新刊書紹介

新刊書紹介

踊るコンテンツ・ビジネスの未来

編著 畠山 けんじ 著、久保雅一 企画・監修
出版元 小学館 20cm 254p
発行年月日・価格 2005年1月1日発行 定価1714円(税抜)

本書はコンテンツ・ビジネスを制作者の視点から考えた書である。

コンテンツビジネスとは何か、よく聞かれるようになった言葉ではあるが、実体の掴めない言葉である。映画やゲームソフト、音楽や漫画など、およそ著作権法の保護対象にある全ての対象がコンテンツビジネス界での主役である。

近年の著作権法の改正スピードの速さは知財管理誌読者たる会員企業の方であればよくご存知であろう。我々知財部員とてその改正を追いかけるのに難儀するが、これも実は現状の後追い、火消し的対応に終始し、この国のコンテンツビジネスの将来に渡る振興を意図した先回り的対応は講じ得ていないのが現状であるという。言い換えれば今後も著作権法改正は続くということでもあり、我々としては休む間がないといったところでもある。

本書は、わが国産業におけるコンテンツビジネス漸増の歴史と現状が制作者ならではの観点から描かれており、普段我々が気付きもしなかった観点からの示唆に富む内容となっている。

コンテンツビジネスの業界規模について具体的知識を持ち合わせていなかったのだが、その額14兆を越え、国内では自動車産業に次ぐ規模となっているらしい。ハードとソフトの関係が逆転しつつある事実を目にすると、今後の産業界での主役はコンテンツであり、また、無体財産法での主役は著作権法であることを実感する。

コンテンツは著作者により制作され、完成したコンテンツは商品として流通する。そこでは商品を守る法体系が不可欠であり、過去の保護体制不足は我々がコンテンツの商売性に気付いていなかったことの証でもある。ゲームや漫画といったコンテンツは有害とのみ認識される時代もあった。しかし、図らずも日本発コンテンツの海賊版はコンテンツの市場性を再認識させる結果となった。資源小国である日本にとりコンテンツ産業は避けて通れぬものである。

これまで放送等流通の下請けとして社会的地位すら不十分であったコンテンツは、著作権という権利を得て一つの明確な商品として成立する。コンテンツが流通をコントロールする可能性すらある今後の産業界では、ハードとてコンテンツに左右される。ハードがあってのソフトではなく、ソフトとのマッチングこそがハードの存在意義なのだ。

本書冒頭でのトッププロデューサーインタビューでは、スタジオジブリ事業本部長や(株)フジテレビジョン映画事業局長、(株)ポケモンCEOらが、コンテンツ制作者側の立場からコンテンツビジネスに対する考え方を語る。そこでは商品としての著作に対する意識よりも、作品への執着を強く感る。彼らは「面白い」作品を追求している。つまり、彼らが直接の目的とはしなかったコンテンツの商売性が今産業界で脚光を浴び、そこから著作権の枠組みが根本から変わり始めているのだ。

本書は従来我々が理解し得なかったコンテンツビジネス界で、何が起こっているのか、結果として著作権はどう変わっていくのか、その真実を知るための最良の著である。身近な例も多く取り上げた本書は、ドキュメントとしても読み応えがある。一読をお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 大野義也)

新刊書紹介

知的財産管理実務ハンドブック

編著 IPトレーディングジャパン(株)、
(株)ワールド・ヒューマン・リソーシス(編著)
出版元 中央経済社 A5判540p
発行年月日・価格 2004年12月20日発行 定価6,200円(税別)

知的財産戦略大綱が公表された2002年以降、知的財産戦略の重要性に対する企業認識は着実に高まってきているのは間違いないだろう。しかしながら、知的財産戦略を実行し得るための社内体制が整備されている企業は、未だ少数にとどまるのではないだろうか?どのような社内体制を構築し、知的財産をどのように管理していくのか、多くの企業にとっての課題であると思われる。

ところで、知的財産戦略を策定する上で欠くことのできない重要な業務である知的財産の管理業務について、包括的に概説した書籍・実務書は、これまでは殆ど見当たらなかった。本書は、知的財産管理業務を幅広く網羅しつつ、かつコンパクトに纏めた内容となっており、知財担当者待望の一冊といえるだろう。

