新刊書紹介

新刊書紹介

改正 知的財産関係法令と実務

編著 永井義久、山本晃司共著
出版元 日本法令 A5版 270p
発行年月日・価格 2004年7月1日発行 定価2500円(税込)

ご存知の通り、我が国では「知的財産立国」を国家戦略として掲げ、2003年7月、政府・知的財産戦略本部は、知的財産推進計画を決定した。このアクションプランを踏まえ、今回の知的財産関係法令の改正がなされたが、その改正点は実に多岐にわたっており、近時では、いわゆる大改正といえるものであろう。

本書では、それらの改正点を網羅して解説するものである。特に、職務発明の改正や実用新案制度などの、企業実務に大きく影響する改正点については、実務との関係を踏まえて解説している。法案成立に至る経過についても詳細に解説されているので、改正の趣旨を理解する上でも役立つものである。

本書は14章で構成されており、その内容は以下の通りである。

  1. 職務発明規定の改正
  2. 実用新案登録に基づく特許出願制度
  3. 実用新案の訂正許容範囲の見直し
  4. 実用新案権の存続期間の見直し
  5. 実用新案関係の手数料の改定
  6. 特許法、実用新案法のその他の改正
  7. 工業所有権に関する手続等の特例に関する法律の改正
  8. 独立行政法人工業所有権総合情報館法の改正
  9. 知的財産高等裁判所設置法案及び裁判所法等の一部を改正する法律について
  10. 紛争の実効的解決
  11. 侵害行為の立証の容易化のための方策
  12. 知的財産訴訟における専門的知見の導入
  13. 知的財産高等裁判所の設置
  14. 他の法律の改正

さらに巻末資料として、今回の改正点についての新旧条文対照表も付されている。

また本書は、出来るだけ平易な表現で、かつ判り易く改正点がまとめられているのも、特徴のひとつである。
一般的に、法律関係(知的財産に限ったものではないが)の解説書には専門用語が多く、難解なものが少なくない。それゆえ、いざ読もうとすると、それなりのまとまった時間と、それなりの心構えを要した経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないだろうか?

その点、本書は非常に読みやすい。文字のフォントサイズも割と大きいため、通勤・通学の時間など、ちょっとしたスキマ時間を使って気軽に読むことが出来る。前述したとおり、今回の知的財産関連法令の改正点に絞って解説したものであるので、知的財産関係法令全体を理解する目的には適さないが、改正法の概要や知的財産に関する最新の動向を理解し、実務に反映するには、極めて有用な書籍であるといえるだろう。

今回の改正法は、職務発明、実用新案、侵害訴訟と無効審判の関係の見直しなど、実務において、その対応が急務であるものも少なくないと思われる。是非手元に置いて、御一読されてはいかがだろうか。

(紹介者 会誌広報委員 S.I)

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シミュレーション特許侵害訴訟

編著 伊原 友己、久世 勝之、岩坪 哲、井上 祐史 共著
出版元 財団法人 経済産業調査会 A5版 391p
発行年月日・価格 2004年7月1日発行 定価3,700円(税別)

「この本を、是非、読んでみてください。まるで、法律事務所で研修を受けているみたに感じますよ。」と、同期合格であり友人でもある弁理士の先生が、私に本書を推薦した。

本書は、多数の特許侵害訴訟を経験している4人の先生方が執筆されており、「はしがき」を引用させて頂くと、侵害裁判の実際と理論、およびその赤裸々な裏側を、平易な言葉で紹介している、いわば「素人にもわかる特許権侵害訴訟解説書」であり、「特許権侵害訴訟疑似体験書」である。

その疑似体験できるストーリーを紹介すると、その後原告となるアクセサリー販売会社の応接室での商談の場面から話がはじまり、原告と原告代理人弁護士の打合せ、警告状の作成と続き、その後被告となるアクセサリー販売会社と被告代理人弁護士の打合せ、回答書作成の場面と展開してゆく。更に、ストーリーは深みを増し、提訴、第1回口頭弁論、第1〜8回弁論準備手続、第2回口頭弁論、判決の言渡、控訴と続いて行く。このストーリーは小説のように執筆されており、登場人物の心理描写も詳細に表現され、非常に読みやすく、興味が湧く構成となっている。その中で、特に印象に残ったのは、訴状作成にあたり、法律事務所の所長弁護士が、イソ弁弁護士と修習生を指導する場面である。感情を入れて読めば、あたかも、その場面に自分が居合わせて指導を受けているようにも思えた場面である。
そして、このストーリーに合致した、警告状、回答書、訴状、答弁書、準備書面なども具体的に示してある。もちろん、この各書面や口頭弁論での対応などについて解説もされているが、この解説が法的根拠だけでなく、実務レベルの慣例、訴訟代理人としての倫理感や心構えまで、詳細に記載してある。
まさに、はしがきに記してあるように「特許権侵害訴訟疑似体験書」であると共に、私の友人弁理士が述べた「法律事務所で研修を受けている感じがする」書籍である。

