新刊書紹介

新刊書紹介

知的財産権訴訟の煌めき

編著 髙部眞規子裁判官退官記念論文集 編集委員会 編
出版元 金融財政事情研究会 A5判 784p
発行年月日・価格 2021年12月28日発行 16,500円(税込)
 本書は,女性初の知的財産高等裁判所長を務めた髙部眞規子裁判官の退官を記念し,計45名の女性弁護士,弁理士,裁判官,特許庁審判官,研究者等による知的財産権訴訟に関する論考を収めたものである。特許権,商標権,不正競争事件,著作権におけるリーディングケースとなった判決や今なお論点が残っている判決が取り上げられている。第1章から第4章にかけては特許法,商標法,不正競争防止法,著作権法について各執筆者の論考が収められ,第5章には髙部裁判官による著作権(翻案)についての論考と自身の経歴の紹介,後進へのメッセージが収められている。
 筆者にとって髙部裁判官が裁判長として関与された事件で印象的なものとしては,二酸化炭素含有粘性組成物事件大合議判決がある。侵害者が侵害によって得た利益の額の算定方法及び覆滅(減額)の判断基準を示し,また,実施料率を決める際の考慮要素として侵害プレミアム(権利侵害者が実施に対して受けるべき料率が通常よりもおのずと高額になるとの考え)を示した判決であり,第5章において「主張立証すべき当事者も,判断する裁判所も,明確な枠組みの中で判断できるようにしたいと考え」て判示した旨が述べられている。第1章には,当該判決に関する論考「特許法102条2項,3項による損害賠償額の算定」も含まれているため,詳細はこれを参照されたい。
 読者が関心のある法域ごとに読むことを前提に内容が構成されているとは思うが,比較法的な要素や渉外的要素を含み,国際調和を検討するという観点から例えば以下の内容をまとめて読むこともお勧めしたい。第1章(特許権)の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」,「標準必須特許とライセンス交渉」,「発明者の認定」,第2章(商標権)の「デザイナー等の個人名とブランディングの課題」,第3章(不正競争)の「渉外的要素を含む営業秘密侵害事案における準拠法について」,「管轄原因事実と請求原因事実が符合する場合における国際裁判管轄の判断」,第4章(著作権)の「著作権および著作者人格権の侵害に関する準拠法」,「適法な「引用」の要件,フェアユース」である。
 各法域に精通している読者は少ないため,通読及び理解は時間的にも能力的にも一筋縄ではいかないと思うが,馴染みのない法域の著名な判決や論点を知る良い機会になる。従来重要視されている特許法,商標法だけでなく,今後のビジネスの変化(サービス化,AI活用)や協業の時代においては不正競争防止法や著作権法も重要であり,そのためにも本書は有益である。タイトルを見て面白そうな論考から開始し,読破を目指してもらいたい。

(紹介者 会誌広報委員 T.K.)

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