ちょっと一言

最近の特許性判断 −『進歩性』が下がっています−

   職業柄、毎日特許公報を読んでいます。一年で千件以上読んでいることになります。

読みながら、感じることが多いですね。最近、ちょっと危険な雰囲気を感じます。進歩性のない特許が沢山生まれているのです。まるで、1990年代の後半と同じ状況です。

下の図は、2008年に業界の技術雑誌に小生が掲載したグラフです。90年代の後半、急に登録件数が増えていることがわかります。1992年のハネウエル-ミノルタ事件を契機に「日本もプロパテント時代に」という風潮が起き、当時の特許庁長官が進歩性を緩めたのです。なんでも通る感じでした。

その後、特許法102条が改定され、特許裁判が盛んになり、損害賠償請求額が高騰しました。特許裁判が増加します。

しかしながら、権利行使された特許は「無効理由」を含むものでしたので、裁判所が厳しくチェックをかけました。そして「無効特許の山」が出来ました。「きちんとした特許の権利行使しか認めませんよ」との裁判所からのメッセージでした。

最近また「進歩性」が低くなっています。

でも、90年代後半と違うのは、チェック機能を果たしていた裁判所がいなくなっていることです。むしろ、裁判所が「進歩性」を積極的に下げています。この傾向は2008年から現れたように思います。

知財管理誌4月号に掲載された特許第1委員会の調査報告に、裁判所の判断が急変した当時、知財高裁所長であった方のインタビュー内容が載っていました。彼は、「このように、知財高裁の進歩性判断はここ数年で激変していると思われるが、これを起動したのは、ほかならぬ産業界や弁理士界などからの強い要望であり、厳しい批判であった」と述べています。

「進歩性」は低くなりました。裁判所が認めています。これからは、再び「本来無効である知財権」での訴訟が増え、「訴えたが勝ち」になるかもしれません。救ってくれる人が居なくなりました。困ったものです。いずれまた、進歩性は上昇するでしょうが、司法にはぶれないで欲しいと思います。

一方で、小生は「企業の良心」を信じています。企業がそうした権利は『張子の虎』であり、権利行使してはいけないものであると認識していることを。 (M.S.)                 

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(M.S.)

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