次に、本書を実績面で紹介すると、平成16年7月1日に初版されたにも関わらず、同年8月30日に再版されている。法律の実務書、特に知的財産の実務書に関しては、異例とも言える短期間での再版である。いかに、本書の内容が優れているか、更にそのことが読者に認められているかが解るであろう。事実、平成16年度における特定侵害訴訟代理業務試験を受験された弁理士の先生方の殆どが、本書を参考書として使用していた。

最後に、企業の知的財産部門で業務を行う者、いわゆる「知財部員」の多くは、特許権侵害訴訟の経験を積まずに、発明の出願権利化業務を行っている。即ち、付与された特許の行く末の詳細を知らずに、業務を行っているといえる。この経験不足を補うために、本書を精読することが、簡易であり且つ最良の手段であろう。
本書は、知財部員が必読すべき一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 佐々木通孝)

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中国特許侵害訴訟の実務

編著 徐申民著 小松陽一郎・小谷悦司・梁熙艶 監修
出版元 経済産業調査会 A5版 447p
発行年月日・価格 2004年7月1日発行 4,190円(税別)

中国の経済発展やWTO加盟、企業の中国への事業展開に伴い、中国の特許裁判が注目されている。中国の特許権保護の法制度及び権利行使の現状に対し、関心を寄せられる読者も多いのではなかろうか。本書は、まさにその要望に答えた一冊である。

本書は、中国の特許権保護の法制度、特に特許裁判の手続きを、実務家の観点からまとめたものである。その内容は、序章「中国の裁判制度の概要」、第1章「訴訟前の準備」、第2章「第一審」、第3章「第二審」、第4章「裁判監督手続」、第5章「強制執行」、第6章「特許権侵害事件の行政取調・処置〔行政調処〕及び行政訴訟」、第7章「税関における知的財産権の保護」から構成されている。

また、資料編では、民事裁判全体のフローチャートや、特許侵害訴訟第一審のフローチャート、特許侵害訴訟第二審のフローチャートなどの図表のほか、書式、最新判決、関連法律、法規、司法解釈が多数収載されている。

本書の特徴は、わが国とは異なる中国特有の特許権保護制度や運用が理解できるように配慮されていることにあり、わが国の特許侵害訴訟の実務と対比して異なる事項について、より詳しく、かつ分かり易く説明されていることにある。上述したように、関連法律、法規、司法解釈が多数収載され、それらの紹介とともに特許裁判の手続きが詳しく、かつ分かり易く説明されている。また、中国の実務とわが国の実務の異なる点が注釈で説明されている。

例えば、序章では、中国の司法制度を特色つける司法解釈について、司法解釈が誕生する立法背景も含めて詳しく説明されている。第1章では、侵害製品の証拠収集を行う場合についての注意すべき事項、侵害被疑者との交渉、管轄の規定を利用して地方保護主義を回避する方法等、中国における特許侵害訴訟を行う場合の証拠収集及び訴訟を追行する際に注意すべき事項が、関連法律、法規、司法解釈とともに詳しく説明されている。なお、第1章では、権利侵害と訴えられることを防ぐ方法にも言及されており、実務家にとってありがたい。

また、中国の特許侵害訴訟は、日本とは異なり、二審終審制を採っている。本書では、第一審及び第二審が第2章と第3章に分けられ、それぞれにおいて審理手続及び注意事項が説明されている。更に、中国は、中国の司法制度の特徴の一つでもある裁判監督手続という独特の再審の制度を設けている。第4章では、裁判監督手続が説明され、自己に不利な終審判決をこの制度を利用して逆転させた判決が紹介されている。そして、第5章では、中国における強制執行の制度が説明され、第6章、第7章では、中国の特許権保護制度の特徴の一つといわれる行政ルートによる保護や、税関の知的財産権保護にも触れられている。

以上のように、本書は、わが国とは異なる中国特有の特許権保護制度や運用がスムーズに理解できるようにまとめられた貴重な実務書であり、中国特許侵害訴訟を総合的に理解する上で大いに役立つものである。また、訴訟前の準備から、人民法院への提訴、強制執行まで、実務上の注意点が幅広くまとめられており、実務上大いに参考になるものである。

企業の中国への事業展開に伴い、中国における特許侵害訴訟への対応は、我々実務家にとって重要になっているのはいうまでもない。本書は、是非手元に置きたい一冊である。

(紹介者 会紹介者 会誌広報委員 S.MO)

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