新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産ライセンス契約の保護−ライセンサーの破産の場合を中心に−

編著 知的財産研究所 編
出版元 雄松堂出版 A5判 376p
発行年月日・価格 2004年11月19日発行 6,000円(税別)

本書は、知的財産研究所の編による総勢13名の専門家による知的財産ライセンス契約の保護に関連した論文集である。

知的財産のライセンス契約が活発化、複雑化する一方で、不安定な経済状況が続いていることにより、ライセンシーはライセンサーの破産や、ライセンサーから第三者への権利譲渡等の可能性拡大によって、よりいっそうに不安定なポジションにたたされている。そのような状況下で、2004年5月に、改正破産法が成立した。破産法の改正にあたっては、各界から様々な意見要望がだされたが、最終的に成立した法案は、必ずしもライセンシー保護の観点からは十分な内容とはなっていないとの意見も多く、まだ課題が残る。また、知的財産ライセンス契約の保護を考える場合には、破産法からのアプローチだけではなく、様々な角度からの検討が必要になるが、本書は多岐にわたる視点からの論述が含まれている。掲載論文の著者13名の内訳はこの分野に詳しい企業の知財法務担当者4名、大学教授4名、弁護士5名であり、それぞれの切り口で論じている。

著者とタイトルを紹介することで大まかな、主論述テーマが理解できると考えるので、以下に紹介する。産業界からは、石川文夫先生(富士通(株))「産業界におけるライセンス契約」、森岡一先生(味の素(株))「バイオ・医薬品業界におけるライセンス契約と破産等の関係について」、古川靖之先生(キヤノン(株))「エレクトロニクス・IT業界におけるライセンス契約と破産等の関係について」、山本崇晶先生(住友電気工業(株))「ライセンサー倒産時等のライセンシーの地位の保護」。学界からは国士舘大学法学部助教授山本研先生「新破産法におけるライセンス契約の処理とライセンシーの保護」、東京工業大学大学院助教授金子宏直先生「ライセンサー倒産における破産管財人による解除権制限」神戸大学大学院助教授島並良先生「登録制度の活用」、早稲田大学法学部・大学院教授鎌田薫先生「ライセンス契約の対抗と公示」。法曹界からは松田俊治先生「米国倒産法アプローチを踏まえたライセンス契約の保護策の検討」、竹田稔先生「特許ライセンス契約の保護と公証制度の活用」、飯島歩先生「改正破産法下における特許ライセンスの保護と公証制度」、田淵智久先生「第三者対抗要件についての考察」、飯田聡先生「知的財産ライセンス契約保護の在り方その方策案」である。これら論文に、東京大学教授の中山信弘先生が、序文をそえている。

本書により、産業界におけるライセンス契約の実態、アンケート調査による生の声の分析結果、さらには、わが国破産法の従来の問題点、改正のポイント、改正破産法に残された課題点、参考とすべき先例として米国破産法の改正経緯、日本の公証制度、その他登録制度等登録の問題等々、多岐にわたる論点を網羅して理解することができる。

ライセンサーの破産など他人事であるとは言えない時代となり、知的財産にたずさわる者はぜひとも一読が必要な書であると考える。

(紹介者 会誌広報委員 H.N)

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知財20講

編著 編著者代表 青山 絃一
出版元 経済産業調査会 A5版 432p
発行年月日・価格 2004年12月10日発行 3,000円(税別)

本書は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)が発行する「情報管理」誌に連載された知的財産制度の現状と活用状況に関する15テーマに新たに5テーマを追加して全20講にまとめ解説したものである。各講は各々のテ−マに関する分野において第一線で活躍する筆者によって執筆されている。20講のテ−マは以下に記載するように多岐にわたり網羅している分野は幅広い。

  • 第1講 特許法制度の現状と課題
  • 第2講 著作権制度の現状と課題
  • 第3講 商標制度の現状と課題
  • 第4講 意匠制度の現状と課題
  • 第5講 実用新案制度の現状と課題
  • 第6講 植物新品種保護制度の現状と課題
  • 第7講 回路配置利用権登録制度の現状と課題
  • 第8講 不正競争防止法による知的財産権侵害の規制の現状
  • 第9講 関税定率法による知的財産権侵害物品の水際取締り
  • 第10講 知的財産権と独占禁止法
  • 第11講 ソフトウェア・プログラムの保護制度の現状
  • 第12講 デジタルコンテンツの保護制度の現状
  • 第13講 データベースの保護制度の現状と課題
  • 第14講 バイオ関連情報保護の現状と課題
  • 第15講 職務発明訴訟の実務
  • 第16講 発明者から見た職務発明制度
  • 第17講 技術者の転職と営業秘密、及び退職後の競業避止条項
  • 第18講 知的財産権とライセンス契約
  • 第19講 大学・公的機関における知的財産の創造・保護・活用
  • 第20講 大学・公的機関への支援活動

