新刊書紹介

新刊書紹介

牛木理一先生古希記念 意匠法及び周辺法の現代的課題

編著 牛木理一先生古希記念論文集刊行会 編集
出版元 発明協会 A5判 942p
発行年月日・価格 2005年3月22日発行 8,000円(税別)

本書は、意匠法について、殊のほか深く研究され、学会、実務界を通じて名実ともに意匠分野の第一人者である牛木理一先生の古希を記念して刊行された論文集である。

寄稿者もまた、この分野に秀でた見識者達であり、それぞれの場面における現代的課題とその解決法について言及している。

論文集という性格から、全体を通して一貫した教科書的な書籍ではないが、一編一編が実務の場面における参考書とも言える内容である。

第一部には、意匠法に関連して17編の論文が収録されている。

中でも、意匠法と意匠(権)の問題について、学説や判例研究に基づく考察が手厚くなされている。また、日本・米国・欧州・中国の意匠権侵害の判断基準の比較、システムデザインの保護のあり方、意匠権の評価の問題、意匠・デザインの紛争処理に関するセンター判定の活用などといった企業実務の場面における参考情報となる論文も数多く記載されている。

第二部には、著作権法に関連して7編の論文が収録されている。

意匠法と著作権法の関係もまた、意匠実務担当者にとっては、切り離しては考えられない問題である。特に、応用美術の保護をめぐる問題に関して様々な角度から考察がなされており、著作権法全体を勉強するには腰の重い意匠実務担当者にとっても必読のエッセンスが詰まっていると言えよう。

第三部には、不正競争防止法に関連して5編の論文が収録されている。

不正競争防止法上に言う、いわゆる「商品形態」と意匠の関係について深く考察されている。

また、トレードドレスの保護に関する問題や店舗デザインの法的保護に関する問題といった、我が国ではあまり一般ではないが、実務担当者としては興味をそそられる点についても考察されている。

第四部、第五部、第六部では、それぞれパブリシティ権について2編、キャラクターについて2編、その他として2編が収録されている。

以上、紹介したように本書では意匠法を中心としてその周辺法について、様々な場面における考察が深くなされている。

発起人の言葉を借りると、「意匠法は知的財産法の全てに隣接して影響しあっている法分野であり、意匠法を研究することはすべての知的財産法に通ずることになる」は、正にその通りである事を身をもって実感する次第である。

そういった意味で、本書は会員企業で意匠法及びその周辺法関連の実務に携わる方々、あるいはそのセクションにとって、必携の書と言えよう。

(紹介者 会誌広報委員 H.Y)

新刊書紹介

知財ポートフォリオ経営

編著 三宅将之 編著
出版元 東洋経済新報社 A5判 231p
発行年月日・価格 2005年4月21日発行 2,800円(税別)

本書には、「研究開発戦略の評価と知財M&Aの考え方」という副題がついている。

わが国の大手企業の研究開発投資は年間数千億円規模に達しているが、投資対効果の観点から見て効率的か否か。企業が継続的な成長を実現するためには、研究開発の見直しによる投資効率の改善や事業ポートフォリオの再構築が肝要であり、企業経営の意思決定において知的財産に関するマネジメントを求められる場面が増えている。

本書は、このような課題に対して、実践的な知財マネジメント手法を事例と共に紹介したものである。そして、本書で紹介されている「PPM(パテント・ポートフォリオ・マネジメント)分析」や「テクノロジー・ヒートマップ」は、特許情報をポートフォリオとして捉え、これを可視化することを中心にして、従来からの企業財務分析と共に、有益な経営情報として読み取る新しい手法である。

本書の執筆陣は、田村善之(北海道大学大学院法学研究科教授)、柳川範之(東京大学大学院経済学研究科助教授)、吉田広志(北海道大学大学院法学研究科助教授)、山本敬三(京都大学大学院法学研究科教授)、土田道夫(同志社大学法学部・法科大学院教授)、駒田泰土(上智大学法学部国際関係法学科助教授)、諏訪野大(近畿大学法学部法律学科専任講師)、井関涼子(同志社大学法学部助教授)など、知的財産の専門家のみならず、経済学、民法、労働法、国際関係法などの専門家である。

本書の構成を紹介する。

まず第1章「知財マネジメントの現場 −現状と課題−」では、企業の研究開発戦略と知財戦略の現状と課題について概観し、特許の生産性と収益性の観点で考察している。また、新しく始まった「知的財産報告書」について、実際の開示事例を紹介しながら同報告書の要点を解説している。

第2章「知財ポートフォリオ・マネジメントの提唱」では、ポートフォリオ・マネジメントの考え方を解説し、それをもとにした知財マネジメントのフレームワークを提案している。

第3章「知財ポートフォリオ評価ソリューション」では、知財マネジメントを実行するための、新しい手法を含めた具体的な知財マネジメント手法、並びに技術価値評価モデルを紹介している。

第4章「テクノロジー・ヒートマップによる知財ポートフォリオ評価の実践」では、テクノロジー・ヒートマップを活用したケーススタディをもとに知財ポートフォリオ評価の実践について解説している。

最後に第5章「企業価値を高める知財ポートフォリオ戦略」では、経営戦略に合致した知財ポートフォリオ構築に向けて、知財M&Aについて言及している。

書店に並ぶ知財関係の書籍の中にあって、本書の表紙にある青を背景とするカラーの図は目を引くが、これは、複写機メーカー4社を比較したテクノロジー・ヒートマップである。本書には、他にも数多くの分析事例が紹介されており、これらの事例を見ているだけでも興味深い。

前書きによれば、本書は、

  • 事業会社で研究開発マネジメントや知財マネジメントに従事する企画・研究開発・知的財産・財務の各部門の関係者
  • 大学を含む研究機関
  • MOTを学びたいビジネスマンや学生
  • 投資銀行業務に携わる金融関係者

など多方面の方々を読者として想定しているとのことであるが、特に、知財価値評価に興味のある方や、企業の経営層に近い方に一読をお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員会 H.S)

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