新刊書紹介

新刊書紹介

職務発明規程実務ハンドブック

編著 太田大三 著
出版元 商事法務 A5判 261P
発行年月日・価格 2005年8月5日発行 3,600円(税別)

2004年の通常国会において、職務発明に関する特許法第35条が改正、2005年4月からの施行以降、職務発明関連の書籍が多数出版されている。タイトルの通り本書もそのうちの一冊である。

筆者の太田大三弁護士は、平成15年から経済産業省特許庁総務課工業所有権制度改正審議室に法制専門官として、今般の特許法第35条改正の立法案の策定作業に従事され、改正後の特許庁主催の各種説明会などでも講師をされた。本書は、これらの経験を土台として、実務対応を中心に書かれている。

第1章では、知的財産に対する関心の高まりや雇用環境の変化から職務発明の「相当の対価」について議論が高まった背景などと、それに伴う特許法第35条の改正までの経緯を、「オリンパス事件」の判決なども引用しながら概観している。

第2章では、新特許法第35条の解釈について、第1項から第5項までの全条項について詳細に解説している。

第3章では、職務発明規程の立案・策定段階において検討が必要な項目について解説している。(1)職務発明規程の位置付け、(2)適用範囲(人的適用範囲、物的適用範囲、時的適用範囲)、(3)承継(届出義務、発明者の認定、承継要否決定)、(4)対価(対価の形式、算定時期、不合理とされないための算定額レベル、支払時期、支払方法)、(5)意見聴取(意見聴取の必要性、方法、不服審査制度)、(6)共同発明(承継等、対価)、(7)協議(協議の方法、スケジュール、相手方、労働組合との協議、協議過程・結果の証拠化)などを時系列的に解説されている。

第4章では、策定した職務発明規程を運用・管理について解説している。どのような管理をすべきか、職務発明規程の開示、新入社員等への適用、規程改定などについて具体的に解説されている。

第5章では、職務発明規程を例示し、具体的にどのような項目を定める必要があるのかを検討できるよう解説している。

第6章では、職務発明規程ではなく、契約による場合の検討事項を解説している。

第7章では、契約書を例示し、具体的にどのような項目を定める必要があるのかを検討できるよう解説している。

本書を読み終えて、実務経験の浅い担当者が特許法第35条の解釈を深め、実務での適切な対応を検討するのにとても参考になると感じた。

もうすでに、多くの会員企業では改正法に対応すべく、社内規定の新設・改定がなされたと思うが、職務発明規程や個別契約書が例示されているので、まだ、改正35条への対応が完了していない、職務発明規定の条項に不具合がある、職務発明規定または個別契約の運用に困っているなどの会員企業の実務担当者にも参考となると感じた。

現在、会員企業で知的財産に携わる方々は、本書を一読されてはいかがだろうか。もしご自身が認識されている課題があるならば解決のヒントが記載されているかもしれない。

(紹介者 会誌広報委員会 浅井修)

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知的財産法重要判例

編著 金井重彦 他 編著
出版元 学陽書房 A5判 546p
発行年月日・価格 2005年7月25日発行 3,200円(税別)

知的財産に関するニュースが頻繁に報道されるようになり、これらが一般誌の一面を飾ることも決して珍しくない今日、知的財産の社会における重要性は確実に高まってきている。

知的財産に関する係争と言えば、従来は同じ分野で競合する企業同士が鎬を削るものがほとんどであったが、最近では職務発明の対価や権利の帰属を巡って、元従業員が退職した会社を訴えるケースも出始めている。

技術の進歩や社会情勢の変化に伴って多様化する争訟に対応するためには、知的財産法の理論と実務を理解するだけでなく、判例で示された考え方についても学ぶ必要がある。このような考えを抱いた著者が、法曹界や企業で知的財産に携わる人等を対象として、重要判例について編纂したのが本書である。

収録されている判例を紹介するために、以下に目次の一部を示す。

第1章 特許・実用新案
【明細書の詳細な説明の参酌】

  • 燻し瓦製造法事件
  • リパーゼ事件

【特許請求の範囲と訂正】

  • クリップ事件
  • フェノチアジン誘導体事件

【公知技術の参酌】

  • 炭車トロ脱線防止装置事件
  • 液体燃料燃焼装置事件 他

第2章 著作権
【著作権の相対性】

  • ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件

【著作物の創作性】

  • システムサイエンス事件
  • 新橋玉木屋事件
  • 木目化粧紙事件

【量産品と著作権の成否】

  • 博多人形事件 他

第3章 不正競争
【周知表示】

  • 大阪第一ホテル事件
  • 多摩信住宅販売事件
  • ルービック・キューブ事件
  • 流通用ハンガー事件
  • かに将軍事件 他

【著名表示】

  • リーバイス事件
  • セイロガン糖衣A事件
  • 呉青山学院中学校事件 他

第4章 商標・意匠
【著名表示を内容とする商標権と権利濫用】

  • ポパイ事件

【類似判断の基準】

  • ポロ事件
  • SEIKO EYE事件
  • Labrador事件

【類似判断の基準、商標権の及ばない範囲、損害の不発生と使用料相当額の請求】

  • 小僧寿し事件

・・・・・・以下略

先ず事案の概要を総括し、次に判旨を引用してコメントを加えた後、判決の根拠を問う、或いは条件を変えた質問が設定されており、読者なりの検証を促す構成になっている。判旨は争点ごとに簡潔に整理され、事件の特徴を短時間で把握できる。また各事件の末尾には、関連裁判例も記されているので、実務家はもちろん、学生や弁理士受験生にも好適の書である。

このように、独自の観点から107の重要判例を収録した本書は論点が分かり易く纏められており、是非一読をお勧めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.K)

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