役員談話室
学者の倫理、弁理士の倫理
2008年10月03日
鈴木副理事長の怒りの寄稿です。社会が目標を失うと倫理がおかしくなります。いつの世でも一部の人間は元々倫理観も持っていないのですが、社会的地位のある人や多くの普通の人の倫理観が狂ってくると、国は急速に衰亡し、生甲斐を見失う社会になってしまいます。年寄りの愚痴ですが…
宗定
CO2の排出を減少させることを狙いとして「ある技術」を実施し始めたころ、要注意出願がありました。ドイツのメーカーが出願したものです。例によって、翻訳がいいかげんで、わかりにくく、なにを言っているのか判然としません。当方は36条違反で拒絶査定になると判断していました。
審査官は、36条違反で拒絶査定にしました。実にわかりやすい判断でした。
ところが、審判の段階で、それがひっくり返り、特許となってしまいました。調べてみますと、代理人が替わっており、急にアグレッシブな活動が展開されていることがわかりました。この代理人は、審判長に積極的に接触し、翻訳がいい加減なことを逆に利用して、新規事項をつぎつぎと追加します。権利範囲はどんどん広がりました。
審判長は、外国人に弱く、日本人だったら絶対に認めない補正をどんどん認めていきます。
包袋をみますと、われわれが展示会に出展した「ある技術」のサンプルの断面写真が掲載されていました。会場から持ち去られたものです。持ち去ったのは、ドイツの会社の日本法人スタッフです。そのサンプルの内容は、最初の出願内容では、明らかに技術的範囲外にあったものでした。
この弁理士に倫理観はありませんでした。ひたすらクライアントのために、なんでもやります。
特許査定になったのは、異議申立が可能な時代だったのですが、当方は、あえて無効審判を請求しました。きっちりと闘う姿勢を示すためです。無効理由を36条違反にするのか、29条違反にするのかで随分迷いましたが、36条違反で行きました。審判長が変わることを期待しましたが、出てきた審判長は、前の審判長と同じでした(これは問題があると思います。変えるべきです)。
本願を特許査定にした審判長ですから、36条違反が通るわけがありません。あえなく負けイクサ。東京高裁での逆転に賭けることになりました。
そのとき、奇妙な「陳述書」が出てきました。わけのわからない記載内容が、「明確である」という内容のものです。明らかに代理人が書いた文章に、高名な学者が印鑑を押しただけのものです。
陳述者に判を押した学者は、ドイツに留学し、超有名大学の教授となり、研究所長を勤め、日本を代表するような大きな学会の会長を務め、退職後は、名誉教授となり、勲二等瑞宝章を受章しています。
こうした高名な学者が、特許裁判になると、平気で売名行為を行います。恥ずかしくて、学会発表が出来ないような内容を、臆面もなく、証言します。困ったものです。
そうした行為を行わせる弁理士も問題です。弁理士法・第三条に抵触するのではないでしょうか。弁理士は、正しい倫理観を持たねばなりません。
小生が出来ることは、こうした行為を明るみに出すことです。2006年、日本機械学会の全国大会で発表しました。日本機械学会には、法工学部門というものがあり、そこで「技術者の倫理」を研究しているのです。全国大会は、その成果の発表の場でもありました。会場に日本機械学会の元副会長が来ており、質問しました。「それは本当ですか?」と。元副会長は、とても驚いていました。
その後、このような「陳述書」がどれくらい出されているのか。それを特許庁がどの程度採用しているのかを調査しています。
弁理士法・第三条
弁理士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。
本件は、東京高裁で36条違反と判断され、特許無効になりました。この弁理士は、最高裁に上告し、分割出願を連発しましたが、いずれも撃沈しました。
鈴木 元昭(日本知的財産協会 副理事長)