新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産法の基礎理論

編著 布井 要太郎 著
出版元 信山社 A5判 393p
発行年月日・価格 2004年8月30日発行 5600円(税別)

著者は言うまでもなく「判例知的財産侵害論(2000年10月、信山社)」等の著書で有名であり、工業所有権法の研究のためにドイツ連邦裁判所に在籍し、その後判事も経験された方である。 そのため本著には、知財初心者にも興味深いキーワードが並んでおり、勉強に、と思わず手にとってしまう。

本著は「判例知的財産侵害論」と同様に、特許法・実用新案法・商標法・不正競争防止法・著作権法の侵害理論の基本的問題に関する重要判決についての判例の考察を行っている。 その際、著者も述べているように「論点の根本的究明に努め、法制度の淵源に遡って考究する必要性に鑑み、わが国の知的財産法の制定およびその解釈に強い影響力を有するドイツ連邦共和国の法制および判例を参酌してその評釈を試み」ている。 特に「ドイツの特許権・商標権・著作権の用尽理論」「商品の形態保護」「従業者発明の法理論的考察」について、わが国の判例と対比させ、その判旨についての著者の意見が述べられている。

他方、ゲルト・ファイファー(Gerd Pheiffer)博士の論文「不正競争防止法17条による工場秘密および営業秘密の刑法的漏洩」は、わが国の不正競争防止法の改正による企業秘密漏洩の刑事罰の条項の解釈に有用であり、 カール・ハインツ・フェツァー著「標章法(第3版)2001年コンメンタール」のドメイン命に関する解説は、ドメイン名に関する高水準の種種の法的側面が論ぜられており、わが国のドメイン名の法的問題の解釈に資する理由から、それぞれ翻訳・紹介がされている。 いずれも、わが国知的財産法の理論水準を高揚する名著ばかりである。

以下に目次を紹介する。

  1. ドイツにおける特許権の用尽理論
  2. ドイツにおける商標権の用尽理論
  3. ドイツにおける著作権の用尽理論
  4. ドイツにおける商品の形態保護
  5. 従業者発明の報酬における独占原理と特別労務給付原理
  6. 従業者発明の法理論的考察
  7. 東京地裁「青色発光ダイオード」事件の一試論
  8. ドイツおよびヨーロッパ特許出願における予備的申し立て
  9. ドイツにおける企業秘密の刑法的保護
  10. ドイツにおけるドメイン名の法的実務
  11. 判例批評

日常、特許・知財分野の実務に携わっているものは、その法理論をじっくり考えている場合は少ないが、このような名著にふれると、普段の実務は法理論・立法論の上にたつことを、改めて認識することができる。さらにそれらは、実際の判例に即して考察されているため、自分自身の理論不足を補い、仕事と学術のリンクを実感することができる。 そういう意味で、知財部員として手元においてご一読されることをお勧めする。

(紹介者 会誌広報委員 N.E)

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化学・バイオ特許の出願戦略

編著 細田 芳徳 著
出版元 経済産業調査会   A5判 308p
発行年月日・価格 2004年10月10日発行 3,200円(税別)

本書は、化学・バイオ分野の明細書を作成する際に、注意すべき基本的な内容に加え、最近の裁判例を数多く紹介し、解説している。著者は、化学の明細書の書き方に関して、日本知的財産協会の研修会講師として長年ご活躍されています。本書は、第1章「発明の把握と発掘」、第2章「クレームの作成」、第3章「明細書の作成」、第4章「特許要件からみたクレームと明細書」、第5章「化学・バイオに特有な発明」、第6章「バイオ関連発明の留意点」、第7章「出願戦略を考える」、から構成されている。

本書の特徴は、上記構成の中でも、1)発明の把握について、研究成果に基づいて発明をどのように把握するか、発明の種類と権利としての強さを理解できる点、2)クレームの作成方法については、一般的な表現方式である、 マーカッシュ形式クレーム、「からなるクレーム」と「含むクレーム」の違い、ジェプソン形式クレーム等の説明に加え、化学・バイオに欠かせないプロダクト・バイ・プロセスクレームの注意点や、 高分子物質、酵素、遺伝子、組換えタンパク質、モノクローナル抗体、及び微生物等を特定するクレームについて、実際に登録となったクレームによって、クレームの表現と権利解釈との関係を理解できる点、 3)単に明細書を作成することが目的でなく、出願戦略には、研究のステージ、予定などを考慮しながら次の6項目が必要であることを理解できる点であろう。

  1. 今後の研究方針
  2. 研究スケジュール
  3. 他社の出願動向
  4. 国内優先権の利用の有無
  5. 既出願との関係
  6. 先願の公開予定日

