新刊書紹介

新刊書紹介

デザインキャラクターパブリシティの保護

編著 牛木理一 著
出版元 悠々社 A5判 536p
発行年月日・価格 2005年4月5日発行 6,500円(税別)

著者である牛木理一先生は知的財産法分野(特に意匠法とその周辺分野)における大家として著名であり、知的財産にたずさわる者で、その名を知らない者はいないであろう。本書中にも紹介されている通り様々な公職にもつかれお忙しい日々を送られながら、各種雑誌等に140件近くの論文を発表されているということである。しかし、著者の研究主分野が意匠法及びその周辺法という特殊な法分野であることから一般法律誌とは異なり限られた者しか入手できない困難さがあり、雑誌掲載の場合にはその一過性から読まれていないだろう、と推測し、今般、ご自身の論文を厳選して、一冊の本にまとめることとした、とのことである。

厳選された論文は英文のもの1件を含めて、19件である。大きく3部構成になっており、第1部は「デザインの保護」と題して、意匠法の存在意義関連で6件、意匠法の改正論関連で3件。第2部は「キャラクターの保護」と題して7件。第3部は「パブリシティの保護」と題して3件が掲載されている。

著者が論文を書かれるようになって40年以上が経過するようになり、今回掲載されている論文もかなり古いものも含まれている。しかし、インダストリアルデザインと美の保護など、著者の基本的な考えには変化がないということであり、これから意匠法等を学ぼうという者にとっても非常に参考になる内容であることは今なおかわらない。

論文は、インダストリアルデザインについての考え方、意匠は創作か識別か、意匠の類似についてなどといったデザインに関する基本的な考え方の部分からスタートし、日本の意匠保護制度のあり方などの改正論などの分野に入り込む。更には、ポパイ事件などを題材に著作権法的な考察に関するもの、キャラクターの保護、商品化権、漫画キャラクターの著作権的保護など、従来のインダストリアルデザインから更に周辺に広がりをみせた分野に及んでいく。さらにパブリシティの権利など単にこれまでの産業財産権法の枠組みだけでは対処できない分野にまで論じられている。

これまで長く意匠法とその周辺分野にたずさわられてきた著者の論文の流れはまさに近年の意匠法とその周辺分野に関する論点や考え方の流れであるともいえ、意匠等を大きく見下ろそうというときに、非常に参考になるものである。

また、本書は、この分野における判例の索引が充実しており、さらに牛木先生の論文等の目録が、テーマごとにそして時系列で掲載されており、この分野を調べようとする者にとってはとてもよい道標ともなるものである。

意匠その周辺分野について整理して理解したい方にとって非常に役に立つ一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 H.N)

新刊書紹介

職務発明

編著 田村善之・山本敬三 編
出版元 有斐閣 A5判 303P
発行年月日・価格 2005年3月日発行 3,800円(税別)

昨今、職務発明に関する訴訟が多発している。昨年の「青色発光ダイオード事件」の東京地裁判決が600億円もの巨額な対価支払いを命じると、マスメディアで大きく取り上げられ、これまで特許について重要視していなかった技術者のみならず、世の中の人たちに、「特許」「職務発明」が広く知られるようになった。

2004年の通常国会において、職務発明に関する特許法第35条が改正され、多くの会員企業では改正法に対応すべく、社内規定の新設・改定がなされたのではないだろうか。

昨年来、職務発明制度に関する著書が多くなってきたが、多面的な検討を加えたものは少なかった。

本書の執筆陣は、田村善之(北海道大学大学院法学研究科教授)、柳川範之(東京大学大学院経済学研究科助教授)、吉田広志(北海道大学大学院法学研究科助教授)、山本敬三(京都大学大学院法学研究科教授)、土田道夫(同志社大学法学部・法科大学院教授)、駒田泰土(上智大学法学部国際関係法学科助教授)、諏訪野大(近畿大学法学部法律学科専任講師)、井関涼子(同志社大学法学部助教授)など、知的財産の専門家のみならず、経済学、民法、労働法、国際関係法などの専門家である。

本書は3部8章の構成を採用し、多角的な見地から考察している。

第1部「職務発明制度の基礎理論−職務発明をめぐる法と経済」では、第1章として、なぜ特許制度が従業者(発明者)に補償金請求権を認めているのか、相当の対価を定める条項の有効性、相当の対価の額の算定を市場と法の役割分担という視点から考察している。第2章として、経済学の観点から、職務発明に関する経済理論、報酬(職務発明に関わるもののみならず給与全体)の理論モデルの提示、現行法における評価を論じている。

第2部「職務発明制度の現在−判例法の展開と法改正」では、第3章として、承継の問題、対価請求権、対価の額(受けるべき利益、使用者の貢献)、消滅時効などを判例研究により論じている。第4章として、契約法の観点から、改正前の法制度・問題の所在、改正特許法の評価と意義を検討している。第5章として、労働法の観点から、権利継承の根拠・要件、相当の対価とプロセス審査論、改正特許法の解釈を論じている。第6章として、主要諸外国の特許法における職務発明の取扱いを概観し、職務発明の抵触法的規律に関する学説、判例を検討している。

第3部「職務発明制度の比較法−ドイツと米国の展開」では、第7章として、ドイツ従業者発明法の概要と動向について論じている。第8章として、米国における従業者発明の取扱い、法改正動向、学説などを検討している。

読み終えて、私自身、自社の職務発明規定をどのように決定し、どのような基準で相当の対価を算定し、運用すれば良いか検討する中で、とても参考になった。

知的財産に携わる方のみならず、発明者のみなさんも一読されてはいかがだろうか。特に職務発明規定の新設・改定を検討されている実務担当者には是非お薦めしたい。

(紹介者 会誌広報委員会 A.O)

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