているため、実際の実務で直面する機会のない項目については、難解な部分や単語もしばしばあったが、さほど気にせず読むことが出来、全体を見ても比較的読み易いと思う。また、興味ある部分だけを読むことも可能であり、有効である。

そして、全体的に話題性の高い事項について様々な観点から28名もの専門家により論じられていることも、中国における判断の傾向を推察するのに非常に有効な点であると言える。

以上のように、中国の知的財産法の実態を知る上で、本書は非常に有効で貴重な情報源であると言え、是非今一読しておきたい書籍である。

(紹介者 会誌広報委員 n.k.)

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