本書の構成は以下のようになっており、知的財産の創造から、保護、活用に至るまでの管理業務を網羅的に紹介されているのがお分かり頂けると思う。

  • 第1章 経営に活かす知的財産管理
  • 第2章 管理の対象
  • 第3章 知的財産の管理業務
  • 第4章 知的財産の創造
  • 第5章 知的財産の保護
  • 第6章 知的財産にまつわる攻撃と防御
  • 第7章 知的財産の活用
  • 第8章 知的財産に関する各種規定・契約管理
  • 第9章 知的財産の評価

各講の内容を簡単に紹介すると第1講から第10講までは知的財産及び関連制度に関し、各制度の成り立ちや目的、制度、運用、課題等について、専門用語が用いられているものの分かりやすく解説されており、日常業務とは異なる分野の知識の裾野を広げるために資すると思われる。第11講から第14講では先端技術に関する知的財産権保護制度について概ね事例等をあげて解説されており、馴染みの薄い方にも読みやすく現状を理解しやすい。第15講から第20講までは企業・大学・公的機関における知的財産権について解説されている。職務発明訴訟に関しては、訴訟代理人の立場、原告本人の立場でそれぞれ掲載されており、企業に所属している読者にとっては興味深い。また、ライセンスや大学・公的機関における知的財産の創造・保護・活用については、参考事例等具体例を用いて解説するなど分かりやすい具体的に少し紹介すると、第6章においては、紛争リスク予防に資する権利確保、公知化戦略、クロスライセンスの締結など紛争予防のためのさまざまな手法や、実際の紛争が生じた場合の紛争処理手続(知的財産訴訟、調停、仲裁等)などが具体的に概説されている。また第7章では、知的財産の活用形態としては自社実施のみならず他社実施とのバランスを重視すべきとの視点から、実施許諾に関する法的知識や管理業務の概要だけでなく、知的財産売買の仕組みの概説や、売買と実施許諾を組み合わせた知的財産リースについて、あるいは知的財産による資金調達のさまざまな手段についても詳述されている。このように、知的財産の創造、保護、活用のそれぞれの分野において、実務的な対応に重きをおいた内容になっており、知的財産の棚卸や評価、知的財産の流通・流動化手法等についても具体的に判り易く解説されている。知的財産管理業務の遂行に大いに役立つ本書は、関連する実務に応じて参考書的な使用をすることも可能だろう。

また本書は、大企業やベンチャー等の各フィールドを通じた実務経験をもとに制作されており、中小企業やベンチャー企業の経営者や、地方自治体や大学の知的財産本部の担当者、さらには金融機関関係者など、これから知的財産管理に携わろうとしている方々にとっても、知的財産管理の実務のイメージをつかむことが出来ると思われる。知的財産戦略策定のための第一歩として、一読してみてはいかがだろうか。

(紹介者 会誌広報委員 S.I)

新刊書紹介

知的財産を語る

編著 レクシスネクシス・ジャパン 編集・発行
出版元 雄松堂出版発売 A5判 257p
発行年月日・価格 2005年1月21日発行 定価2500円(税別)

本書は、「知的財産権」について法律的な問題とビジネスにおける問題との間の橋渡しを目的に企画され、知財環境を取り巻く最新の話題を掲載している。具体的には、4人の知財スペシャリストの方にインタビューする対談形式で纏められ、最近の知的財産関連法制度の改正や国際動向、企業における知的戦略や人材育成、訴訟対応など、幅広く専門的な内容を豊富な用語解説・資料とともに分かりやすく解説している。

本書の構成を以下に示す。

  • 序章 「なぜ、今知的財産か」
    株式会社ローランド・ベルガー
    代表取締役 西浦裕二氏
  • 第一章 「知財法制度と国家戦略」
    東京大学法学部教授 中山信弘氏
  • 第二章 「知財立社から知財立国へ」
    キャノン株式会社顧問 丸島儀一氏
  • 第三章 「グローバル企業の知財マネジメント」
    日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
    法務知的財産本部本部長 鈴木邦三氏
  • 第四章 「特許制度。紛争と国境―日米比較を中心に―」
    ワシントン大学ロースクール
    教授 竹中俊子氏

“序章”で西浦氏が1.なぜ、今、知的財産か、2、知的財産とは何か、3、知的財産における論点とは何かの3点について解説をされた後、西浦氏のインタビューに答える対談形式で4人のスペシャリストの方々が知財環境を取り巻く最新の話題について解説および提言をされる。

