役員談話室

中国を侮ることなかれ。学ぶべきもの、それはどのような状況のなかでも生きていく、生き残る術。日本はぬるま湯の世界?  −東海地区協議会に参加して−

2009年07月17日

「日本企業は中国企業に負ける日が来る。今でも負けていると言える。」この言葉に一瞬耳を疑った。がそれに続く話を聞くにつれ、“なるほどこれはうかうかできないな”と思った次第である。

「中国の子会社に、親会社の人を派遣し技術を学ばせている。中国の子会社の従業員が親会社に見学にくるが、日本で学ぶものは整理整頓くらいしかない」この言葉は、親子関係にありながら、技術的に中国の子会社が親会社を抜きん出ていることを物語っている。

まだ話は続く。「中国の子会社は、MRIに関する液体窒素のタンクをGEに納めているが、GEからこの中国の子会社が品質に関し表彰を受けた。」

「この子会社に、日本から優秀な技術者が派遣されているからこうなったのではない」というところが、この話のポイントである。

中国には優秀な人が多くいる。この人達をまず集めること。そのためには、ピラミッドの頂点にこれはと思う人を据えること、頂点の人が優秀な部下を引っ張ってくる。引っ張られた部下が、優秀な人を引っ張ってくる。それによって優秀な集団が形成される。このような話を聞いて、一瞬アメリカの話をされているのではと耳を疑う。「それでも人件費は日本の1/10ですから」の一言で、まぎれもなく中国の話であることが分かる。中国は、アメリカナイズされた社会であると、この方は言い切る。

森松グループの2008年の実績を見てみる。売上高454億円。その内本社の売り上げは128億円で、上海森松の売り上げは293億円である。さらに、純利益は46億円であるが、本社の寄与分は3億円、上海森松が41億円の貢献をしている。これらは、上記の内容を裏付ける数字であり、まさしく中国>日本である。

この方とは、岐阜の森松工業株式会社(http://www.morimatsu.jp/guide/index.html)の代表取締役松久信夫氏で、最近かなりのメディアから出演依頼やインタビュー記事掲載を申し込まれている有名人である。

7月3日にホテルサンルートプラザ名古屋で今年度第1回の東海地区協議会に参加させていただいた。会務報告の後に、特別講演が行われた。企業トップの話を聞くという企画で、今回で15回目に当たる旨紹介が中山常務理事からあった。小職としては、初めての参加であり、どのような方がどのような話をされるのか、全く白紙の状態で特別講演を拝聴させていただいた。

 松久社長の講演は、話の入り口から人を惹きつけた。いろいろと面白いキーワードが次から次へと飛び出すのだが、まずは経歴が面白い。2代目として若くして(18歳)社長に就任されている。熔接技術を独学でマスターされ全国協議会に出場されている(21歳)。ゴルフも短期間でマスターしましたよという話であったが、なんと31歳のときアマチュア15名の一人として中日クラウンズに招待された実力である。今も楽しまれているのでしょうとお聞きすると、「社業が忙しく、時間がとられすぎるので7年くらい前からやめました」との答えが返ってきた。今69歳とのことですが、岐阜と上海を行ったり来たりで、忙しくてゴルフをする暇がないバリバリの現役社長なのです。 

 これから70歳まで務める“生涯現役”を目指されている。どこからそのようなパワーが生ずるのか不思議である。聞いていると、会社を、仕事を、従業員を愛するところから来るもののようである。一日4時間の睡眠で20時間会社のことを、365日休みなく会社のことを思い、50年間の経験と能力を駆使して人と仕事に向き合う姿勢、それにITを駆使する姿勢(WEBカメラで上海の工場を毎日視察)を以ってして、人よりも“4倍の労働時間”x“4倍の能力”x“10倍の効率化”x“これからさらに10年間”とすると“1600年分働く”ことになると豪語されている。

 中国で生き残る秘訣はいろいろあるようであるが、中国に進出する際に得た知人のアドバイスの一言「騙されるな」がバネになったようである。「頭のいい中国人が、まとも(日本人の感覚から推し量って)な話をぶつけてこない。これに立ち向かうのは大変ですよ」と中国進出19年のキャリアはこともなげに言われる。日本人の感覚が世界標準ではないことを知らされた。タフな交渉術を身に着けていないと取り残される中国社会、そこで育ってきた人からすると日本人の交渉術はオーソドックスで、恐れるに足りないと思われているのかな。

日本の小さなパイ(市場)を大勢で配分する道を選択するか大きなパイの大きな切り口(取り分)を求める道を選択するのか。経営者としては、非情な選択も必要な時代に入っている。その時代で生き残れるのは、どこでも(国・地域)働ける日本人なのであるが。

懇親会の席上で

*TBSテレビ「みのもんたの朝ズバッ」では、“社長室は喫茶店。秘書も運転手もいらない。500万円の節約社長”と紹介された。

中山 喬志(日本知的財産協会 専務理事)

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