明細書の記載方法については、日本の審査基準にとどまらず、EPのプラクティスを考慮し、記載すべき内容が検討されている。また、ペーパーイグザンプルに関し、米国において権利化された後の取り扱いについても解説されている。
新刊書故、記載要件に関しては、平成15年の審査基準の改訂内容も考慮されている点は言うまでもなく、クレームと発明の詳細な説明についての記載について注意すべき点がわかり易く説明されている。

バイオ発明としては、遺伝子発明における日米欧の三極特許庁から報告された比較研究結果(1999年5月、2000年11月)について、その概要及び著者の見解が纏められており、発明の有用性、実施可能要件に対する三極の考え方を理解できる。 また、「リーチ・スルー」クレームについての三極の比較検討(2001年11月)がなされたが、その報告結果をわかり易く簡素化した形で解説されており、バイオ発明を担当されている実務者に特に有用と考える。

本書は、日米の裁判例、EPの審決例、日米欧三極の特許法の比較を全章に盛り込んでいる為、初心者には向かないと思われるかもしれないが、明細書作成という実務の解説において、裁判例を理解しやすく説明されており、知財部門に限らず、発明部門の多くの方々にも、是非、お薦めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 H.Y)

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ITの法律相談

編著 TMI総合法律事務所 編
編集者代表 水戸重之・五十嵐敦・渡辺伸行
出版元 青林書院 A5版 442p
発行年月日・価格 2004年8月25日発行 定価4,000円(税別)

本書は、知的財産権に関する訴訟事件で数多くの実績を残され、実務経験の豊富な10名の弁護士、弁理士の先生方が共同で執筆され、その各先生方が在籍されているTMI総合法律事務所が編集した書籍である。

その内容は、本書の題名に「法律相談」とあるように、50件を超える相談内容に対して、それぞれ、回答、解説する構成で記載されてある。 その相談事項は、ドメイン名に関するトラブル、不正アクセスへの対応と責任、個人情報の保護、ウイルス対策、従業員の電子メールの閲読の可否、 ネットワーク上の契約締結・成立の留意点、電子著名・認証、ネットワーク上の取引と税金、商法改正とIT化などであり、企業にとって、起こり得る事項を数多く取り上げてある。

この中で「ウイルス対策」について、その内容を紹介すると、「このたび、当社が配信しているメールにウイルスが添付されてしまいました。 当社はどのような責任を負うことになるでしょうか。」という相談に対し、「故意又は過失により、ウイルスを送信して、ウイルスに感染した相手方に損害が発生した場合、契約または不法行為に基づく損害賠償責任を負うことがあります。 ・・・中略・・・社員教育を徹底するなど、日ごろの対策が必要です。」と、その回答が記載されてある。このように、非常に具体的な内容について、相談、回答が行なわれている。 更に、以下の項目について、平易な言葉で解説が続いて行く。

  1. ウイルスとは
  2. 日米におけるウイルス対策法制
  3. ウイルス送付者の責任
    1. (1) 刑事上の責任
    2. (2) 民事上の責任
  4. ウイルス感染に関するその他の責任
  5. ウイルス対策

この項目の中で、最後の項目の一部を紹介すると、「ウイルスに感染したり、ウイルスの送信者となることを避けるためには、以下のような対策をとるべきです。 ・・・中略・・・米国商業省にアンチウイルスソフトのデータベースが用意されています。これらの公的機関による情報に注目しておくことも、ウイルス被害の防止に役立つと思われます。」と、対策案が提案されている。 単に、法的な措置だけでなく、未然にトラブルを防ぐ方法が、具体的に記載されている。

ここで紹介した内容より、わかると思うが、本書は企業の事業又は運営において、実際に起こりうるテーマを取り上げてあり、且つ、いわゆる知的財産部員や法務部員でない社員でも、容易に理解できるように執筆されてある。即ち、販売、製造などの事業部門、総務、経理などの間接部門に紹介して、読んでもらえれば、ITに関するトラブルを未然に防止できるであろう。もちろん、知的財産部員や法務部員が読むことにより、ITに関する法的知識が得られ、有用であることは言うまでもない。

(紹介者 会誌広報委員 佐々木通孝)

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図解入門ビジネス 知財評価の基本と仕組みがよ〜くわかる本

編著 鈴木 公明 著
出版元 秀和システム A5判 239p
発行年月日・価格 2004年10月5日発行 定価1,600円(税別)

本書は、無形資産が企業価値の中で重要な地位を占めていると言われている現在において、知的財産の企業価値への影響はどのようなものであるか、また、個々の知的財産はどのように評価されているのか、という観点から、知的財産の価値評価について知的財産経営の重要性、そして具体的な手法について解説しています。本書の筆者は、現在、特許庁の審査官でありますが、企業の知的財産部門での勤務経験もあり、一方的な「知的財産経営のススメ」とはなっておらず、知的財産の価値評価は、どのように企業の中で行われ、活かすれるべきか、ということを考えるための入門書としての構成を意識した内容になっています。