各講の内容を簡単に紹介すると第1講から第10講までは知的財産及び関連制度に関し、各制度の成り立ちや目的、制度、運用、課題等について、専門用語が用いられているものの分かりやすく解説されており、日常業務とは異なる分野の知識の裾野を広げるために資すると思われる。第11講から第14講では先端技術に関する知的財産権保護制度について概ね事例等をあげて解説されており、馴染みの薄い方にも読みやすく現状を理解しやすい。第15講から第20講までは企業・大学・公的機関における知的財産権について解説されている。職務発明訴訟に関しては、訴訟代理人の立場、原告本人の立場でそれぞれ掲載されており、企業に所属している読者にとっては興味深い。また、ライセンスや大学・公的機関における知的財産の創造・保護・活用については、参考事例等具体例を用いて解説するなど分かりやすい。

本書は各講がそれぞれ独立して完結しており、かつ比較的平易な表現で解説されているため、中堅知財員が知的財産権制度についての現状を概観するのに構えることなく読め、また新入社員の知財教育の副読本としても適した一冊だといえる。

(紹介者 会誌公報委員 T.M.)

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理工系のための知的財産権の基礎と実際

編著 山内 康伸 著
出版元 工業調査会 A5版 309p
発行年月日・価格 2004年12月15日発行 定価3,200円(税抜)

筆者である山内弁理士は、大学工学部や工業高等専門学校において知的財産制度を講義してこられた方であり、その経験から、学生の興味を引くのは実際の発明を用いた制度解説であることに開眼された。また、理工系出身者に対し、法律上の考え方を、具体的イメージを以って理解させるコツをも体得された。本書は、このような経験に基づいて、実際の発明を用いたシュミレーションを行うことと、理工系出身者になじみやすい解説を行うことを売りとしている。

この試みは見事成功している。ただし、理工系出身者だけではなく、法律系出身者にも役立つという副産物を生み落とした。法律系出身者にとっても特許制度は簡単に理解し得るものではない。例えば発明の新規性・進歩性の判断を、技術知識ないものが容易にイメージできるはずがない。

本書ではいたるところに簡単な発明を用いた実例が散りばめられている。はしがきでは著者は特に述べていないが、この実例だけではなく、豊富に用意されたイメージ図がまた秀逸なものとなっている。まさに講義での板書のごとく、具体的なイメージを持って我々読者の頭の中に飛び込んでくる。

本書、前半第一部「知的財産制度の基礎」では、特許・実用新案・意匠・商標制度に加えて著作権法、不正競争防止法とその他知的財産法の概要が解説される。実例とイメージ図が読者に楽しみながらの学習を提供するであろう。まさに著者の濃密な講師経験ゆえにたどり着いた究極の知識伝授の形である。

打って変わって第二部、「知的財産の活用の実際」では、技術者が研究活動を行っていく中で、知財制度をいかに活かしていくべきか、最低限知っておかなければならない特許法上の注意点は何か、といった点が、引き続き豊富な図解つきで語られる。特に第二章は我々知財担当者はもとより、日々開発業務に忙しい技術者諸氏に読んでもらいたい内容である。

私も日々の知財業務の中で、発明者に特許制度を理解してもらうことの難しさを体験している。「知財管理」誌の読者企業の知財担当者であれば、一様に同じ苦労を経験されているのではないか。理工系出身者(に限らないが)に知財を直感的かつ明確に説明する点では、我々も著者と同じ苦悩を体験しているのであるから、その最前線の現場で著者が培ったノウハウが活かせないはずはない。

技術者の知財意識向上は、企業の知財力向上に直結する。技術者の知財教育は企業知財の主要業務のひとつである。日々の技術者との接触の中で、また、知財教育現場で、本書のエッセンスを利用した知財教育を行って頂きたい。

以上、知財担当用としてはもちろん、技術者に紹介する書籍として、本書をお勧めしたい。

なお、この新刊書紹介のコーナーで紹介する新刊書は、知的財産協会事務所にサンプルを陳列している。興味をお感じの方はぜひとも一度手にとってご確認頂きたい。

(紹介者 会誌広報委員 大野義也)

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