新刊書紹介
新刊書紹介
ストロベリー戦争 弁理士・大鳳未来
編著 | 南原 詠 著 |
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出版元 | 宝島社 四六判 272p |
発行年月日・価格 | 2022年9月9日発売 1,540円(税込) |
久郷村のいちご園で偶然にも恵まれ開発された絆姫。世界的なパティスリー「カリス」にも認められ,クリスマスケーキに使用されることになっていた。
しかし,これに目を付け先取り的に「絆姫」の商標権を取得していた商社から,いちご園のみならずその顧客にまで警告書を送付され,いちご園は「絆姫」を販売できない状況に追い込まれた。
果たして主人公のミスルトウ特許法律事務所,大鳳未来弁理士はこの危機的状況を覆すことができるのか。
日本に限らず外国で日本の著名商標やキャラクター名称やそれらに類似する名称などが無断使用/商標登録されている問題はニュースなどで広く取り上げられているところであり,商標は幅広い読者になじみやすいテーマと思われる。
また本書のストーリーは商標の専門的な内容に踏み込むが,以前ニュースで取り上げられた「ゆっくり茶番劇」や,シャインマスカットなど,有名な時事ネタ,トリビアネタを取り上げるなどして,ストーリーの中で重要な商標の要素についてわかりやすく説明している。そのため商標の知識のない人でも置いてきぼりになることなく,ストーリーの進行を楽しめるだろう。
作中では大鳳未来弁理士の協力者として様々な会社や人物などが登場する。知財関連の会社については著者の遊び心か,知財人ならばすぐにあそこだ,とわかるようになっている。多くの場合一言二言話して退場していくのが少し残念だった。
大鳳未来弁理士は「絆姫」の危機的状況に対してどのような手をうつのか。最後まで続く,ハラハラドキドキの展開を楽しんでもらいたい。
デザインやブランディングがより重要になってきている昨今,多くの社員に商標に関するある程度の理解が求められている。
本書籍は会話文章が多いのでそれほど時間がかからずに読了できるし,始めが危機的状況で最後は大逆転,というわかりやすい話の流れのため,読んでいて心理的ストレスもかからない。
そのため,一般社員に気楽に読んでもらって,商標,ひいては知財に興味を持ってもらうための導入書籍とすることができるのではないだろうか。
なお本書はストーリーに必要な商標の要素だけを取り上げており,商標の入門書となるものではない。商標(知財)に興味を持った方は,改めて入門書等で勉強されるとよいだろう。
(紹介者 会誌広報委員 S.S)