ちょっと一言

「我が故郷の世界遺産」5月号編集後記より

 帰省したときのこと。
 決して都会ともいえず,かと言って田舎でもない私の実家の近くには,広さ45.6ha,周囲2.6km,貯水量157万トン,農業用水として80haもの水田をうるおすことができる大きな溜め池があります。その昔,奈良時代の高僧である行基の指導の下,14年の歳月をかけて,付近の村人が造ったというから,とんでもない大工事であると想像ができます。春には桜祭り,夏には灯ろう流し,秋には行基参り(地車祭り),冬には大どんと祭りが開催され,また,季節を問わず,ランニング,ウォーキングまたはペットとの散歩コースでもあり,この溜め池を管理するために同時期に建立されたお寺とともに,地元の人に今も愛され続ける存在です。

 その溜め池が,「世界遺産になったんやって」と母親が一言。「そうなんや」と私。それからしばらくして「世界遺産になったらしい」と父親が一言。「そうなんや」と私。

 ちょっと待てよ?「世界遺産」といえば,著名な建造物や自然公園など,登録候補に挙がるだけでも騒ぎになるくらい日本国民ならだれもが知っているようなものではないか。それにしてはテレビニュースやSNSなどで見聞きしたこともないものだなぁと思い,文明の利器,スマートフォンを使ってインターネット検索をしたところ,なるほどという回答を見つけることができました。

 両親が云い放った「世界遺産」とは,「世界灌漑(かんがい)施設遺産」のことで,国際かんがい排水委員会(ICID)の第66回国際執行理事会(フランス共和国モンペリエ市で開催)において,我が地元民の愛する溜め池が「世界遺産」に認定を受け登録されたとのことでした。

 両親の言葉は,ある意味で正解であり,そのことに耳を疑った自分に反省したのです。余談になりますが,かの有名なユネスコの「世界遺産」とは,世界遺産条約(正式には『世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約』)の中で定義されており,2015年12月現在,1,031件(文化遺産802件,自然遺産197件,複合遺産32件)登録されています。

 さて,風薫る季節に,長期休暇でのんびりと故郷または自宅で過ごされた方も多いのではないでしょうか。灯台もと暗しとは,良く言ったものですが,身近なところに,普段は気がつかないが,誰もが感心するようなとんでもない文化や風土,遺産があるのではないでしょうか。

(T.M)

(参考)平成27年度世界かんがい施設遺産登録施設
4. 久米田池(くめだいけ)(大阪府岸和田市) <紹介文と写真のリンクがあります。>
出典:「世界かんがい施設遺産」(農林水産省) (2017年6月1日に利用)
http://www.maff.go.jp/j/nousin/kaigai/ICID/his/his.html

※久米田池について(岸和田市公式ホームページ) 
 https://www.city.kishiwada.osaka.jp/soshiki/42/kumedaike2015.html

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.