新刊書紹介
新刊書紹介
地理的表示保護制度の活用戦略 地名と歴史を販売戦略に活かす
編著 | 生越 由美 著 |
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出版元 | 金融財政事情研究会 四六判 276p |
発行年月日・価格 | 2023年3月31日発行 2,090円(税込) |
本書は,地理的表示保護制度の活用戦略を紹介した書籍である。地理的表示(GeographicalIndication,以下,GIという。)とは,農業における知的財産権であり,GI産品のブランド化に寄与してきた。EUにおいて,この地理的表示を活用した2017年度のGI産品の売上高は約750億ユーロであり,EUの宝物と言われている。日本も2015年にこの制度を導入し,農産物・加工食品のGI登録を急ピッチで進めているところである。
本書の第1章は,GI制度,第2章でGIを活かした販売戦略,第3章は欧州のGI制度,第4章は日本のGI制度,第5章はその他の国のGI制度について述べているが,ここでは本書の中心をなす第1〜4章の内容を紹介する。
第1章では,1905年にフランスで誕生したGI制度の制定経緯や,1995年にWTO協定で知的財産に位置付けられ一気にグローバルな制度に発展した経緯などを解説している。
第2章では,GIの取得だけでは販売戦略が完成しないことを強調している。筆者は,成功しているGI産品やそのウェブサイトには必要な要素や仕組みがあることに気づき,「ブランディング」「マーケティング」の2つの視座から確認できるチェックリストを作成し,紹介している。基本は,4p分析,ポーターのダイヤモンドモデル,多言語化の3つからなっており,このチェックリストが埋まらないところは理想形を見据えて関係者で話し合いを継続することが何よりも重要であると提言している。このチェックリストを読むことで,GI産品を活かした販売戦略を推進するためにはどうすればよいかを考えるきっかけになると感じた。
第3章では,多くの国でモデルとなっているEUのGI制度を紹介している。例えばGI制度の種類や認定手続き,登録時の審査要件,各国との連携協定,地域の特異性と産物の特異性の因果関係(Link)といったものである。特に,考え方が分かりにくいとされているLinkについて,EUの事例をもとに,表を用いながら,地域の自然的要素や人為的要素がどのように産品の品質に影響をもたらすのか解説してあるので,考え方を理解するのに役立つであろう。
第4章では,日本のGI制度の概要や,登録要件,登録の流れを解説している。また,日本のGI産品のうちブランディング戦略に長けている「神戸ビーフ」「十勝川西長いも」等のデータを参照しながら,GI制度を活用したさらなるブランド力強化を図るためのポイントについても考察しているので,本制度を活用するうえで指針になると考える。
本書は,GI制度の基礎的な知識からGI登録後の販売戦略まで網羅的に解説されているため,企業の知財担当者,あるいはGI制度の活用を検討している組合の方にとっても非常に参考になると考える。是非,本書を手に取っていただきたい。
本書の第1章は,GI制度,第2章でGIを活かした販売戦略,第3章は欧州のGI制度,第4章は日本のGI制度,第5章はその他の国のGI制度について述べているが,ここでは本書の中心をなす第1〜4章の内容を紹介する。
第1章では,1905年にフランスで誕生したGI制度の制定経緯や,1995年にWTO協定で知的財産に位置付けられ一気にグローバルな制度に発展した経緯などを解説している。
第2章では,GIの取得だけでは販売戦略が完成しないことを強調している。筆者は,成功しているGI産品やそのウェブサイトには必要な要素や仕組みがあることに気づき,「ブランディング」「マーケティング」の2つの視座から確認できるチェックリストを作成し,紹介している。基本は,4p分析,ポーターのダイヤモンドモデル,多言語化の3つからなっており,このチェックリストが埋まらないところは理想形を見据えて関係者で話し合いを継続することが何よりも重要であると提言している。このチェックリストを読むことで,GI産品を活かした販売戦略を推進するためにはどうすればよいかを考えるきっかけになると感じた。
第3章では,多くの国でモデルとなっているEUのGI制度を紹介している。例えばGI制度の種類や認定手続き,登録時の審査要件,各国との連携協定,地域の特異性と産物の特異性の因果関係(Link)といったものである。特に,考え方が分かりにくいとされているLinkについて,EUの事例をもとに,表を用いながら,地域の自然的要素や人為的要素がどのように産品の品質に影響をもたらすのか解説してあるので,考え方を理解するのに役立つであろう。
第4章では,日本のGI制度の概要や,登録要件,登録の流れを解説している。また,日本のGI産品のうちブランディング戦略に長けている「神戸ビーフ」「十勝川西長いも」等のデータを参照しながら,GI制度を活用したさらなるブランド力強化を図るためのポイントについても考察しているので,本制度を活用するうえで指針になると考える。
本書は,GI制度の基礎的な知識からGI登録後の販売戦略まで網羅的に解説されているため,企業の知財担当者,あるいはGI制度の活用を検討している組合の方にとっても非常に参考になると考える。是非,本書を手に取っていただきたい。
(紹介者 会誌広報委員 H.F.)
