新刊書紹介
新刊書紹介
特許協力条約概説
編著 | 佐々木眞人 著 |
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出版元 | 経済産業調査会 A5判 440p |
発行年月日・価格 | 2022年4月14日発行 4,950円(税込) |
企業内の知的財産部門の一担当者でしかない私にとって,PCTは特許の外国出願をするための手段であり,国際調査報告で自らが知らない先行技術を知るための手段という以上の意味がないのが現実である。国際調査報告を別の国際調査機関が補う補充国際調査や,特許性の有無について予備的かつ拘束力のない見解を示す国際予備審査という制度について,国際調査報告と対比して紹介されている。特許事務所からの通知等でこれらの制度があることは知っていたが,利用する機会がないため国際調査報告との違いについて知らないのは私だけではないと思う。また,国際出願の公開の効果としての仮保護(日本における補償金請求権)の規定や,国際出願の新規性及び進歩性について見解を述べることができる第三者情報提供制度の規定についても紹介されており,参考になるであろう。
知財部門の担当者として実務上知っておくべき内容を2つ挙げる。一つ目は,優先権主張の回復の請求である。優先権主張を伴う国際出願が優先期間である12か月を超えてなされた場合に優先権主張を直ちに無効とはせず,優先権の回復請求という救済手段が設けられている。ただし,国際出願を受け付ける受理官庁と国際出願が移行する指定官庁で異なる決定をすることもできるため,受理官庁の決定が肯定的であれ否定的であれ,指定官庁での回復を請求する意味があることに言及されている。
二つ目は,国際出願の誤記及び不正確な翻訳文の問題である。明白な誤記については,対象ごとに訂正権限を有する機関(受理官庁,国際調査機関,国際予備審査機関,国際事務局)が訂正について判断するが,最終的には各国の判断にゆだねられている。また,不正確な翻訳文により,翻訳文が原語の特許の範囲を超える場合は,各国は特許の範囲を遡及して限定できる。逆に翻訳文が原語の特許の範囲より狭い場合は,含まれなくなった範囲を出願人が放棄したものと扱うことができるとされていることが解説されている。
PCTを体系的に理解するために役立つことはもちろんのこと,企業の実務担当者が実務上有用なPCTの細部について知ることができる良書である。
(紹介者 会誌広報委員 T.K.)