新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産法判例集

編著 大渕哲也・茶園成樹・平嶋竜太・蘆立順美・横山久芳 著
出版元 有斐閣 A5判 411p
発行年月日・価格 2005年5月10日発行 2,800円(税別)

法律を学び始めの初学者にとって、判例は敷居が高いものである。

まず、決まった数しか存在しない法律条文と違い、無数にある判例にはどれから手をつければよいのか、という点に初学者は悩まされる。次に、手に取った判例を眺めてみても、圧倒的な文字数が記載された紙を前にしたその瞬間、自分にはまだ早いと萎縮し、当分の間は判例には近づかないでおこうと心に決めてしまうためだ。

知的財産法が注目を浴び、大学等でも知的財産法を学ばれる方が増えているが、判例研究に手をつけられないでいる方の多くが、そうした食わず嫌いの状況にあるのではないだろうか。

「法学部や法科大学院等での知的財産法の授業における教材としての利用を主に念頭においている」という本書は、知的財産法の分野毎に必要な判例として、最高裁判例を中心に平成17年3月のものまで約200件を収録した判例集である。

以下に示す全体構成からも分かるように、分野毎に、少なくともこれだけはという重要判例に絞り込んである点において、判例研究の最初の一歩を踏み出す初学者にはもってこいの一冊であると言える。

  • 第1章 特許法、実用新案法(60件)
  • 第2章 意匠法(5件)
  • 第3章 商標法(30件)
  • 第4章 不正競争防止法(30件)
  • 第5章 著作権法(60件)
  • 第6章 その他の知的財産法(2件)
  • 第7章 渉外関係(8件)

各章には法律解釈上の争点となる事案、例えば、特許権の侵害等(第1章VIII)においては、「クレーム解釈」「均等論・間接侵害」「抗弁等」といった区分けを行い、各々の主要な判例について「事実」及び「判決理由」を短くまとめる構成を取っている。実際に法律が如何に適用され、解釈されているのかを理解することは法律を深く理解するためには不可欠な取り組みであるが、本書によるとそれを効率的に実施することが出来るであろう。

特に、不正競争防止法、著作権法の章においては、例えば、模倣行為に関する事案を取り扱った判例では、原告、被告の商品写真を資料として対比掲載するなど、従来の判例集より事実関係を容易に掴めるよう工夫されており、この点からも初学者には取り扱いやすく、教材としての利用価値が高いものであろう。

以上の内容、つまり、法律上の争点、代表的な判例、その事実及び理由を読むだけでも、条文の理解は格段に深まることになるだろうが、本書では、さらに発展的な学習を出来るようにするため、著者独自の「レファレンス欄」が設けられている。この欄は先に紹介した判例とは、反対の立場の判例を含む関連判例等を紹介するものであり、これにより先に争点となった事案をより深く理解することができる構成とされている。

まずは、気になる法律条文毎に本書の該当箇所をチェックし、その後、レファレンス欄により発展的な学習につなげることが出来れば、もはや知的財産法の判例に食わず嫌いはなくなっているだろう。

なお、上記の構成のように、代表的判例を網羅した判例集であることから、実務家にとっても有用な一冊であることはもちろんであり、座右において日々の事案検討の参考とされることをお勧めする。

(紹介者 会誌広報委員会 越後光弘)

新刊書紹介

知的財産法概説

編著 相澤英孝 編著
西村ときわ法律事務所 編著
出版元 弘文堂 A5判 450p
発行年月日・価格 2005年6月30日発行 4,000円(税別)

知的財産とは、人間の創造的活動により生み出されるものから、商標、商号及び事業活動に有用な情報までも含まれると一般的に解釈されるが、本書ではこれらの知的財産に関する情報を財産権として保護する法体系が「知的財産法」であると冒頭で定義している。

最近、新聞やテレビで知的財産に関するニュースが流れない日がないほど、一般の人々にも馴染みのある言葉になっているが、上記のような定義や内容が理解され、正しい知識として浸透しているかどうかは定かではない。

このような危惧を抱いた著者が、社会人や学生のために知的財産法を一望する概説書を作成しようと、第一線で活躍する学者と弁護士を集めて協同で著したのが本書である。

理論と実務の融合を目指し、(1)知的財産法を実務に即して解説し、法自体が抱える課題について提起する、(2)基礎的な裁判例や学説を踏まえる、(3)関連する周辺法も網羅する等の方針の下、総勢41人の法律家により編纂された。

以下に目次を紹介する。

  • 第1章 知的財産法とは
    • I はじめに
    • II 知的財産法の意義
    • III 知的財産法と他の法分野との関わり
  • 第2章 特 許 法
    • I 権利の帰属
    • II 権利の対象
    • III 特許の要件
    • IV 特許の効力
    • V 手  続
    • VI 実用新案法
  • 第3章 著作権法
    • I 著作権者
    • II 著作物
    • III 著作権の効力
    • IV 著作者人格権
    • V 著作隣接権
  • 第4章 標 識 法
    • I 商標法
    • II 不正競争防止法
    • III 商 号
  • 第5章 その他の知的財産法
    • I 意 匠
    • II 営業秘密
    • III 種苗法
    • IV 半導体集積回路の回路配置に関する法律
    • V 原産地表示
    • VI 技術的制限手段について
    • VII 知的財産権の侵害に対する刑事的制裁
    • VIII 知的財産権の取引
    • IX パブリシティの権利
  • 第6章 知的財産権法の国際的側面
    • I 国際私法
    • II 国外の行為への知的財産法の適用について
    • III 水際措置
    • IV 国際条約

初学者に必要な知識を体系的に学習しつつ、実務の現状や問題点も理解できる秀逸の概説書。

また法律書でありながらも、親しみ易さを感じる人は少なくないという印象も抱かせる。これこそ学者と弁護士のコラボレーションという、新しい試みが成せる技なのかも知れない。。

難解な説明に陥りがちな用語や法的解釈を、具体例を交えながら平易な言葉で説明すると共に、関連する裁判例や比較法、審査基準等も各項目毎に掲載した点も特徴的である。

このように、初学者から専門家まで幅広い読者層を対象とした概説書として好適であり、是非一読をお勧めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員会 K..K)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.