新刊書紹介

新刊書紹介

経験者が語るQ&A電子契約導入・運用実務のすべて

編著 柴山 吉報,高岸 亘, 桑名 直樹,水井 大,冨山 京子 著
出版元 中央経済社 A5判 384p
発行年月日・価格 2021年9月27日発行 4,620円(税込)
 近時,新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴うテレワークの推奨やリーガルテックの進化・普及,各種業務のデジタル化により,電子契約の検討・導入が急速に進みつつある。実際,当社内でも「相手方が電子契約での締結を希望しているが,具体的な手順を教えて欲しい」という相談をよく受けるようになった。電子契約の導入・運用は業務の効率化に資する一方で,多くの企業では紙ベースの契約書を前提とした押印,保管という社内の管理規定や旧来の慣行があり,社内の体制や業務フローの変更が必要となる。また,電子契約の法的リスクを懸念する声もあり,慎重意見に対してどのように説得するのかも重要となる。これらの新たなニーズに応えるべく,執筆されたのが本書である。
 電子契約に関する法律論や技術論は,知財管理誌の「電子契約の特徴を踏まえた導入時の留意点について」(2021年8月号)をはじめ,優れた論考を数多く見かける。本書は法的・技術的な解説はもちろん,導入に際してどのようなサービス事業者を選定すべきか,関係部署や事業部門,経営陣とどう調整するべきか,といった点まで踏み込んで助言を行っている。
 また,本書は電子契約の導入や運用に精通している弁護士によって執筆されているが,各種リーガルテックサービスを提供する複数の企業からも協力を得て執筆されている。契約書のアップロードや具体的な署名手順が,操作画面を用いて解説されており分かりやすい。一方で,業者から各種協力を受けたにもかかわらず,電子契約のデメリットについても詳述されている。例えば,紙の契約の場合,印影の真正性とその印影が署名者の意思に基づいて顕出された場合は,文書は真正に成立したと推定される。いわゆる二段の推定である。一方で,電子契約の場合は契約締結行為を行った担当者の権限が十分に確認できない。本書では,このような無権代理リスクを低減するため,想定される場面ごとに対策を提案している。例えば,契約書内に電子署名を施した者が真正な締結権限を有する旨を表明保証する旨の規定を挿入することや,契約締結依頼時のメールを担当者だけでなく関係者全員に送付する方法である。他にも,電子契約によった場合の電子帳簿保存法や下請法上の留意点についても言及している。
 わが国では,現時点では電子契約の導入に慎重な企業も少なくない。一方で,契約は複数当事者でなされるものである以上,相手方から電子契約での締結を求められた場合には,無碍に断ることはできないだろう。少なくとも仕組みや特徴について,担当者であれば理解しておきたいところである。また,実際に導入を検討していても,社内関係部署との調整で苦労している担当者も少なくないだろう。本書は電子契約の導入を検討している企業はもちろん,既に導入済みの企業の担当者にもお勧めしたい一冊である。

(紹介者 元会誌広報委員 K.I)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.