本書の構成は、以下の目次のとおり6章構成をとり、まず、知的財産について概略を説明した後で、価値評価について説明しています。

  1. 知的財産とは何か
  2. なぜ、知的財産の価値評価が必要なのか
  3. マネジメントと知的財産
  4. アカウンティングと知的財産
  5. ファイナンスと知的財産
  6. 知的財産の価値を評価する

各章は概ね10〜15程度のトピックスを見開きで2ページ程度に簡略にまとめ非常に読みやすい形式になっています。また、単に簡略にまとめただけでなく、各々の内容は必要かつ十分なものであり、学術的な記載にととまらず、豊富な事例を用いることによって実務書として我々企業人にとって使い勝手の良い内容となっています。

各章の記載は、豊富な図解を用いる事により、視覚的に内容の理解がしやすいように工夫されています。加えて、本書の記載内容・記載方法は、事実や法律制度あるいは学説について、本論の中では徹底的に主観を排除し客観的に記載し、筆者の見解については、章末に“コラム”として述べるに止まるなど、読み手が不要な先入観を持つことのないように最大限の考慮が払われています。

各章の中で、特に第4章「アカウンティグと知的財産」と第5章「ファイナンスと知的財産」では、知的財産をめぐる最近の動向が上手にまとめられており、知的財産部門に係わる人間にとって目新しいこの分野の入門書というばかりでなく、“参考書”として考えてもかなり高度な内容になっています。

第4章では、まずアカウンティングの世界でなぜ知的財産の必要性が高まってきているのかを説明した後で、最近の知的財産報告書から数社を取り上げてその内容が解説されています。続いて、第5章では、具体的な事例を紹介した後で知的財産の証券化、信託についてそのスキームが説明されています。知財信託の動きがほぼ網羅されており、本章を読めば昨今の流れをつかむことができる内容です。

知的財産の価値評価をこれから学ぼうとする人ばかりでなく、すでにこの問題を深く検討している企業の実務家にとっても、知財評価のトレンド・事例が簡潔にまとめられている本書は、是非、読み通したうえで、常に手の届くところに置いておかれることをお勧めします。

(紹介者 会誌広報委員 M.T)

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知財戦争

編著 三宅伸吾 著
出版元 新潮社 新書 191p
発行年月日・価格 2004年1月20日発行 680円(税別)

本書を読み始めた途端、惹き込まれ、一気に読み終えた。

「先進国のビジネスはもはや、知的財産権を抜きにしては語れなくなった〜」と冒頭著者が記すとおり、もはや知財はあらゆる事業領域において欠かせぬツールとなっている。知財なきものは、もはや事業上優位性を保てない、つまり、著者の言う「知財で笑うもの、泣くもの」という構図が、今後益々顕著となってくるのではなかろうか。

本書は、1980年代末より、新聞記者として知的財産問題に関心を持ち、追い続けた著者が、知財をめぐる攻防の最前線を、レポートする書である。

知財をめぐる動向については、最近新聞紙上を賑わせるようになっているが、その問題点、重要性について、入り口の分りにくさもあり、広く国民への理解が浸透していないのではなかろうか。本書は、知財をめぐる動向の単なる紹介の書に留まらない。知財問題をライフワークとして追い続ける著者の深い洞察力と関係者への徹底した取材により、わかり易く問題の核心に迫っており、読む者を飽きさせない。

例えば第1章では、日本を震撼させ、あわせて日本の機密管理の認識の甘さを露呈した「遺伝子スパイ事件」について、その発端、当事者の置かれた状況、そしてその後の日本の対応等について、入念な取材により事件の本質に迫っている。

本書は以下、

  • 第2章 闘争の現場
    ―青色発光ダイオード、医療技術、漫画喫茶とブックオフ、レコード、ミッキーマウス、ウィニー
  • 第3章 世界の知財政策
    ―中国、米国、欧州、韓国・台湾
  • 第4章 発明者VS企業
  • 第5章 思い出の事件を裁く最高裁
  • 第6章 知財を担う人々
  • 第7章 「知財立国・日本」への壁

の7章で構成されており、何れもその問題の核心に迫る筆者の意気込みにいささかの妥協も感じられない。

全般を通じ、知財戦略は今後日本にとって、世界の中で優位性を築く唯一無二の戦略であり、その取り組みに躊躇があってはならないとの筆者の強い思いが伝わってくる。

本書は、知財部門の方にとって、現在知財部門がおかれている立場、使命を再認識するうえで多いに刺激を与えてくれる書であることに異論はない。しかしながら、むしろ知財部門以外の多くの方に、その重要性を認識してもらう動機付けの書として最適であると考える。自信を持って推薦したい。

(紹介者会誌広報委員 S.K)

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