役員談話室
五極特許庁/ユーザ会議への出席 〜 センチメンタル・ジャーニー 〜
2006年から2008年まで、日立がIBMから買収したハード・ディスク装置の会社(米国カリフォルニア州サンノゼ)に知財部長として赴任しており、最初の1年半くらいは単身でサンノゼの隣町のクーパティノのアパート(Avalonのちに改名)に住んでいました。場所はクーパティノの目抜き通りのスティーブンス・クリーク大通り沿いで、そこから日系スーパーに買出しに行ったり、ラーメン屋とか日本メシ屋で食事をしたものです。おそらくこの地区は、気候、住環境、教育環境、治安などの点で、日本人にとって世界で一番駐在しやすいところのひとつではないでしょうか。そのAvalonアパートからスティーブンス・クリーク大通りを東に行くとサンノゼのダウンタウン、西に行くとアップルの本社などがあります。スティーブンス・クリーク大通りをはさんでアップル本社の南側にあるCypress(当時)というホテルで2013年の6月初めに第二回目の五極特許庁/五極ユーザ会議が開かれました。五極特許庁の会合や三極特許庁/ユーザ会議は以前から行われていたのですが、 日米欧に中韓を加えた五極間の特許庁/ユーザ間会議は前年のコルシカ島から始まり、クーパティノでの開催が二回目でした。
そこに私は、常務理事(当時)の竹中さん、宮下さん、特許制度調和委員会のメンバーとともに出席をしました。事務屋の私としては特許制度調和のなんたるかもよくわからないまま参加したので、会議の実質的な内容についてほとんど語れるところがありません。 しかし、いずれも瑣末なことなのですが、印象に残っている発言が二つあります。ひとつは、JPO長官のF氏の挨拶(英語)で“ 私はこのあたりにはintimate memoryがあります ”と言ったこと。 おそらく同氏は“ この辺はよく知っている、親しみがある ”というつもりだったのでしょうが、“ intimate ”という単語は“ 性的に親密 ”という意味が強いので、USPTO長官代行のR女史が “ F氏はかつてStanfordに留学をされていて...”とあわてて補足をしていたのが記憶に残っています。
もうひとつはちょっと真面目な話です。特許庁との会議の前日にユーザ間の会議あり、そこで “制度調和についてはたくさん項目があるので、ユーザ視点で優先順位をつけたリストを出そう”ということになり、第一優先順位とすべき項目を7つ、第二優先順位とすべき項目を5つ、リストにしました。竹中さんが特許庁側から呼び出されるなど少しギクシャクしたものの、結局特許庁側にリストを受け取ってもらうことができました。 しかし、翌日の会議の席上EPOのB長官から“ 制度調和のようなものは一義的には政府間で議論するものであり、ユーザが一方的に優先順をつけるなど身の程知らずではないか ”という趣旨の発言がありました。やや時代がかったフランスのエリート官僚らしい発言だなと妙に感心した次第です。なお、その後、リストの項目は実体ハーモの対象と手続ハーモの対象に整理され、それに沿った議論が続いていることからすると、優先順位リストを出した自体は制度調和の進展には貢献したのではないかと思っています。
6月の乾いた晴天のもと、何回もその前を通ったホテルでの会議、韓国某社との交渉のあと会食をしたステーキレストランでのレセプション、家族と行ったこともあるホテルの前の寿司屋での慰労会、等々クーパティノでの思い出を追体験させて戴いた旅でした。センチメンタル・ ジャーニーをありがとう!
鈴木 崇(2015年度 副理事長)