スタートアップの法律相談
編著 | 山本飛翔,菅原稔,尾下大介 編集 |
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出版元 | 青林書院 A5判 376p |
発行年月日・価格 | 2023年5月発行 5,390円(税込) |
「スタートアップの法律相談」は,ビジネスの立ち上げからイグジットに至るまで,スタートアップの各段階で直面するさまざまな法的問題に焦点を当て,スタートアップが法的リスクを最小限に抑えながらビジネスを展開するための実用的なガイド書である。本書のカバーする法律的問題は網羅的であり,知的財産権の保護,契約の取り決め,株式配当,投資家との交渉,ビジネス戦略,税務,人事,ガバナンス,コンプライアンスなどが,具体的なケーススタディを交えて説明されている。知的財産権の保護については,商標と商号,権利の帰属,知財戦略,職務発明など,過不足なくカバーされている。各法律的問題を取り上げた専門書籍と異なり,スタートアップが知っておくべき内容が,ビジネスの成長の時系列を考慮して構成され,起業家・経営者のニーズに応えるものであろう。
本書は,Q&A形式で構成されており,まず,「Q」でスタートアップが直面する法的な課題や注意点を挙げ,次に,「A」で法的なトラブルを回避するための実践的なアドバイスを,ポイントをおさえた短い解説,詳細な解説,引用文献と段階的に提供している。スタートアップで起きうる法律・知財の諸問題について,広く浅く知りたい場合でも,特定のトピックについて深い知識を得たい場合のいずれでも,本書は役立つと考える。
さらに,本書は,特定の法的テーマごとに各分野の法律専門家が執筆することで,起業家が直面する法的問題とその対応策を包括的かつ専門的に解説している。また,起業家が知っておくべき法的基本用語や概念もわかりやすく解説されており,法律の専門知識がない人でも理解しやすい工夫がされている。
そして,本書は,スタートアップ成長の時系列に沿ってQ&A形式で構成されているため,会社設立時に知財権の帰属関係をどのような観点から整理しておくべきか,ビジネスモデルによっては,シード期に許認可の取得等の法規制への対応を行っておくこと,アーリー・ミドル時で大企業やアカデミアとアライアンスを行う際に不利にならないよう何をすべきか等,起業家・経営者に法的問題に対する早期の対処やプロアクティブなアプローチを促すことができ,さらに,起業家・経営者が法的な知識を段階的に深めることを助けるガイド書となりうる。起業家・経営者が,弁護士や弁理士の助言を受ける前段階で,基本的な知識を得るための一冊としておすすめであり,また,スタートアップ企業をサポートする弁護士や弁理士にとっても,顧客のニーズを理解するためのガイドとして有用である。
最後に,本書は,読み物としても,問題に直面しそうなときに手を伸ばす資料としても活用できる内容となっている。スタートアップの関係者だけでなく,スタートアップに興味のある弁理士や弁護士の皆様にも,是非,手元に置いていただきたい。
本書は,Q&A形式で構成されており,まず,「Q」でスタートアップが直面する法的な課題や注意点を挙げ,次に,「A」で法的なトラブルを回避するための実践的なアドバイスを,ポイントをおさえた短い解説,詳細な解説,引用文献と段階的に提供している。スタートアップで起きうる法律・知財の諸問題について,広く浅く知りたい場合でも,特定のトピックについて深い知識を得たい場合のいずれでも,本書は役立つと考える。
さらに,本書は,特定の法的テーマごとに各分野の法律専門家が執筆することで,起業家が直面する法的問題とその対応策を包括的かつ専門的に解説している。また,起業家が知っておくべき法的基本用語や概念もわかりやすく解説されており,法律の専門知識がない人でも理解しやすい工夫がされている。
そして,本書は,スタートアップ成長の時系列に沿ってQ&A形式で構成されているため,会社設立時に知財権の帰属関係をどのような観点から整理しておくべきか,ビジネスモデルによっては,シード期に許認可の取得等の法規制への対応を行っておくこと,アーリー・ミドル時で大企業やアカデミアとアライアンスを行う際に不利にならないよう何をすべきか等,起業家・経営者に法的問題に対する早期の対処やプロアクティブなアプローチを促すことができ,さらに,起業家・経営者が法的な知識を段階的に深めることを助けるガイド書となりうる。起業家・経営者が,弁護士や弁理士の助言を受ける前段階で,基本的な知識を得るための一冊としておすすめであり,また,スタートアップ企業をサポートする弁護士や弁理士にとっても,顧客のニーズを理解するためのガイドとして有用である。
最後に,本書は,読み物としても,問題に直面しそうなときに手を伸ばす資料としても活用できる内容となっている。スタートアップの関係者だけでなく,スタートアップに興味のある弁理士や弁護士の皆様にも,是非,手元に置いていただきたい。
(紹介者 会誌広報委員 K.I.)