“第一章”で中山教授が知的財産制度と諸政策の動向について解説され「日本」としての知的財産戦略を展望される。“第二章”で丸島顧問が「攻めの知財」と「守りの知財」について語られ、企業における協調と競争について展望される。次いで、“第三章”で鈴木本部長が特許侵害への対応―攻撃と防御―、グローバル企業の知財マネジメントについて解説され、日本の企業戦略と知財国家戦略について論ぜられる。最後に、“第四章”で竹中教授が、日米の特許制度および裁判を比較しつつ、グローバルな視点から見た特許制度、特許権と紛争について解説され、日本の経営者へのメッセージを述べられる。

このように、国家戦略を知り、海外戦略を含む企業戦略を考える上でスペシャリストの貴重な経験に基づくヒントが与えられ、国内特許訴訟、米国特許訴訟についてスペシャリストが豊富な知識を基に解説およびアドバイスされる。

知財を専門としない人や企業経営者を含む読者に配慮して、知的財産法制度やビジネスをとりまく諸問題について、対談形式を取り入れて大変丁寧に解りやすく解説してあり、随所に用語解説や判例コラム記事を加えている。

本書を読むことにより、企業における知財部門以外の方の知財意識が高揚することが期待され、特に、企業における知財部門以外の知財戦略および知財訴訟に興味ある方に是非お勧めしたい。一方、知財部門の人にとっては、知財戦略および米国訴訟事情等の有用な知識が得られ力強い。他に、知財部門に配属されて日の浅い人に対し、知的財産法の教書に加え本書を手渡して感想を求めるなどの使い方は如何であろうか。

知的財産をめぐる諸問題、知財ビジネスの解説に加え、知財環境を取り巻く最新の話題が大変丁寧で分かりやすく記載されており、紹介者として安心してお勧めできる一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 山内拓)

新刊書紹介

知財マネジメント入門

編著 米山茂美・渡部俊也 偏著
出版元 日本経済新聞社 新書板 240p
発行年月日・価格 2004年12月10日発行 定価\945円(税込)

同期合格であり、友人でもある弁理士の先生より「企業の弁理士の先生や知財部員の方々は、企業に在籍していなければできない仕事をすべきだよ!」と言われた経験がある。この言葉が私の頭に強く残っている。

特許に関し考えてみると、発明に関する技術的事項は研究者、開発者、エンジニアが最も詳しいことは言うまでもない。そして、現実に特許出願にかかる明細書や意見書等を作成するのは特許事務所等の弁理士の先生方である。両者が熱意をもって、権利化業務を行なえば、我々企業弁理士や知財部員には、明細書等の内容チェックや、これら納品物の検収を行なうだけの管理業務が残ることになる。まさに「知財管理」である。

しかし、志し高くして、弁理士試験へ挑戦し、合格後に転職して、企業弁理士の職に就けたのであるから、「単なる管理業務だけでは終わりたくない」、と思うのは自然の流れであろう。そのように思いめぐらしながら、日常を送っている中で、本書の存在を知ったのである。

多くの書籍の中で、本書に興味を持った一番の理由は、執筆し、編集を行なわれている渡部俊也先生の存在がある。過去に、事業として収益をあげ得る商品の研究開発を成功させ、且つ、現在はその技術および知財に関して学術的に研究をなされている渡部先生が考える、知財のマネジメントに関して、以前より興味を持っていたからである。

では、本書の内容を紹介すると、本書は知財マネジメント、即ち「知財経営」の体系を提示し、知財を創造・活用していくうえでの戦略や組織について考察することを目的として執筆された書籍である。第1章にて知財をめぐる経営上の諸問題を紹介し、下記5つの要素に整理してまとめられている。そして、この5つは知財経営を構成する柱となるものであると位置付けられている。

  1. 知財創造のマネジメント
  2. 知財の権利化
  3. 知財活用のマネジメント
  4. 知財紛争への対応
  5. 知財インフラの構築

そして第2章から第6章にて、上記5つの要素について詳細な管理上の視点と対応の可能性を具体例を交えながら解説し、問題点や論点について検討を行なっている。

本書を読み終えた私の感想を述べると、「必要な情報をバランスよく網羅した良質の手引書である。」と感じた。上記の5つの要素を基礎に、多くの論点、留意点について解り易く解説し、又、事例に基づく提案がなされている。経済書等にありがちな、いわゆる「浮世離れ」した記載は感じられず、現実性のある内容であった。

本書は、「まえがき」にあるように、知財のうち、特に技術に焦点を当て、その創造、・権利化・活用といったマネジメントについて解説した入門書である。したがって、「知財管理」に留まらず「知財経営」に興味を持っている知財部員、研究者、開発者の方々に対し、本書を精読することを推奨する。

(紹介者会誌広報委員 佐々木通孝)

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