新刊書紹介

新刊書紹介

ハーグ国際意匠制度

編著 大熊雄治 瓜本忠夫 ヴァンワウ雅美 著
出版元 発明推進協会 A5判 400p
発行年月日・価格 2021年11月 3,850円(税込)
 「意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ協定」(以下「ジュネーブ改正協定」という。)が2015年5月13日に発行し,同日に平成26年改正意匠法が施行され,ジュネーブ改正協定に基づき,複数国に対して意匠を一括出願するための規定が整備された。施行時には,ジュネーブ改正協定の締約国がヨーロッパ諸国中心であったが,2022年4月現在で中国,ベトナム,シンガポール等を含む75カ国が締約国となり,日本企業が今後積極的に国際意匠出願を活用しようという機運が高まっている中で,ハーグ国際意匠制度を詳細に解説したのが本書である。
 本書の前半,第Ⅰ部では,ハーグ協定とジュネーブ改正協定の概要を,条約締結までの経緯から,ハーグ協定の概要,ジュネーブ改正協定の概要,そして日本における国際意匠登録出願の取り扱いについて詳細に解説されている。恥ずかしながら私としては,平成26年改正意匠法改正があったという知らせを受け,ハーグ国際意匠出願が可能となったという程度の認識しかなく,そもそもハーグ協定やジュネーブ改正協定について全くの見識がなかった。第Ⅰ部を読むことで,ハーグ協定とジュネーブ改正協定との関係や,ジュネーブ改正協定とパリ条約,TRIPS協定との関係が理解できる。また,ジュネーブ改正協定の条文,共通規則の条文並びに実施細則の条文を逐条的に解説している。本書では,単に1条から順に解説するのではなく,締約国となる資格や出願人の資格等,関連する項目に整理し,ジュネーブ改正協定,共通規則と実施細則を並び替えてまとめて解説しており,それぞれの項目について読者が理解されやすいように工夫されている。
 後半の第Ⅱ部では,ハーグ出願実務について,こちらも詳細に解説されている。単に出願手続きの流れを説明するだけでなく,願書などの書面の書式,オンライン出願の方法やWIPOが提供する意匠データベース等,各項目について余すことなく解説されている。また,オンライン出願方法や意匠データベースについては画面コピーを用いて説明がされており,本書を見るだけで操作することが可能なほど詳細に説明されている。
 全般的に本書は,至る所で図表を用いていたり,改正協定,共通規則と細則規則を異なる模様の枠で囲んでいたりと,読者にハーグ国際意匠制度を理解してもらいたいとの著者の熱意を感じる構成となっている。このように,本書はハーグ国際意匠制度を制度および実務の両方について詳細に解説した初めての解説書であり,企業知財部のみならず,特許事務所や弁理士試験に臨む受験生にとっても,持っておきたい書籍である。

(紹介者 会誌広報委員 H.N)

トラブルを防ぐ 著作権侵害の判断と法的対応

編著 南部 朋子,平井 佑希 著
出版元 日本法令 A5判 336p
発行年月日・価格 2021年12月発行 3,300円(税込)
 仕事柄,しばしば社内の他部門より著作権に関する相談を受ける。例えば「ウェブサイトやパンフレットに自社製品の写真を掲載しようと思う。当該写真は○○で入手したものだが,著作権法上問題はないか」といったものである。著作権法に関する基本書を一通り読んでいても,これらの問いに自信をもって回答することは意外と難しい。本書は企業の著作権担当者向けに,日常業務における著作権案件を想定した内容となっている。
 本書は二部構成となっている。第1部の「著作権の基本的知識」では著作権法の内容が確認的に記載されている。初級者から中級者クラスを意識したとの事であり,筆者も認めている通り,同法について一定の知識がある者にとっては物足りなく感じるかもしれない。一方で,企業内で実務担当者がよく受ける質問である製品の写真や取扱説明書の著作物性など,企業実務で問題になりやすい論点を,豊富な裁判例を基に手厚く解説している。裁判例のため,いずれもなぜ著作権侵害が成立するのか,あるいはしないのかといった理由が論理的に記されている。この部分を読み込むだけでも,社内各部門からの問い合わせに対して,論理的な回答を行う力が鍛えられるだろう。
 第2部では,第1部における著作権法の基本的事項を踏まえて,実際に著作権案件に接した場合に,どのような順序で,どのように侵害か否かを検討すればよいかが示されている。著作物を利用する立場から見ても,他社の著作権を侵害しないためにはどのように考えればよいかも,この点の裏返しのため,基本的には同じフローで考えることができる。一方で,著作権を利用する側の立場にとっては,適法に利用するためには狭義の著作権だけではなく,著作者人格権やみなし侵害,著作隣接権まで全ての権利を考慮しなければならない,と説く。また,実務に携わっているとしばしば見かける,プレゼン資料にアニメのキャラクターを登場させたり,関連する新聞記事を複製して関係者に配布したりする事例の回避方法も記されている。すなわち「なんとなく」での利用を見直したうえで必要性を再考するよう諭すことと,著作物を利用せずに想起させること,リンクやインラインリンクを活用することによって目的はおおむね果たせるとしている。自社内でもこれらの事例は稀に見かけるので,啓発活動を行う上での参考にしたい。
 前述の通り,企業における著作権問題は,学者が書いた基本書を読んでも応用できない部分がある。実務との乖離に悩んでいる担当者は,本書を手に取ってみてはいかがだろうか。

(紹介者 会誌広報委員 K.I)

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