役員談話室
素晴しい本の紹介
2007年10月09日
今月は、皆さんに素晴しい本を紹介します。知的財産の本ではありませんが知的財産の仕事と無関係ではありません。
「グローバル企業の成功戦略」スザンヌ・バーガー著 草思社出版 です。
原題は「How we compete?」で、マサチューセッツ工科大学のチームが5年間にわたり世界中の500社の企業を訪問してグローバル市場経済においてどのようなビジネスモデルが勝つのかを調査した本です。
同じチームは、20年前にも日欧の企業を調査して「Made in America」という有名な本を出版しました。
彼等の研究調査の動機は、どちらの本もアメリカの企業がどうすれば国際競争に勝てるかを知ることです。英文の原著タイトルにその意図がはっきりと出ています。
「グローバル企業の成功戦略」の中にはっきりと書かれている訳ではないのですが、私は、彼等が、調査研究を始めるに当り、ひとつの仮説を設けたのだと思います。
「中国やインドのような低賃金国と競争するには、アメリカの優れた経営戦略の頭脳中枢だけをアメリカの本社に残して、その他の仕事はどんどん海外へアウトソーシングしていくことでスピーディーな意思決定と安いコストの両方の競争優位を形成出来る筈だ。」
彼等の出発点は、ここ10年間の世界経済が次の3つの大きな変化があったという認識です。
- 貿易と資本の流れが大々的に自由化された。
- 情報技術の革命により企業が設計、生産、流通の各工程をデジタル化し、それらの機能を複数の異なる場所に分散させること(モジュール化)が出来るようになった。
- 中国やインドのように低賃金の国に、熟練労働者の厚い層が形成された。
しかし、5年間をかけた研究調査の結果は、この仮説は間違っていたということでした。
デルはPCの製造をすべて外国を中心にアウトソーシングしているのに対し、インテルはその半導体生産の殆どを米国内の自社工場で行ってきた。
GAPは、生産をしていないが、スペインの躍進するアパレルメーカーのZARAは、地元スペインに自社工場と協力会社のほとんどを配している。
日本のスタートアップ企業のゾフ社は、中国で生産された眼鏡を1本100ドル以下で売って急成長している。
「成功モデルは多種多様。万能薬などない。」と結論づけています。
自社が何に優れているかを冷静に見定めて、その強みを研ぎ澄ますことで他の追随を許さないようにするという事が唯一の解のようである。
せっかく築いた優れたビジネスモデルは、知的財産でしっかりと守らないとすぐに追随されます。
世界第4位の靴メーカーであるイタリアのジェオックス社は1995年にM.M.ポレガート博士によって創業された若い企業ですが、同博士の透湿性防水性の靴ソールの特許発明30件が守護神です。同社は工程を分けて、イタリアとルーマニアと中国で製造を行っており、本当のノウハウはイタリアに温存しています。
我々、知的財産の仕事に携わる者は、知的財産とビジネスの関係についてもっともっと勉強しなければいけないと思いますが、この本は、そのための格好の良書だと思いますので、是非お読みになることをお薦めします。
宗定 勇(日本知的財産協会 専務理事)