新刊書紹介

新刊書紹介

ある知財法学者の軌跡 知的財産法学にいざなわれて

編著 中山 信弘 著
出版元 弘文堂 4-6 上製 328p
発行年月日・価格 2022年5月発行 2,970円(税込)
 出版社による本書の紹介は『第二次大戦末期に生を享け,大学紛争の時代を経て,さまざまな先生に巡り会い導かれながら研究者の道を選び,「知的財産法」という新しい学問を築き上げた学者の回顧録です。何を研究すべきか迷い苦悩し,また病と闘いながら,新しい学問を確立させてゆく軌跡を読むことで,「知的財産法」に関わっている人はもとより,そうでない人も,人生や仕事のヒントを見つけ元気づけられる一冊です。』というものである。

 本当にこの紹介の通りで,知的財産に携わる者なら誰もが知っている大家の足跡を辿りつつ,日本の社会,文化,経済が変遷する中で知的財産がいかに重要性を増してきたか,概念がどのように変化してきたかなど,多くの学びや気付きを本書から得ることができる。それにより日々業務で取り扱う知的財産に対する見方や捉え方が変わり,仕事への向き合い方なども必ずやポジティブな方向に変わるなど,企業の知財部員にとっては自己啓発書となるであろう。

 本書の構成として,まず第1部は中山先生ご自身による回顧録である。第2部は,関わりの深かった学者や実務家から「喜寿によせて」としてエッセイが綴られている。そして第3部は,「知的財産法学のこれまでとこれから」と題して,門下生との座談会形式でいくつかのテーマについて論じたものとなっている。

 個人的には,第1部の戦後の幼少期から留学時代までの内容は,時代背景から,生き生きとした生活が目に浮かぶ身の回りの話まで,知らないことばかりで非常に興味深かった。また特許法と著作権法のコンメンタールや教科書といった「体系書」を著し,「知財基本法」制定など政府の審議会等を通じて多くの政策や法改正に深く寄与し,知的財産研究所の設立などを通じて,学会はもとより産業界も含めた後進の育成と,実に多様な功績を残された学者時代の内容は,それらに通底する考え方を含めて,大変勉強になる。

 中山先生は,アナログ時代の予定調和だった著作権法の世界に,デジタルが入ってきて混沌とした世界になり収拾がつかない状態を述べられた「著作権法の憂鬱」のフレーズでも有名である。こうした技術や社会,時代の変化を的確に捉える眼差しに,いささかの陰りも曇りもないことは,第3部での将来に向けたテーマに関する議論からも伺い知ることができる。第一線を退かれているとは承知しつつも,是非とも本誌にも玉稿をお寄せいただきたいものである。

 とにもかくにも,知的財産に関わる人全員に,大変お薦めの一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 S.M)

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