役員談話室
「ごぼう」の主張
2008年08月06日
また鈴木副理事長に無理を言って好評の野菜シリーズを書いて頂きました。
今回は「ごぼう」が主役。とっても面白いですよ。
是非読んでみてください。
ところで7月25日に知財協の職務発明プロジェクトで金沢を 訪問した際に金沢大学法学部大友信秀教授の知財ゼミのメンバーとの意見交換をしたそうですが、同ゼミでは石川産の 沢野ごぼうを地域ブランドに育てようとベンチャー企業を立ち上げ、 ゼミ生が休日にはごぼう農家に手伝いにも行っているそうです。
鈴木さんの寄稿と偶々時期が重なりましたが、これも ごぼうの取り持つご縁でしょうかね。
宗定
当社では、毎月1回、知的財産部長室で、「秘密のパーティ」を行なっている。
金曜日の17時30分、就業時間が終わるや否や、部長室のブラインドを閉め、缶ビール一人2本、乾き物と配達ピザ、それに特別派遣隊が調達した餃子、鮨など(近くのスーパーで売っているもの)を用意して、1時間ほどの楽しい時間を過ごす。会社でのアルコール摂取は禁止されているようであるが、いいのである。ルール破りだといわれても、部長には、いつでも責任を取る覚悟はできている。
宴が終わり、二次会に行こうとしたとき、「ごぼう」が、ポツリと言った。
「スズキブチョウ、わたくし、、、出来れば、、、得意分野をやりたいのですが・・」。いつも、寡黙な「ごぼう」がそんなことを言う。「ごぼう」が自己主張したのは、初めてであった。
「わたくしには、タマネギさんとか、キャベツさんとか、ダイコンさんとか、幅広い分野での仕事は出来ません」「でも、特定の分野で、深く掘り下げる能力は、負けないと思っています」と、思いつめたように、一気に言った。
「部長は、先日、豚肉とダイコンのコラボレーションがグッドだと、知財協の役員談話室に書かれました。だけど、豚肉の旨みを引きだす能力は、ワタクシのほうが優れていると思います。食べ比べていただければ、おわかりになると思いますが、エグミが違います」「それに、牛肉については、ダイコンさんには、絶対に、負けません。浅草の「今半」でも、高く評価していただいております」。強い意志を感じた。
ハッと気がつき、「申し訳ない」と、瞬時に思った。本当に申し訳なかった。ごぼうは、「きんぴら」程度の実力と思っていたのである。
後日、「ごぼう」の担当範囲を広げた。彼の希望どおり、「脂もの」を担当させた。そしたら、びっくり。大活躍!活き活きと活動し始めた。
「肉部署」に所属する発明者には、
- 牛肉のこま切れをまとめて延ばし、それをごぼうに巻きつけた「巻物の発明」を引きだした。安価な牛肉のコマが高級和風料理に大変身した。
- 豚肉とごぼうの煮物も、すばらしかった。豚肉から染み出た旨みをしっかりと受けとめ、自分自身も美味くさせていた。
- 鶏肉ともいい仕事をした。鶏肉とごぼうのワイン煮など、とても好評であった。
- そして、仕事はハンバーグにも及んだ。ハンバーグ本体に入り込み、不思議なシャキシャキ感とサッパリ感を出して絶賛された。意外な冒険もするのである。
「魚部署」に所属する発明者とは、煮魚関係で大活躍した。
- メバルの煮付けでは、一緒に鍋に飛び込み、メバルのアブラを上手に吸収し、煮汁を上品なものにした。
- カレイの煮付けもすばらしかった。カレイから出るコラーゲンをうまく処理した。
- 鯛のカブト煮でもコラボした。煮汁がきれいなのである。
- 煮魚関係では、「みりん特許事務所」と「醤油特許事務所」を上手に使った。「知財管理」6月号p726に掲載された特許第一委員会の論説「コミュニケーション能力にすぐれたコミュニケーター」を完璧に演じたのである。
- ちょっと変わった方面では、白身魚の練り物とも、よい仕事をした。薩摩揚げの「ごぼう巻き」は、おでん関係に大変好評である。
- 単独でもいい仕事をした。「ごぼう揚げ」なんぞは、簡単に出来て、ビールとの相性はぴったり。「ごぼうの胡麻和え」なんかも、日本酒関係に評判がよかった。「植物油」とのコラボもできることを示したのである。
「やりたいことをやらせる」、すなわち、チャンスを与えると、才能は大きく開花するものである。いまでは、「脂」および「食物油」関係のスペシャリストとして、社内で有名になった。「ごぼうに相談すると、よい発明が出来る」と発明者に大人気、相談が続々舞い込んでくる。そして、期待は膨らむ。当社は「アブラ関係」で、大きな収益を挙げることが出来るのではないかと。
昨年3月の吉野会長(ホンダ)の言葉を思い出した。部下に対して、「オレはこれをやりたいと発信し続けろ!」とおっしゃっていたのを。確かにそうであった。うまくいく。
(余談)
貧相であることが、部長の判断を誤らせていた。痩せていて、顔色も悪い。顔に泥を付けて出社することもある。
泥については、「それがいい」という人がいて、わざとそうさせているという。
でも、顔に泥を塗られて、「それがいい」というのは、よく考えてみると、「ごぼう」にとって、とても失礼な話ではないか。
社外か社内か知らないが、いじめにあっていたようである。
それでも、「ごぼう」は、じっと耐えていた。そんな「ごぼう」であったのだ。
皆さんの社内にも、いるでしょう?こんな人。
きっと開花しますよ。
鈴木 元昭(日本知的財産協会 副理事長)